9.グリグリp(•_• )ケムイ
……
パーンッ! キュィンッ!
音速を越えるカールの槍が、初弾3発を叩き落とし、アーサーの剣は2発の弾丸を抑え付けて軌道をズラす。他の弾は二人の身体に擦りもしない。
「ガォ……!?」
「ギャ……!!」
ズレた弾はアーサーの斜め後ろ、包囲網の一角の二人に直撃するが、その二人を含めて全員が目一杯に絞る引き金は簡単に離されることは無い。
続く第二弾幕、返す槍で5発を薙ぎ払うカールは崩れた二人に接近、狙いの乱れる銃撃に飛び込んで行く。
「一発芸」
剣術と体捌きで迫る銃弾の悉くを受け切り、避けるアーサーが着弾寸前のグレネードランチャーを見ながら呟いた。
「手跳弾」
剣を持たない片手で榴弾を掬い上げ、急激に曲げられた弾道が森側の崖に向かって飛んで行った。
一方カールは長い手脚で敵二人を両サイドに吹き飛ばして包囲網の穴を拡げる。続けて構えた槍で銃を刺し貫きながら被害に拍車を掛ける。
ジャジャッ、ヂュィンッ!
アーサーが榴弾を投げ飛ばすのとほぼ同時に、足元の適当な石を2つ剣先で弾き飛ばし、更にもう一発の弾丸を殆ど跳ね返す角度で押し戻す。
「グアッ!?」
「……!」
「ヴア?!」
「もう慣れたぜ」
それからアーサーは前と横から飛んで来る銃弾をすべて受け流す。流れ弾は正確に包囲網を形成する敵に命中した。
ドンッ! ガラガラガラガラガ…
「んのわあああ!!?」
包囲網の最後の一人は、榴弾の爆発で崩れる崖に埋もれていった。
「オイ、偶数だったんだから半分こだろうが」
「おやつじゃねぇんだ、早いもんヤッたもん勝ちだ」
「……何が起こったんだ?」
「グレネードが起爆する前に一斉にやられたように見えたぞ」
「………フゥー、聞け」コフー
残る敵は3人、死体を投げ付けた2人とパーカー男だ。
パーカー男は前にいる二人に何事か耳打ちしている。フルフェイスマスクで完全に顔が隠されている為に声も篭って聞き取れない。
しかし視聴覚スキルがエリアチャットとしてテキスト表示していく。
『貴様ら二人は先に戻って片付けを済ませたら、俺を待たずに村へ戻れ』
『ですが』
『上官命令だ。俺は直接村へ向かう。明日の朝までに戻らなければ、皆を率いて街まで退いて上に報告しろ、誇張してな。たぶんそれでも足りないがな』
『……貴方の下で戦えて光え』
『辞めろ馬鹿、これから俺が死ぬようだろうが、……とにかく』下がれ、後は俺が引き受ける。そして行け」
パーカー男が二人の肩を引いて前に出る。
「了解です」
「御武運を」
二人はそう言って川を越えて反対側の森の中へと消えて行った。
「追わないんだな、それとも最初から俺が目当てなのか?」
「いや別に、仲間が襲われたから、どんなのに襲われたのかを確認しに来ただけで、アンタらと事を構えるつもりは無かったんだよ。最初は」
「フン、賊同然の豚人共を殺したのはしょうがないとして、銃を持って最初に攻撃したのは確かにこちらだったな」
ジャリ…ズズズ……
「結果として今は半殺しの部下を人質に取られて、逃げるに逃げられない状況になってしまった」
「返還を求めるなら返すぜ。怪我も死なない程度まで手当てしていいし」
「お前がしないのか」
「自己責任だ、それに俺らぶっ壊す加減しか出来ないし」
「そうか俺もぶっ壊す事が大好きだ」
ジャキッキンッー
パーカー男がカスタムUZIに∞の形をした弾倉を装着し構えた。
アーサーとカールのどちらかに決めかねているのか、銃口の向きが中途半端な位置にある。
「玉○弾倉か」
「チッ、俺に向けるのか? 槍だからって舐めてんな。イイよ、来いよ!」
『オイ何言ってんだい!』
班員チャットにビアンカからツッコミが入る。それで銃口の向きとビアンカの居る方向が一致しているのに気付いた。
同じ班員は互いの位置の方角が分かる、しかし距離までは解らない。
回復したのか思ったより近くまで来ていたらしい。
「今は来るな、ビアンカ!」
ポンッボヴヴヴーーーッッ!!! バンッ!
ギャギャギャリギャギャリギャリギャギ!!!
カールが警告を発したのを隙と見たのかその瞬間、サブマシンガンにあるまじき発砲音が轟く。
直前の空気の抜けるような音はグレネードランチャーだ。
反応が一瞬遅れたカールに代わり、アーサーが全弾受け止める。更に遅れてグレネードが起爆し煙幕が張られた。
「馬鹿野郎、ブチ折れただろがこの野郎!」
剣は根本どころか柄までもが砕け散っていた。
「換装前に貫く!」
カールの疾風怒濤の突撃からの慣性を無視する直角カーブ、そして煙幕を吹き飛ばす勢いの刺突はしかし、パーカー男のフルフェイスマスクを剥ぎ取るに止まった。その身のこなしはカールに勝るとも劣らない。
「取って置きが多少効いて安心した。給料2年分も吹き飛んだがな」
「そりゃご愁傷!?」
パーカー男が消えた。置き土産に投げ付けられたマスクとドラムマガジンに構わず、槍で薙ぎ払うが手応えは無かった。
「俺と同じくらい素早い連中が居て驚いた。化け物じみた強さには冷汗が止まらないしな!」
光学迷彩か魔法か、どちらにしろ目に見えない事は大きなアドバンテージである。その上高速で動き回れば捉えられる難易度は格段に上昇する。しかし
「ごぉッ!?」
「こっちは行き止まりだ。女子供しか居ないからな」
アーサーはパーカー男のフードを捕まえた。
フードが脱げて露わになった顔は、アーサーより少し若い程度の黒髪の男だった。
「どんな目をしているんだ!?」
「集中砲火で鍛えた目だ、って往生際の悪い?!」
手に持ったサブマシンガンを向けるので掴んだフードで引き倒そうとしたが、それでも銃口を正確に向けるのでもう片方の手で銃を握り締めたら、パーカーの形をそのままにして脱衣から脱走に転じた。
その向かう先はビアンカとユウの居る方向だ。
「人道に反しようと俺は……!」
「パガクゴア」"幽遁・道連れ草"
「おおあ!!?」
ビアンカまで後一歩の所で男は前につんのめって倒れる。しかし男は倒れなかった。
「う……? 革張りのクッションか?」
「コレが世に言う"ラッキースケベ"ですね!?」
「ハッハッハッ! でもラッキーはここまでだよ!」
ズドッ!
「グギッ!!?」
男は脳天にトンファーの一撃をまともに受けて、頭の至る所から血を噴いて倒れた。