11.o(•_•)o!
_.ポトッ
村の名前は"コールロア"村。辺境の田舎村かと思ったら、出入り口はコンクリートの壁に囲まれて重厚な城門を構えた物々しい雰囲気だった。門は吊り下げ式で、幾本もの鎖が軋む音と共に分厚い門が巻き上げられる。そして人一人が屈んで通れるだけの隙間が開くと、そこから門番と思しき兵士がスルリと現れた。
「隊長! ご無事で何よりです。所でこの者達は?」
「将来有望な若き医者の卵とその護衛達だ。難民用書類と滞在棟の大部屋の準備をして置いてくれ」
「大部屋ですか? 了解しました」
門番が踵を返して門の向こうへ戻ると、短いブザー音が鳴った後で一気に門が跳ね上がった。
「あの包帯顔でスルーされたぞ」
「あの人職場では避けられてたりして」
「あの格好ならぼっちでもしょうがない」
「貴様ら…」ピキ
「いえ、隊長は四六時中マスクを着けてらっしゃるので素顔があんなのでも不思議では無いんです」
「俺も初めて見ました。同じ人で安心しました」
「貴様らぁ……」ピキピキ
門の奥は薄暗いが乗り合い馬車が2つ並んでもゆとりのある大きなトンネルで、出口も同様の門で塞がれている。両側の壁には横穴があり、そこにも鋼鉄の扉が嵌め込まれているので閉じ込められれば簡単には出られそうにない。
全員が門の内側に入ると、門はゆっくりと閉まり出した。出口の門は閉じたままだ。
「一度門を閉め切ります。そうする事で反対側の門を開く事が可能になります。元は亡国の重要施設を守る城塞でしたが、竜に城を更地にされたり資源の枯渇で放棄されたのを王の直轄領として再利用しているのが現状です。因みに奴隷の買い占めを最初に発案したのは先代の王で、父王の意志を継いだ現王が実行に移しました」
つまり現在も王命で仕事をしているから、お前らそこの所を肝に銘じておけ、と釘を刺されたのだ。
やけに装備が充実していて練度も高い事は気になっていたが、そういう事であるならば納得はいく。金もコネも戦力も、拠点すら万端なのにやる事が奴隷取引と情報収集なのは勿体無いと思うが。
それは理解した上で一つ気になる事がある。
「竜が出るんですか?」
「安心して下さい、近隣でここ数十年間の出現記録はありませんよ。例え出現しても迎撃設備でぶっ殺せます」
「へー」
「備えが万全なのは結構だが、門番が表に居ないのは怠慢じゃないか?」
「いいや、理由はあるが後で依頼と一緒に教えてやる。門を開くぞ」
外門が閉じ切ると内門がゆっくりと開いていく、地面から拳一つ分だけ開いた所でグレイシャードが手を差し込んで力任せに持ち上げた。
「えー開くってそんな感じ?」
「老朽化でこっちの門のカチ上げ機構が使えないからな、あっちの門ではやるなよ、壊れるからな馬鹿力女」
「ム(`・A・´)」
門の向こう側は城こそ無いが、綺麗に舗装された大通りを挟んで1階に商業テナントの入った5階建の団地が2つずつ並んでいる。その手前、一番門に近い場所は3階建の公民館か警察署の様な建物が構えていた。
通りの外れには草木一本無い更地が広がっているが、ポツリポツリとプレハブ小屋が点在しており、更にその周囲に大型のテントが設置されて炊き出しを行っている。並んでいる人々はみすぼらしい格好だから買い占めたという奴隷だろう。
「手前のあの詰所です。諸々の手続きもあそこで出来ます」
グレイシャードに付いて歩く際に村人の様子を窺うと、表に出ている人は漏れなく異様な殺気を帯びているように感じられた。
この様子にカールが呟いた。
「これは随分と物騒な村人だな」
「ああ」
「でも十数人に大怪我を負わせましたからね、先に戻った人が何か言いふらしたんでしょうか?」
「んーでもあの目付きは『ぶっ殺してやる』って感じがするんだけどなー? それ程の事だったか?」
「気にするな、弁明の機会はある。それに関しても依頼と共に説明してやる」
『カールで話し出すと特徴無いからアーサーとかとややこしいね』
スカッ、ビュビュッスカッバババッスゥー……
「何をしている? しかし戯れるにも程があるだろうに、何なんだお前ら」
「お疲れ様です!」
「おう、お疲れさん」
「やっぱりあの包帯顔でもスルーされるんだ」
「やっぱりあの人職場では避けられてたりして」
「やっぱりあの格好ならぼっちでもしょうがないな」
「煩いぞ貴様らぁ!!!」