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プロローグ
聞こえる雨の音。
雨は無慈悲に、ボクの身体を叩く。
ボクは地面に倒れている。
だが、地は血で染まっている。
紛れもないボクの血で……
「あぁ、月が綺麗だなぁ…」
天を見上げ、そんな事を呟いてみる。
すでに両の目から見える世界は霞み、月はぼんやりとした輪郭しか見えない。
それは『確実な死』からの逃避でしかなかった。
死をもたらす者が、一歩、また一歩と近づいてくる。
鼻息荒く、紅い眼を細めながら歩を進める異形の者。
視力が無くなっている所為か、不思議と先程まで感じていた恐怖はない。
異形の者は、その大きな手でボクの頭を掴む。
気が狂ったのか、ボクは口元に笑みを浮かべていた。
手に力が込められ、凄まじい痛みが奔る。
意識が遠退く最中、最後に浮かんだのは。
あの不思議な少女の優しい笑顔だった……