68.(´〜`)まぁ元気にしてるでしょ
アーサー達から魔法の絨毯が離れて行き、入れ替わりに木星の様な巨大な砂の球体が迫る。もしもそのまま降って来た場合、その被害は甚大であろう。
「イェン!!! 全員を連れて退避しろオ!!!」シャッ!
「ォギャアアア!!!」
『わかった! 霊遁"掠り愚者・鷹飛蛮行"!』
アーサーは両手に剣を構え、イェンは自動操縦の分身を15体召喚する。
イェンの召喚した分身は腕に大きな翼を生やした真っ黒な鳥人型で脚も猛禽類の形をし、霊体故に風や砂等の物理的影響を受け付けないがポルターガイスト的な運搬能力を持つという特徴がある。それらがセィス達や気絶した団員達を無造作に鷲掴んで中央棟内部へと運び去る。
「Hurry up! 離れておくれ! 置き去りはウンザリだYo!」
騒いでいるのは根井だ。肩に分身が掴まって羽ばたくが、少しだけ浮かんでは着地を繰り返していた。
「うゃゃぷ」
『ちっ、足りないか。レオンが重過ぎるから人数割いたけど、アンタは金属ボディだしそりゃ重いよな。俺が運ぶ!』
「Oh my GOD!!? 来たー!!!」
根井の指差す先、そこには尋常ではない勢いで迫り来る土の柱が伸びていた。
「ヤッフー!!!」バババ!
『土遁"応坂ノ堰"!!!』ズン!
バゾゾゾゾゾゾッッッ!!!
イェンと根井の目の前に垂直の壁がせり上がる。その向こう側は緩やかな坂道となっており爆風を上へと逃がす。
ドドドゴゴゴガゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!
「モルスァ?!!!」
『アーサー?!!!』
止めどなく吹き荒れる砂埃が爆心地の状況を混沌の渦に巻き込む。
§
「確か10年前だったかコールロア村のイブリース殿がまだ海軍大佐だった頃、彼と共に海の魔物の討伐任務に同道した帰りの事だった。旗艦を中心に、前後四隻ずつの駆逐艦と共に友人の遊覧船も同行していたな。
あの時は魔法の作用も無いのにも関わらず海の空模様は目紛しく変化し、快晴だった空はあっという間に曇天の暗い天気に落ち込んだ。そして魔物の死体を曳航していた四隻の軍艦と死体を観察していた友人の船が死体ごと海中へ叩き落とされた。
前兆と呼べるのは不可解な空模様、だが切っ掛けとなる現象は何も判明しない、わかっているのは魔法に依らない自然現象という事だけ。
この魔法はその自然現象を再現してみたんだ」
「ムメール海神域の"天槌の海難事故"ですね。まさかアイズマン卿も同行していたとは……」
「友人の道楽に付き合って船を移った所為で危うく死ぬ所だった。怪物より空を観ていたのが私でなければ、海底にまで沈められていたろう」
「五隻の船を一瞬で沈めるとは……それを再現して叩き付けたならば、最早奴もひとたまりもありますまい」
(うわ、フラグだ。だけどアーサーなら大丈夫……だよね?)
§
「ギャハハハハハ!!!!! "蛮合破"からのォ"雨合破"!!!」ゴゥッズバ゛゛゛゛!!!!!
Gyarrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
"GAU-8"の数百倍の密度の土砂降りを、たったの剣2本で凌ぎ斬るアーサー。
「アーッハッハッハッハッハッハッ!!! ギャーハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」
ジ゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ
"蛮合破"の空振りによる風圧で直撃範囲の爆風を相殺、"雨合破"は傘の代わりに剣で雨を凌ぐ超密度の斬撃スキルである。
砂の暴風雨に対処する為に過剰分泌した脳内麻薬がアーサーの表情筋を極限まで釣り上げる。
その様子をアイズマン卿は自らが操る風の感触から感じ取った。
「………………先はあれだけの弾幕に晒されて尚、余裕な様子だったから、まさかとは思ったが………」
「無事なのですか!!?!」(おおお、アーサースゴイ!)
