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第1話「魔王に転生した底辺労働者は動揺する」

初めての異世界転生ものです。

よろしくお願いします。

 ――ここはどこだ?


 妙な感覚のまま、俺は目を覚ました。


 目の前には大きな城の内部のような光景がくっきりと映っており、天井には魔法による灯りがいくつも浮いた状態のまま飾られている。


 ふと、両腕の表裏を見ると、力強く大きめでゴツゴツした腕を持っている自分自身に驚いた。


「魔王様、お食事の用意ができました」

「「「「「魔王ルシフェルノ様、万歳」」」」」


 誰かが若々しい青年のような声で話しかけてきた直後に数十人程度の声が響いた。


 気がついてみれば、俺の目の前には頭から2本の角が生えた禍々しく怖そうな連中が原始人のような黒いローブのような衣装を身にまとい俺の前にひざまずいている。言葉は通じるらしい。


 俺の前には大きなプレートがあり、その上には自然から採れた数々の木の実、野菜、動物の肉が揃っていた。そのどれもが多種多様の色彩を帯びていて眩い光沢を放っている。


 ――もしかしてこいつら、下級悪魔か?


 アニメとかマンガとかで見たことがある。確か魔王の手下で人々を恐怖に陥れている野蛮で暴力的な連中だ。よく勇者とかに序盤でやっつけられたり、魔王に勇者の存在を報告したりするような雑魚キャラの役割だ。


 とりあえずこいつ以外全員下がらせるか。


「お、おう。ご苦労であった。他の者は下がってよい」


 俺は慌てて魔王らしからぬ態度で返事をしてしまった。


 ぞろぞろと他の悪魔たちが去っていく中、1人残った比較的立派な格好をした下級悪魔はいつもと違う魔王の様子に疑問を浮かべながら首を傾げている。だが今すぐこの状況を受け入れろと言われても無理な話だ。


 間違いない。俺は魔王に転生したんだ。名前は確かルシフェルノだったな。


 俺の本名は脇谷翔太(わきやしょうた)。40歳。信じられないかもしれないが、俺はついさっきまで日本に住むごく普通の底辺労働者だった。


 超がつくほどのブラック企業で知られる居酒屋グループのアルバイトだったが、ここ数日間まともに寝ていなかったため、家に着くや否やそのまま力尽きるように眠ってしまった。


 気がついてみれば、この身の毛もよだつ真っ黒で豪華な衣装を着た禍々しい魔王の姿だ。どうやら前世の俺はそのまま死んでしまったらしい。あっけない人生だった。


 例に漏れず俺の頭からも2本の角が生えてるし、まずはここの状況をよく知る必要があるな。


 魔王の世話役であるこいつは名をデビロードという。普段は粗暴狼藉(そぼうろうぜき)な魔王に振り回されている苦労人であったそうな。


 そしてこの国は『デビルインフェルノ帝国』と呼ばれている。


 まだ誕生したばかりの国家であるため、所々不備がたくさんあるという。


 俺は魔王城の外へ出てから街を見学することに。


 街には多くの人間、悪魔、獣人、エルフ、ゴブリン、リザードマンといった様々な種族が暮らしているが、生活レベルが恐ろしいほど低く、魔王城以外で立派な建物は1つとしてなかった。


 聞けばこの世界には魔法とそれを使うための魔力があるそうな。だが大陸を手中に収めるほどの強力な魔力を使える存在はかなり限られているのだとか。どうやら魔力ランクが高いほどレア存在になるようだ。


 上から順に、Sランク、Aランク、Bランク、Cランク、Dランク、Eランクという風にランクづけされており、この世界の約7割の生物がEランクである。


 CランクからEランクにあたる下位ランカーは魔法こそ使えるものの種類が少なく、魔力が少ないため使いこなすのが難しい。


 戦闘で経験値をためればランクアップできるらしいのだが、そもそも戦闘に参加できるほどの戦力になりえる者はSランクからBランクまでの上位ランカーの大部分を占める貴族たちに限られていたのだ。


 帝国内でも強力な魔力を持つ者は僅かであり、かつての魔王ルシフェルノは他を圧倒するほどの膨大な魔力を使い、あっという間にここ一帯を征服してしまったというのだから恐ろしい。無論、魔力ランクは文句なしのSランクだ。


 どうやら俺たち以外に戦闘力を持った存在は帝国内にいないようだ。Aランクの者は魔王城に、地Bランクの者は地方の領主となっているが、主君が住む魔王城に移住できることが何よりの栄誉とされている。


 ――ということは、全部俺の好き勝手にやっちゃっていいってことだよな?


