77.(-_-;)俺の残高ちょっと減ったか?
カーマイン団長とその側近に案内された先は、巨大な防壁に設置された昇降機だった。防壁は遠目にはただの壁だったがそれは遠近法の目の錯覚で、砦の防壁の何倍もの大きさの壁に等間隔で何台もの昇降機と階段が設置されている。
3人は大型の昇降機に乗り込んだ。100人は余裕で乗れそうだが簡素な造りで、鋼鉄の足場と最低限の鉄柵の他には四隅に吊られたケーブルしかない。
そこにたった3人だけであるのでうるさい稼働音の割に酷く殺風景だ。そんな中で最初に口を開いたのは団長だった。
「さてアーサー君、君はこちらに赴任して日が浅いだろうから質問するが、この神域での最終目標が何か知っているか?」
「神域の怪物を駆逐することでしょうか、国家の未開拓地域を制圧して領土内部の空白地帯を埋めるのが目的だと記憶しているであります」
アーサーは無礼がないよう言葉に気をつけながら、アイズマン卿との面談を思い出しつつ答えた。と言ってもつい最近の出来事なので考えるまでもない。
「ふむ、よろしい。模範的な一般解答だ。だがここは軍事攻略及び政治的な目的も考慮してもらいたい。説明しろ、パール」
「ハッ」
短く応えて前に進んだのはアーサーよりも上背のある大男。パールと聞いて真っ先に思い浮かんだのはつるっ禿げのオニキスだったがアーサーは無表情を貫いた。
このパールは日焼け知らずの艶々とした肌を持ち、ツーブロックの髪を横に撫で付けた美形で、左耳に小粒の真珠を付けている。軍人らしく筋骨隆々で、一般隊員と同じ服装だがわざとなのか身体のラインがハッキリ分かるほどピチピチに着込んでいる。
そんな彼のアーサーを見る目は少々怪しかった。
「初めまして、私は騎士団長付き補佐官の"パール"です。
早速だが、貴方が知っておくべき事は2つ。一つ目に我々が今、この地上で行っている神域侵攻作戦は前半戦に過ぎない事。そして2つ目が、後半戦、神域の中心地に存在する迷宮を誰よりも先に休眠状態にさせる事だ。
神域を攻略するメリットは計り知れない、地上部の資源だけでも国家的財産になるが、君もこれまでに見ている、長大にして堅牢なこの防壁等、迷宮から得られる膨大な資源が有ればこそ可能なことだ。
現在、我が国で確認されている未踏破の迷宮は12ヶ所、その内規模が大きく神域に指定されているのは2ヶ所、そして過去に攻略された神域は全部で3ヶ所。
最初に攻略され後に都が築かれた火山の神域。
獣人の国々を吸収する切っ掛けとなった強力且つ巨大な魔獣が闊歩する巨獣神の神域。
鋼皇国との国交を結ぶ為に攻略された海神の神域。
火山の神域を除く、2つの神域を攻略したのは当時伯爵位だった貴族。後に侯爵領として我が国の重要な都市となった。
ここまで言えば我々の目的は理解出来るか?」
「伯爵様の出世の為に、ですね」
(^ ^)ニッコリ
回答を聞いて頷くパールに、アーサーは背筋の……主に下半身の凍る思いがした。何せアーサーが彼の顔を見る視界の下方でナニが膨らみつつあるからだ。
「あゝ良い声だ……こんなに元気の出る囀りは久しぶりだぁ……」ハァハァ
「辞めておけよ? ガッツの坊やと互角のお前では太刀打ち出来んだろう。そろそろ停止する、続きは上で話そう」
ガシャーンと大きな音を立てて停止した昇降機。安全の考慮されていない急停止で1mばかり浮き上がるも、3人とも何事もなかったように着地して歩き出た。壁の上部も規格外に広く、幅だけでコールロア村の村長の敷地が収まりそうだ。
そんな壁の上を数歩ほど進んだアーサーは、足裏の感覚で壁の内部が小細工無しに大量の鋼鉄で造られている事に気付いて、自然と口をついて質問をした。
「凄まじい質量の鋼鉄ですねー、一体どれだけの資材と時間が費やされたのでしょうか」
「ああ、この壁の建設はたった3日の突貫工事で、設備の設置も怪物を牽制しながらの急を要するものだったよ。今よりずっと危険な場所だったからね」
「み、3日……?!」
「あははは、ま、事前準備に1年以上は掛かっているがね、着工から完成までが3日くらいだ」
これには流石のアーサーも驚愕の表情を浮かべる。CBBの中で同じだけの材料は集められても、短期間で同じ物を作ることは不可能だからだ。
そしてアーサーはメインジョブの聖騎士の他に、サブジョブとして鍛冶師に就いている。作り手の端くれとして心から賛辞の言葉を伝えた。
「優秀な魔法使いと技術者が揃っているんですね」
「正確には、四つの砦のトップ達がお互いの実力を誇示する為に協力して造り上げたんだ。壁を埋める為の穴を掘った西のウールフュート伯爵、大量の鋼鉄を十分に赤熱させた北のインポート伯爵、赤熱した鋼鉄を適切な形状に加工して穴に設置した東のエフェト伯爵、そして赤熱した壁の冷却に南のベイバード伯爵、このたった4人が連携して出来上がった訳だ」