アイズマン卿の言葉に反応したユウだったが、その後に続いた同乗者の言葉に困惑することになる。
「やれやれ、ここでくたばっておればよかったものを」
「? どういう意味ですか?」
「見ておれば分かる」
木星から地上へ注がれる土砂は、霧散せずに直ちに元の場所まで巻き上げられて球体の大きさを維持し続けている。
一向に止まない土砂降りはアーサーの姿を隠し続けてもいた。それはつまりアーサーから周囲の状況を隠しているのである。
「キェーーーヘ_ヘ_ヘ√!!!」
(アイズマン卿の魔法は十中八九、風を操る事に特化している! そして規模こそ馬鹿げてるが砂は風に乗っているだけで、砂粒そのものをコントロールすることは出来ないようだなーあ゛あ゛!? それだけが唯一の救いか!)
現在のアーサーは超高度な処理を可能にする為に言語能力を著しく欠いたイェンと同等の状態にある。この状態は所謂アスリートのゾーンと同じ状態であり、身体強化スキル使用時と同等の能力を発揮する。
(動体視力の向上による体感時間の増幅は、延びれば延びるほど脳への負荷がデカくなる。実間との齟齬は最小限に、脳力は身体に最大限振り分ける!
んでも、流石にこのレベルを長時間維持するのは無理! 従って、短期決戦で上の木星を斬らにゃーならん。
と、なると、"鬼鋸"か最低でも"武鋸"が必要になるなーあ)
「ビャァァァァアアアパパパパパパ!!!!!!」
ジ゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
土砂降りの向こう側から僅かに笑い声が聞こえてくる。その声を聞いたユウは安堵でホッとするも、すぐに祈る様に両手を握り締めた。
(信じていますよ、アーサー!)ギュッ
「しぶといが………そろそろ溜まる頃にございますな?」
「うむ、上空の雲も少しばかり吸収した。耳を澄ませば聴こえてくるぞ」
ユウがハッとして砂の木星を見ると、球体の内側でピカッと光る瞬間を目撃した。そしてアーサーの笑い声をかき消すかのような、ゴロゴロと腹の底に響く音が鳴る。
「稲光……?」
「物質同士が擦り合わさると電気が生じる。これを利用して本来は作物の育成や設備の稼働に利用しているが、こうして攻撃にも転用出来る」
「アーサー!!!?」
ユウの悲痛な叫びは届かない。しかしアーサーはこの状況を肌で感じていた。
(やっべぇぇぇ!? "剛剣レイピア"が砂を斬り払い過ぎて徐々に帯電してきてやがる! つーことは、上から聞こえるのは聞き間違いじゃねぇ、落雷の前兆かよ?!)
剣は鋼で造られている。電気はより導電性のある物質に引き寄せられるので、落雷があればアーサーの持つ剣に直撃するのは必至だ。
(野晒しで落雷に遭うなら一発くらいはどうってことねーが、今喰らうのはマズい! おまけに呼吸までやり辛えし!)
『イェン!!! "武鋸"をこっちにぶん投げろ!』
『はあ?! 今、暴風で身動き取れないんだけど?!』
『なんとかしろ! 早く!!!!!』
『俺って病み上がりなんだけどな?』
イェンが鞄から"武鋸"を取り出して遮蔽物から身を乗り出す。
ジィッ!!!!
「ブェ!!!?」グキッ
暴風に晒された帽子が一瞬で風に引き裂かれてイェンが撥ね飛ばされる。頭を覆っていた防災頭巾がズタボロになって、滅多に見せない緑の髪が露わになる。
『風の壁? よく見たら魔法でこの勢い全部を制御してやがるじゃん。CBBでもこんなの出来る奴は居ないぞ?!』
『あちゃ〜、コリャア出るに出られないねぃ〜』
『あぁん?! 何でこのチャンネルにアクセスしてんだ?』グルン
驚いたイェンが振り返ると、根井が一人で壁にもたれて砂避けのマントを被っていた。イェンの目には、口調でしか感情を表せない機械人間が、上目遣いでニタニタと笑っているように見えた。
(;@〜@)>………ん〜
ちょっと、もしかしたら…<(;@_@)
コレ、オレも他所のCBBに行けるんじゃ?<(;@д@)
べ、別にアイツを助けたい訳じゃないんだからね!?
(;@Å@;)