 俺はニヤニヤとした表情を崩せなかった。


「魔王様、外へ出かけるのでしたら変身してからがよろしいかと」

「変身? 何のことだ? どうやってやるんだ?」

「昨日まで当たり前のようにやってたじゃないですか。お戯れはさておき、まずは誰かに見つかる前に人間の姿にでも変身してはいかがかと」

「それはいいけど、大丈夫なのか?」

「少なくともここにいる者は魔力感知で魔王様であると分かります。しかしながら外では多少無礼な態度で接する者もいるかと思われますが、元々そういう連中ですから、どうか寛大なお心でお許しください」

「分かった。そうするよ」


 あっさりその提言に従う旨を伝えると、デビロードがきょとんとしたまま首を傾げた。


 もうお前が知っている魔王はここにはいないんだぜ。


 俺は目を瞑り、トップアイドルグループのリーダーの全身をくっきりと思い浮かべた。


 すると、俺の全身を黒い影が包み込み、その姿が創造した通りの姿へと変わっていく。


 肩に届かないくらいの黒髪ショートヘアーに加え、絵に描いたようなスレンダーで筋肉質のモデル体型かつ端正な顔立ちの姿へと変わっていった。服装は咄嗟に想像した派手なアイドルグループの専用服が自動的に作られていた。


「おおおおおっ! 魔王様……そ、そのお姿は?」

「あー、これ? 一度こういうイケメンになってみたかったんだよねー」

「い、イケメン? ……さようでございますか」

「よし、早速街まで行くぞ」


 俺はそう言いながら帝都の街がある方向へと闊歩する。


 デビロードはさっきから完全にドン引きしている……まあいいや、なんかさっきよりも動きやすいし、やっぱトップアイドルなだけあってオーラが違うな。


 もしかして俺――何でも魔法使えるんじゃね?


 できることは全て試してやろう。何でもできるなら分析魔法も使えるはずだ。まずは街まで歩きながらこれで俺自身の特徴を調べてみるか。


 すると突然、俺自身のステータスから特徴までもが詳細に書かれているホログラムのようなプロフィール表が俺の脳内に出現した。


『魔王ルシフェルノ。全名:インペラートル・カイザー・ルシフェルノ・ディーウィー・フィーリウス・オーガスタス。


 この魔星(ませい)における最強クラスの悪魔にしてデビルインフェルノ帝国の魔王。生まれながらに無尽蔵な魔力を誇り、多くの悪魔たちを従え、自身の魔力を背景とした圧倒的軍事力によってエウロピウス大陸のスティバーリ半島を瞬く間に制圧した。


 この世界に存在する大半の魔法を使うことができ、あらゆる攻撃魔法、防御魔法、補助魔法までをも完璧に使いこなすことができるなど、その禍々しい見た目に似合わずかなり器用である。性格は至って残忍であり、敵対した者に対しては情け容赦なく皆殺しにしてきた。


 戦闘力は魔星トップクラス。魔王の力を手に入れたことで無限の寿命までをも手に入れた。普段は国民に課した重税をふんだんに使いながら贅の限りを尽くしている。


 本当はその膨大な魔力によって食事も呼吸もなしで生きられるのだが、本人は征服した土地の飲食物を戦利品として食べることを喜びとしている』


 食事いらねえのかよ。さっき食っちまったけど、それだったらみんなに分けてやりたい。


 俺は街を偵察するべく、帝都ロマヌスの中心地へと足を運ぶのだった。

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