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C.B.B.NEW FACE  作者: 怠慢兎
第二章・神域攻略
74/83

72. \|||(°皿°)|||/ズボッ

 首を仰け反る程に巨大な樹木が密集して生えた樹海、そこにはブルドーザーで乱暴に舗装されたかのような道路が延びている。いくつもの足跡が残るような軟い地面の両側には砕け散った巨木の残骸や瓦礫、まだ青い葉が付いた枝には鳥の巣が引っ掛かったまま中の卵が砕け散っていた。


 天変地異に等しい破壊の痕跡は、奇跡的に直撃を免れた樹木以外の生命体をどこかへと追いやっていて不気味な程に静まり返っていた。


 そんな不自然な道路の終点で、30人程度の集団が整列し静かに待機している。集団の前に立つのは4人、無線機を背負った者とその受話器を手にした隊長、パイプを咥えて煙を吹かす男、そして同じくその隣で火の付いた煙草を咥えながら崖下を覗き込むアーサー・リッパースターだ。


 崖下からはゴォーーと大量の水が流れる音が聞こえる。


「……かなり深いし暗いし、靄も掛かって見えないが、デカい河が流れてるみてーだな」フゥー

「落ちるなよ? 上からじゃ分からんが底にはデカい魚の化石が大量に沈んでいて、鋭利な背骨や肋骨が急流と相まって泳ぐ者をあっという間にバラバラにしてしまうからな」プカー


 パイプ男の名前は"オニキス・ヴェルギリウス"。ブラック・ヴェルギリウス副騎士団長の実弟であり彼によく似た顔立ちを持つが、頭二つ分背が高く、線は細く(でもマッチョ)、そして眉毛を含めた一切の毛髪を除去している。

 本来であれば今回の作戦には参加しない筈であったが、歓迎会の試合や翌日のアーサーと伯爵の一件を聞いて無理矢理ついて来たのだった。


「そのバラけた肉片が下位の生態系を支える訳か、自然ってよく出来ているなー」ペー

「雨季になるとこの深さすら満ちて氾濫する事も珍しくない。だがこの河の下流こそがベイバード砦とそこに連なる下流域の町や村を支えているんだ」ペッ


 アーサーとオニキスが2人揃って唾を吐いた所で隊長が受話器を置いた。そして2人と整列する隊士の間に入って口を開く。


「さて、ここまで道中の瓦礫の撤去等ご苦労だった。だが! ここから先は神域の中枢。本番はこれからだ、気を引き締めてついて来い! マック隊は"渡河用車両大橋"の建設に入れ!」

「「「ハッ!!!」」」


 命令を受けた隊員達が無駄のない動きで準備に取り掛かる。そしてマック隊長は無表情でオニキスに向き直って言った。


「さて、急遽参加されたオニキス殿には改めて説明しておきましょう。我々の目的は十日前に神域での物資の調達及び調査に派遣された部隊の荷物を受け取り、共に帰還することが目的であります」

「うむ」

「しかしつい昨日、状況が少し変わり、神域の表層を突っ切れる道が現れました。これにより急遽、道の安全性の調査報告の任務が追加。そしてたった今完了。ついでに部外者の件も報告、貴方の事です」

「何ぃ?!」

「なんだアンタ軍人じゃねーのかよ?」


 アーサーが呆れるのは当然で、朝の出発から当然のように同行して来ていたからだ。だが思い返すと雑談をしてはいたが、隊長の表情はどこか物憂げなように思えた。


「輜重部門で提携している商会の会長だ。伯爵様と実兄殿以外にこの方を制御できる者が居ないので厄介なんだ」

「俺のことを厄介だと? 協力してやってる俺を? 砦の維持に出資している俺に対してなんだその口は!」

「あー、こりゃ確かに厄介そう。つーかこの見た目で商人かよ?」


 オニキスの態度や行動は自分勝手過ぎて擁護のしようが無いが、マック隊長の開き直りも相当なものだ。『上には報告したから、コイツの後始末なんて知ったことか』という態度が滲み出ている。


「俺が居なけりゃ余剰分の買い取りは出来ないぞ? どこの商会員がこんな生存競争最前線にまで出張って来る? ましてや神域に立ち入り商売が出来る者ぉぐぁ!!?」ゴン!!!


