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第4話「魔王は畜産のために動物を飼う」

 また数週間後の時が過ぎた。


 衣食住の問題は解決しつつあるが、食料を確保する手段が狩りだけなのが心配だ。


 狩りの対象がいなければその日は飢えをしのげない。帝都以外の領域内にも同様の命を下したが、まだまだ実行には移せていないようだ。


 そこで俺は腕を組み目を瞑りながら考えた。狩り以外で食べていく手段を。


 考え抜いた最適な答えがこれだ。


「魔王様、『畜産』とはどういうものなのですか?」


 マリアスがその青く長い姫カットの髪をなびかせながら言った。


 彼女は人間たちの長になってからまだ間もなかった。だがデビロードよりも彼女の方がずっと執事に向いていると感じている。スラッとした体つきに赤と白を基調としたコルセットやブラウスの服がとてもよく似合っている。


 少し大きめの胸に思わず見とれてしまった。


 顔も凄く端正で俺好みだし、こういうクールビューティーな女性がそばにいると何だか落ち着く。


「狩猟よりもずっと簡単に食料を確保する手段だ。みんなは食料を確保する手段が狩りをするだけだと思ってるだろ?」

「それはそうですけど、狩猟以外にどんな方法があるんですか?」

「動物を家で飼って、その動物に子供をたくさん産ませて食料にする。牛だったら牛乳、羊だったら毛皮、鶏だったら卵が採れる」

「それ……凄くいいじゃないですか! 牛乳も毛皮も卵もなかなか手に入らない貴重品ばっかりですけど、それなら自前で生産できますね」


 ティニアが満面の笑みを浮かべながら言った。


 緑を基調とした可愛らしいフリルの服がよく似合っている。


 調子の良い時はエルフ特有のとんがった両耳が上に向かって立っている。逆に調子が悪い時は重力に従って垂れ下がっているため、彼女のコンディションは耳を見れば分かる。


「そうですね。その方法ならわざわざ狩りをしにいかなくても食料を確保できます。わたくしは是非とも賛成したいところですけど、動物を家で飼うってどうするんですか?」

「まずは動物が逃げないように柵を設けて、そこに閉じ込めるんだよ」

「それならあたしに任せてくださいよ!」


 意気揚々と手を挙げたのは頭から生えている猫耳が特徴の獣人、タルクだった。


 男勝りな筋肉質のボディに堂々とした張りのある巨乳に未開の部族のような露出度の高い服を着ているが、これは彼女のリクエストだ。


 元々は全員原始人のような茶色くてボロボロの服を着ていたが、今となってはとてもそうは思えないほど可愛らしくなっている。


「別にいいけど、外で戦えんのか?」

「魔王軍の兵士として働こうと思ったんですけど、貴族悪魔じゃないからと拒否されてたんですよ。でも魔王様のお許しがいただけるなら喜んでお供しますよ」

「それはいいけど、あくまで動物を飼うためだから、無傷の状態で捕獲する必要があるぞ。ある意味倒すより難しい条件だ」

「簡単ですよ。服従魔法を使えばいいんです」

「服従魔法?」

「ご存じないんですか? 動物を服従させる魔法ですよ。遠くまで早く移動したい時に、よく野生の馬を服従させていました。馬を探すのに苦労するんですけどねー」

「だったら馬も捕獲して家で飼えばいいだろ」

「あっ、確かにそれなら便利ですねー」


 こいつら狩猟は知ってるのに畜産は知らねえのかよ。


 まあいい、とりあえずこいつらを連れて食用の動物を何頭か連れて帰るか。馬だったら帝都内でタクシーとして使えるし、使える者は全部使おう。


 俺は転移魔法を使い、ここにいる全員を帝都の東門へと一瞬で移動させた。帝都の周囲は外敵の侵入を阻止するために黒い煉瓦の城壁が築かれている。魔王城はこの帝都の中央に位置するわけだが、何故みんなこの建築仕様をマネしなかったのか、それが実に不思議だ。


