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第8話「魔王としての自覚を持った俺は首脳会談をする」

 数日後、手紙の返事を待たずに相手側の使者がやってきた。


 手紙には数日以内に使者を送ると書かれていた。こちら側に拒否権はないということか。強国らしい上から目線の手紙だったがまあいい。


 ドワフノスブルク王国の使者は意外にも俺たちと同じ悪魔だった。同じ種族の方が親しみやすいと思ったのだろうか。


 だが普段は人間の姿だ。それとも俺に合わせてくれているのか?


 黒を基調としたドレス姿でドリルのような赤髪だ。細身で背は小さく大人しそうな印象だ。右肩には小鳥を乗せており、彼女とはとても仲が良さそうだ。


「ごきげんよう、魔王ルシフェルノ」

「お、おう。あんたがドワフノスブルク王国からの使者か?」

「いかにも。私は魔王ゲルドワ様の配下にしてドワフノスブルク軍の将軍、フラウィーと申します。1つお伺いしますが、あなたは何故人間の姿なのですか?」

「この姿が1番しっくりくるからだ」

「人間ごときの姿ではなめられてしまいますよ」

「俺の勝手だ。あんたはそれを言うために来たんじゃないだろ」

「ええ、そうですとも。同盟の話でしたね」

「で? 具体的にどんな同盟がしたいんだ?」


 俺が魔王の玉座に片肘をつき座りながら尋ねると、フラウィーはニヤリと不敵に笑い、あからさまに何かを企んでいそうな目を細めて口を開いた。


「この国を魔王様の保護下とし、平和を保証する代わりに、我が王国に毎月上納金を収めていただきたいのです。魔王様もさぞお喜びになられるでしょう」

「上納金だと。どういうつもりだ?」

「この世界は争いが絶えないでしょう。しかしながら、魔王様の保護下で平和を維持できるのであれば安い物かと」

「ふーん、それは悪くない――」

「ちょっと待て。それでは事実上の配下ではないか」


 そばにいたデビロードが激怒した。普段は大人しい奴なだけあってこの時は迫力があった。


「デビロード、どういうことだ?」

「彼女の要求は軍門に下れと言っているようなものです。ドワフノスブルク王国は隣国に平和と引き換えに法外な上納金を支払わせることで有名です」

「そうか。上納金なしでの同盟じゃ駄目か?」

「駄目です。同盟をするからにはお互いにその対価を与える関係でなくてはなりません」

「だったらどっちかが困った時に手を貸すという形でいいんじゃねえか?」

「――魔王ルシフェルノはもう少し聡明な方だと思っていましたが、そうではなさそうですね」

「貴様っ! 魔王様を侮辱するとは言語道断。次言ったらその首をゲルドワのもとへ届けるぞ」

「まあ待て。まずは食事でもしていけ」


 ここはまず料理で場を和ませる必要がある。


 今やうちには料理を習得しているシェフがたくさんいる。


 最近習得させた豚の角煮でも食わせてやるか。


 俺たちは使者と共に食事をとり、向こうにはないであろう豪華な料理にその目をキョロキョロとさせながら初めてパーティに来た人のように困惑している。


「この豚の角煮というプルプルとした肉ですが、本当に美味しいのですか?」


 フォークでツンツンと皿に入った豚の角煮をつつきながらフラウィーが言った。


「ああ、今や帝都の名物と言っていい。ここの豚は本当に美味いぞ」

「……まあいいでしょう」


 そう言いながら彼女が豚の角煮を口の中へと運んだ。


 パクッと一口食べた時から彼女の顔色が変わった。まるで恋する乙女のようだ。やはり彼女も惚れてしまったか。この濃厚で美味い味に。


「こ……これは……美味しいなんてものじゃない。どうやってこんな味のものを作ったのですか?」

「教えてほしいか?」

「是非お願いしたいわ」

「そーだなー、そっちが対等な条件で同盟をするというなら考えてやってもいい」

「なっ、交換条件っ!?」

「同盟ってのはお互いにその対価を与え合うものじゃないと駄目なんだろ?」