 ズザザザザザザガゴッーーーーーン!!!!


 一方的に話をしていたオニキスが突如ぶっ飛ばされる。そんな彼の立っていた位置には、よく見知った人物が立っていた。


「やあご苦労。弟が迷惑をかけていると聞いてやって来たよ。申し訳なかった。我、ブラック・ヴェルギリウスはこの通り謝罪する。そして弟は私が責任を持って連れ帰り、君達の邪魔もこれ以上させない、むしろ商会を使って協力させよう」

「お疲れ様です!! 副騎士団長殿!」カッ


 ブラック・ヴェルギリウス副騎士団長、彼は何の前触れもなく突然現れたがマック隊長は当たり前のように姿勢を正して挨拶を交わした。それを見倣ってアーサーも同じく姿勢を正す。


「お疲れ様です!!!」カッ

「うむうむ、声が元気でよろしい。所でアーサー、君から貰った"冷却スーツ"の調子は良いぞ、君達も頑張りたまえ。期待しているよ」

「ありがざーーっス!!!」


 ブラックの言う冷却スーツは、アーサーの元居たゲーム"CBB"に登場するアイテムである。本来は死亡時に遺体を過冷却して凍結し、デスペナルティによる手持ちアイテムの消失を遅延したり、他プレイヤーによる遺体漁りを予防するのだが、彼は氷点下の冷却機能でも涼しい顔をしてご満悦な様子だ。


「さて、マック君。連絡事項を伝える」

「はっ!」

「君の伝えた情報と私が道中で確認した状況から、直ちに道路を敷設する必要ありと判断した。よってここに工兵大隊を派遣し、道路用の屋根と防壁を建設する。命令を通達する為に通信機を借りたい」

「ハッ! ミトゥ通信兵、来なさい」

「ハイ! こちらをどうぞ!」サッ


 地面に置いた通信機の受話器を取ったブラックは、すぐに暗号を唱えて数字と意味のよく分からない単語をいくつも呟くと受話器を置いた。


「大隊の指揮は私ではないが、大隊の到着までは私がこの道の安全を確保する。君達は全員このまま先へ進み、任務遂行に励みたまえ」

「ハッ!!!」カッ


「おわあああー!!?」


 マックが最敬礼をした直後、橋の建設をしていた部隊の方が騒がしくなった。


「何があった!?」

「蜂です! 一匹の"羆蜂(クマバチ)"に仲間が一人抱かれてます!」


 視線を崖の向こう岸へ飛ばすと、巨大なクマンバチが隊員を一人抱き抱えてペロペロ舐めていた。


「何やってんだ? あんなデケーの見逃しやがって」

「"羆蜂"か。幸先が良いな、この神域では珍しい肉食ではない怪虫だ。木の樹液や生き物の汗を舐めとるという食事をするんだ。だがあの巨体にぶつかられたり、あの図体を持ち上げる羽の羽ばたきに接触すると無事では済まない。殺せ」

「イェン」


 ボトンッ! ゴロン……


 アーサーがイェンの名を呼ぶと、羆蜂の頭が一人でに取れて地面を転がる。当の羆蜂の身体はもげた事に気付いていないのか硬直したままで、頭の方はまだ舌を忙しなく動かしている。


 倒れてしまわない内にCBB団員である双子の虎獣人ジェットとジェリコが捕まっている隊員を引っ張って救助した。


「大丈夫カイ?」

「うぅ……。ん、蒸れてたパンツがビチョビチョになった程度かな……」

「ソウかイ、お大事にネ」パァン!