今度のアーサーは微妙な表情を浮かべる。『流石に尾ひれが付いているんじゃないの?』と言った表情だ。
「護衛として私もその場に居たがね、圧巻だったよ。伯父上は西の伯爵と共に絨毯に乗って移動して、何だったかな? 鋼を冷却するのに青空を使ったと仰っていたな」
「………」
青空、とはオゾン層を視覚的に表現した言葉だ。オゾンとはO3、普段呼吸で消費される酸素(O2)よりも高濃度の酸素。
赤熱した鋼鉄を酸で洗うことで強度を高める方法はあるが、液化していない気体のままでも効果があるのか? 爆発しそうだが……というか思った以上に科学が発展しているのかと考えていると、カーマイン団長からは訝しんでいると見られたようだ。
「信じようが信じまいが構わん。ただ伯爵様がスゴイと分かれば良いのだ。さあ、ここが本当の最前線、君には見えるか? あそこに突っ立っているモノが目標だ」
防壁の内側の縁に到達した団長が指を指す前方には、これまでに見たどんな建造物や大木よりも巨大だったであろう朽ちた大樹の残骸に所々新しい木々が生えていた。その朽木には防壁と同じくらいの高さの根っこが2つ地上に盛り上がって壁の内側を区切っていて、実際の広さよりも窮屈に見せていた。
アーサーが眼を凝らすと、太陽の光が差す朽木の根元に人型の何者かが背を向けて立っている。何者かは太陽の照りで輝いているが全裸という事しかわからない。
鞄から長距離狙撃用のスコープを取り出して見たアーサーはその姿をハッキリ確認し、全身に粟が立つのを感じた。
(S・G!?!)
スライム・ゴーレムとは、CBBがとあるゲームとコラボした際に登場した人型モンスターである。コラボしたゲームのプレイヤー達は大した相手ではなかったが、この人造人間の戦闘力は当時のCBBのトップ層でもソロでは勝率1割を切る強さだった。
「見えたか? アレが砦の最大の障壁となっている"門番"だ。神域には通常、2〜4体の門番が迷宮の入口を守護している。現状、他の砦も門番を突破出来ずに手を拱いているようだ」
「………………………………まぁ、良いでしょう。やるだけやってみます」
長い逡巡を経て返答したアーサーは、スコープを鞄に仕舞い、それから戦闘の準備を始める。熱々のお湯を入れて2分50秒、茹で汁を専用の鞄に捨てて大盛り焼きそばを食べたら、枕を敷いて横になる。
「オイ君、入念な準備は理解するが、寝ている暇を許可した覚えはないぞ」
「しかし団長、こういった温かい食事の後にはゆっくり休むと良いとは伯爵様も仰っておりましたし、効果も有りました」
ゴロン
「そうですよ。長年の懸念が解消されると思えば瑣末な時間です。ふわぁ〜」ブッ
「(#°曲°)………」ビキビキ
「団長、実力を見るまで我慢しましょう」
それからたっぷり30分後、起きたアーサーは怒る団長を気にも掛けずに準備を再開する。その頃には他の団員が集まっており、団長を刺激しないようにして遠巻きに整列していた。
ファサッ グッグイ ガチャガチャ ズボッ ジジ〜 シュボッ
最後の仕上げとばかりにタバコに火を点けたアーサーを見てカーマイン団長がドスの利いた声を掛ける。
「十分な時間を掛けただろう? それでは武器を抜いて我々に実力を見せてみろ」
「まあまあ慌てないで下さい。煙草だって薬効が有りますので、スゥ〜〜〜」
ミリミリミリミリミリ……
顔を上に向けて真っ直ぐ立てたタバコを一気に吸って灰のタワーに変える。じっくりと呼吸を止めて肺で味わいつつ、ゆっくりと吸い殻を携帯灰皿に運んでポトっと落とした。
「ぷぅ〜〜〜……では、参ります」ぴっ
「敬礼は結構だ。さっさと行け…………武器は?」
質問に応える代わりに兜を被って手ぶらで駆け出したアーサーは、防壁の縁から一直線に目標へと飛び出した。
瞬き一つもしない内に接敵して先攻を取ったアーサーは、空手チョップの一撃で背後を見せるS・Gを真っ二つに裂いた。
(;@ω@)>ちくしょー、じゃあCBB内での職業について説明しよう!
その6. CBBの職業について
( @_@)>さて職業とは、CBBで発現する様々な技能を獲得し易くする肩書きだよ!どんな技能も必要な行為をすれば獲得可能だけど、職業に沿った技能ならば通常より早く獲得したり、欲しいものが有ればそのヒントを貰えたりするよ!
(@∀@)>技能のヒントや必要なアイテムはNPCや次回説明する予定の職業組合で貰うんだ。場合によっては相手が居ないと獲得出来ないこともあるけど、そういったことが必要な相手を探す集会所をギルドが提供してくれるよ。
(@^@)>その他にも職業には下級・中級・上級のランクが有って、複数の職業に所属した上で幾つかのノルマを達成するとより上の職業にランクアップするんだ!上位の職業に就けば関連する下位のギルドに出入り出来るから、それまでの繋がりが切れてしまうこともないよ!
(^-^)>では次回は職業組合について説明するよ!お楽しみに!