「……」


 かなり思い悩んでいる様子でフラウィーが頭を抱えた。


 そりゃ今までに食べたことのない最高級の味を口にしたら悩むわなー。


「そっちの魔王に伝えておけ。今度来た時にいい知らせをくれたらレシピを教えてやる」

「なるほど、それがそちらの答えであるか」

「「「「「!」」」」」


 さっきまで大人しくフラウィーの右肩にとまっていた小鳥が渋い声で言った。


「話してもよろしいのですか?」

「ああ、構わん。それにワシも食べてみたいからな」


 すると、その小鳥がジャンプし、獰猛で屈強な上に王冠まで被ったドワーフの姿となった。


 まさかこいつが魔王ゲルドワか?


 随分とでかいな。さすがは魔星で1番の勢力を誇る国家の魔王なだけあってオーラが全然違う。魔王のオーラを完全に隠しきっていたし、ずっと偵察されていたわけか。


「あんたが魔王ゲルドワか?」

「いかにも。ワシもその肉をいただこうかの」


 そう言いながらゲルドワが近くにあるフォークを持ち、豚の角煮を刺して口へと運んだ。


 口に入れた瞬間、とんでもない感覚に魅せられたゲルドワが嬉しさを露わにするように唸った。


「うおおおおおおっ! こっ、これはっ! これは美味いっ!」

「だろ? うちの料理は世界一だ」

「こんなにも美味い料理を作れる国家がすぐ目の前にあるとは、なかなかの脅威である」

「別にそっちが手を出してこないならこっちからも手を出すことはねえよ」

「ふふふふふっ! ふはははははっ! ならば我らもそうしようではないか」


 上機嫌な顔でゲルドワが言った。


 その豪快な口ぶりと闊歩は俺たちを微塵も油断させてはくれなかったが、案外話し合えば分かる相手であることを確信した。


 昔こんな上司いたな。ちょっと怖いけど仕事ができて、職場になくてはならない上司と以前一緒に仕事をしたことがある。今思うと、俺が勝手に恐れていただけなのかもしれん。


「じゃあ……」

「ああ、対等な条件での同盟をしようではないか」

「それはいいけど、何で小鳥に化けるなんて手の込んだことを?」

「お前たちを試すためだ。フラウィーに挑発的な言葉を使わせたのはわざとだ。周囲の者たちは怒り狂って戦争を仕掛けんばかりだったが、お前は常に冷静だ。ワシは相手のトップの器を見ておったのだ。同盟に値するかどうかの器であるかをな」

「本音を聞き出す目的もあったんだろ?」

「まあな。若き魔王よ、何故ワシが領土を広げているか分かるか?」

「世界征服のためか?」

「それもあるが少し違う。ワシはこの世から戦争をなくしたいのだ。そのためには魔星にある全ての領域を支配する必要がある。たった1つの超大国による平和だ」

「超大国による……平和」

「そうだ。この世界には魔性以外にも様々な星がある。その星々には我々を超えかねない存在がまだまだたくさんいることが分かった。そいつらが万が一にも侵略をしてこようものなら、我々はそれに立ち向かう義務がある。国家同士で争っている場合ではないのだ」


 なるほどね。ゲルドワの言うことにも一理ある。


 こうしてみると、何だか幕末の日本のように思える。外国からの侵略の魔の手が迫る中、徐々に権威を失っていく幕府を新政府が倒し、新しい世を作っていく様を教科書で見た。


 魔星の外ってことは宇宙人ってとこかな。


 どこぞの映画では宇宙人の侵略によって地球人全員が同盟状態となり、地上からは全ての敵対状態が収まったとか。


 ここもいずれはそうなるのかもしれないな。


「分かった。そういうことなら、うちの周辺の国家には気を配っておくよ」

「物分かりのいい魔王で安心したぞ。是非ともレシピを教えてもらいたい」

「後でシェフに頼んで作らせておくよ」


 こうして、俺は豚の角煮のレシピを対価に強国との同盟を締結したのであった。

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