 双子の(ジェリコ)が隊員の背中を叩いてやると、『ありがとう』と言って作業に戻って行った。


 事が無事に収まったのを見届けて暫く、橋が完成した。対岸にワイヤーを数本張り、その上に板を並べ、板同士を繋げるように補強を繰り返して出来上がった橋は、幅5m長さ30mを越えるものとなった。


「ほー! これなら大型トラックも余裕で渡れそうでありますな!」

「所詮は仮設さ。車両が繰り返し通過する物でもない。今まではルートの固定化や安全面の確保が難しいのでコレでも良かったが、ここに道路が敷かれて詰所も置かれればすぐに立派な橋が架けられるだろう。

 さて、そろそろ寝坊助が目覚める頃だろうか」


 アーサーの感想にブラックが応える。するとブラックの言った通り、彼の弟であるオニキスが木立の向こうから這い出てきた。


「痛ててて……あ! 兄者!! いつ来られたんで?!」

「貴様が気を失った時だ。血が出ているぞ、拭いて置きなさい」


 頭から出血しながらフラフラと歩み寄るオニキスに、自身の手拭いを手にしたブラックはそれを弟の頭に掛けてあげた。


「あはぁはあ、兄者はまだ入院していると思っていたんだけどねぇ……」フキフキ

「何か?」

「いやいや! 息災で何より……」フキフキフキ


 先程と打って変わって大人しいオニキスは、頭の出血を拭いているのか緊張でかいた汗を拭っているのか判らない様子だ。


「貴様は伯爵様が不得手で副会長に対応を任せてばかりいたので知らんのだろうが、(アーサー)の主はシャイターン翁の推薦で砦に派遣された医師見習いで、彼自身、翁と共通の趣味で知己を得た才人だ。無礼を働いていないだろうな?」

「滅相も無い! 俺だってそれくらいの情報は把握している。寧ろ純粋に腕っぷしの強さに惹かれたくらいさ! なあ!?」クルッ


 オニキスが振り向くと既にアーサー達は出発していてもぬけの空である。気を利かせたブラックが目線と片手を振って先を急がせたからだった。


「あいつら挨拶も無しに行きやがって……!!」プルプル

「貴様が一言の挨拶なくここに居るのも私には寝耳に水なのだがな?」

「くッ……!!!」


 ザザザザザザザザザァーーーーー!!!!


 オニキスが唇を噛み締めていると、俄かに森がざわつき始めた。


「ふぅ、とうとう戻って来たか……。さしづめ血の臭いに舞い戻って来る気になったか」ギュッ

「"細切鳥(コマギリドリ)"……昨日のアレにビビってどっか行ってるだろうとは思っていたが、そんなに俺の血が芳しいかよ!」


 神域の表層、大木の乱立する森には1種類の鳥が住んでいる。その名は"細切鳥"、小さな身体には見合わない凶暴な性格で、異種族は全て餌と見えるようで、森に迷い込んだ人間・怪物を問わず鋭い嘴で細切れに切り裂いて食す。


 温帯に分布するが、神域の大木は地熱を吸収して枝葉を温める性質によりそこを根城としている。


「防弾チョッキの用意はあるか?」

「ハンッ! 兄者のシゴキに比べれば、コマドリに小突かれた程度で怪我しねぇよ。じゃなきゃ、のこのこ神域に近づこうなんてしねえよ」

「であれば連中を鏖殺するぞ。ここには大隊を派遣する予定だ。死肉を漁りに来る後続の同族も、一切生きて返すな」スラッ


 ブラックが愛用の黒いカランビットナイフを構える。


「鳥にナイフかい? 銃はどうしたの?」

「整備中だ」

「まあ兄者なら心配要らないか」ジャキン


 ブラックと背中合わせになって銃を構えるオニキス。両手に一挺ずつ持つ銃をアーサーが見れば、『"デザートイーグル"っぽい』と言っただろう。


「弾は十分か?」

「鞄にパンパン」


 軽口を叩き合っていると木々の隙間に大量の残像が見える。細切鳥が枝葉の隙間を音速並のスピードで飛び交う姿だ。


 そして、あっと言う間にうん百羽を越える細切鳥が殺到して二人の姿がかき消えててしまった。


   人

/( ̄- ̄)\ >……あーあ。


  人

/(°-°)\ >……ヤバいかも。


  人

/(;°д°)\ >幽遁"道連れ草"‼︎ ズズズ

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