 強く念じるだけで好きな魔法が使えるから呪文もいらないのが便利すぎる。転移魔法は一度行った場所であれば一瞬で移動できる反面、知らない場所には一度赴かなければ使えない。だがそんなことはどうでもいい。今やるべきことをやらないと。


 帝都から少しばかり東へ行くと、そこには緑に包まれた森があった。


 ここは多くのモンスターや動物が生息する『グリューンの森』と呼ばれる場所だ。


 奥の方へ行けば海もあるという。


 帝都は内陸だから水資源の確保が最重要課題だ。普段は山から流れてくる川の水や空から降ってくる雨水を浄化魔法で真水に変えてから樽に詰めて使っているわけだが、そのやり方ではいずれ限界がくるだろう。


 そうなる前にこっちの課題もどうにかしないとな。


 最低限の生活能力はあるようだが、あまりにも知識がなさすぎる。だが狩猟や動物の扱いには慣れているらしく、それなりのたくましさを持ち合わせている。


 この世界ではモーギューという牛が最も標準的な牛らしく、背中に丸みを帯びた白と黒の模様が特徴の牛である。地球の牛とよく似ているが相違点もあり、頭から生えている大きく立派な2本の角が鹿の角のように枝分かれしていてとても大人しい動物だ。


 そしてバホースというこの世界で最も標準的とされる馬も捕獲の対象だ。


 魔王軍には騎馬隊というものがなかった。全ての兵がただの歩兵だ。これでよく制圧できたもんだと思うが、このスティバーリ半島を征服できたのはかつての魔王によるところが大きいのだ。歩兵はただ占領の駒として使われていただけだった。


 結論を言えば、かつての魔王にとって自分以外の存在などどうでもよかったわけだ。


 破壊に次ぐ破壊ばかりで人々が恐れおののくしかなかったのだとしたら、まともに文明が育たなかったことにも説明がつく。そんな生きるか死ぬかっていう状況で文明を育てるなんてことを考える余裕はない。


「魔王様、見ていてください」


 タルクが手の平をモーギューの額に当て、目を瞑りながら強く念じた。


 すると、強烈な魔力反応がモーギューの体内を駆け巡り、一瞬だけタルクとモーギューの意識が一体化したように感じた。


「おすわり」


 タルクがモーギューを見つめながら命令すると、速やかに命令通りに4本の足を折り畳み地面に座った。ティニアもマリアスも目を大きく見開いている。


 この2人も基本的な魔法は使えるようだが、得意な魔法と苦手な魔法は種族や個人によってバラバラであるとのこと。


「すげえな」

「服従魔法は自分よりも魔力ランクの低い相手にしか使えません。それに習得するのにかなり時間がかかると思われますが――」

「おすわり」


 俺はタルクの説明も聞かずにバホースの額に手の平を当て、服従魔法をかけ命令を下した。


 バホースもタルクの目の前にいるモーギューと同様に足を折り畳み地面に座った。やっぱりそうだ。大半の魔法は使えるみたいだな。


「す――凄い。さすが魔王様ですね」

「私でもなかなかうまくいかないのに、一度見ただけで完璧に使いこなすなんて」

「よし、全員で捕獲を始めるぞ」

「「「はいっ! 魔王様!」」」


 俺たちは牛と馬を始めとした畜産に必要な動物を服従魔法で大人しくさせて捕獲しまくった。というか服従させた後は勝手についてきてくれた。


 魔王城の周囲には広い庭があったため、そこを畜産を行う場所として作り替えた。柵を設けて逃げないようにした後で平民たちを雇い、貴族から順番に畜産のやり方を教え広めさせた。


 俺が職を転々としていた時、たまたまやっていた畜産の仕事がこんなところで役立つとは思いもしなかった。ここで動物の肉や副産物などを作り、これを街の中で売れば国の収入源になる。我ながら頭の良い方法じゃないか。


 これが一段落したら、次の課題を与えてやるか。

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