66. |||||フッ
戦争の音が聞こえる。いつまでも、いつまでも止まる事のない、銃撃の咆哮。
「ガフッ、バルル」ガッガッ
「大丈夫、ここなら安全だよ」
厩舎の中で不安そうな愛ロバ、ガレオンゴールドの首筋を撫でて落ち着かせる。身体が大きくて勇敢な子だけれども、柵に繋いだまま逃げられない状態では不安なようだ。
「でも一応、ロープだけは外しておくね。何かあったら、君だけでも逃げるんだよ」
「ブフ」
「大丈夫、危ない事はもうこりごりだもん」
とは言ったものの、一人で旅の行商をするよりも安全に商売をする為に後ろ盾が欲しくて仲間に入れてもらったのが新進気鋭の傭兵団なのだから笑うに笑えない。
本当なら、ある程度の力を持った商会や国の行商ギルドに入るのが良いんだ。けれど今までに出会った商会は良くても門前払い、悪い時は無茶苦茶な契約をさせられそうになったし、国のギルドにはそういう同業者の推薦状がなければやはり門前払いだった。
だから多少危なくとも金回りの良さそうな傭兵団を探してみて出会ったのが"盗伐団"、今の名前は"CBB"だ。当初は少人数であるのに名のある騎士と行動を共にしながら、仕事の片手間に世直しをする。その様子を見て入団希望者が殺到していたので紛れ込むには丁度良いと試験を受けて合格したのが運の尽き。
蓋を開けて見れば、同世代の子供にまで戦力を求めるろくでなしが団長を務める戦闘狂の集団だった。
良い所と言えば幹部の人達が主人と仰ぐ俺よりちょっと歳上の人は、どうやらサニタリー商会の会長と繋がりがあるらしいことだ。超が付く大物過ぎて信じられない。
「……………」
「どうしたの? ?!」サッ
気配を感じて振り返る。ガレオンゴールド以外にも馬が飼育されているので、気配が有って当然なのだけれど不安な気持ちでいっぱいになる。
「………気のせい……?」
「じゃないよ」
「うわ!?」バッ
「ブフゥア!」
真横からの声に驚いてガレオンゴールドに飛び付く。ガレオンはそんな俺を守るように進み出て鼻息を荒くする。
「どうどう、………賢くて良い驢馬だ」
「えーと……イェンくん? どうしてここに?」
ガレオンを宥めて前に出る。目の前の男の子は昨日、ベイバード騎士団の副団長と戦って重傷を負いながらも引き分けにした実力者だ。
今日はいつもの特徴的な帽子にマントを掛けていて、カラーリングは青色、そして黄色い星のマークを全身に散りばめている。
「イェン"さん"だ。団長がお呼びだ」
「んと……一応、今は敵? になるけど?」
「俺と一緒に行くかどうか、拒否権は無いが自由だ」
「俺っちは戦わないよ?」
「戦わないのも自由、団長が知りたいのはどの程度戦えるかだ」
無意識にゴクリとツバを飲み込む。
拒否権が無いのに自由という事は、自分で団長さんの所へ向かうか抵抗してイェンくんに連行されるという事。
戦わないのにどの程度戦えるか? というのも口で答えて済む質問だったらいいんだけれど、なんとなくそんな穏便に済む気がしない。
何より俺を見る視線がちっとも油断していない気がするのが怖い。
「…………お前ぇ」
「なn……なんでしょう?」
厩舎の照明は基本的に点けないので外から入る光が頼りだけれども、それが逆光になって辛うじて見える目が余計に怖かった。
「………表で待つから、なる早で来いよ」
「……う、ん。わかった」
「さっさとしろよ」
そう言ってイェンくんは出て行った。
「ハァ〜びっくりした。こんなに明るい真っ昼間にホラードッキリは心臓に悪いよ」
「ン゛ン゛」ペロペロ
「ごめんね。もう行かなきゃいけないから、待っててね」
飲み水を入れたバケツにガレオンゴールドが好きなハーブをいくつか浮かべてから厩舎を出た。扉を閉めて振り返ると、至近距離にイェンくんが居た。
「なる早って言っただろ」ガッ
「ちょっ……?!」
「運べ運べ!!! 男子転がしぃ〜!!!!!」ポーイ
「「「男子転がしぃ〜!!!!!」」」ポイポイポーイ
いきなり胸ぐらを掴まれて頭上に投げ飛ばされた!
眼下では縦に1列に並んだイェンが待ち構えている。
6人のイェンが協力して俺を乱暴に運ぶ。転がしというよりもバレーボールのトスのように跳ね上げての運搬だ。
「うわっ! んえ! ぐふ! あ痛!? やめて!」
「ピャーッッッ!!!」
必死に訴えているのに笑う(?)ばかりでお構い無し。次第に銃撃音が近付いてくる。
「嘘嘘嘘!? や、やめ! やめろよイェン! この野郎!!」
「本性出したな」ポーイ
「やっと来たなイェン!! そのまま放り込んぢまえ!」ガ゛゛゛゛ッ
「了解ィ」
「!!!?」
放り込むってまさか、あの銃撃の真っ只中に?!
「ふ…ざけんな!!」ドゴォッ!
「ブッ?!」
空中で身体を捻ってイェンの頭を踏ん付けてやった。手応えはあんまり、しまった、と思ったがもう手遅れ。
次の瞬間には2人がかりで両側から胸元を掴まれる。
「「やるじゃん」」ガシッ
「それいけ俺達、"二本背負投げ"!」
「うぅ……わ!?」ビュン
ものすごい勢いで前方に投げ飛ばされる。目前に迫る弾幕にこのまま突入すると死んでしまう!
切り札を出すしか無い!
「【 魔道具職人の守護球】!!」キィーン
ドゴガボボボブボボボボバアン!!!!!
カードに封じられたアイテムの効果で発生したマジックシールドが機関銃の弾丸をシャットアウトする。じいちゃんが遺してくれたアイテムはどれも強力な力を秘めていた。
「何だソレ?! 今の……カードか?!」ギャリリリリリン
「今度は俺っちのレアカード【風の親友】!」
今使ったカードの効果は俺に対する攻撃を全部回避する効果がある。この"俺に対する"が肝心で、無差別攻撃にまでは影響しないけれど、現状では最適なコンボだと思う。
「こっち来るな!」スカッ
思った通り団長さんのキックを避けた。その拍子に円の内側に侵入した。
「何ここ熱ッ!?」
団長さんの周囲は信じられない程の熱気に包まれていた。比喩ではなくて、シールドが無かったら一瞬で大火傷を負いかねないくらいに暑い。
そんな環境下でかったるそうに剣を振り回す団長さんが本当の意味でバケモノに見えてしまうのは仕方がない当然だ。
「邪魔だっつってんだろーがよ!!!」グアッ
「呼んだの団長さんじゃないですか?!」
ドギアッ!!!! メリメリメリィィ!!
団長さんが振りかぶって真上から剣を突き立てる。
シールドを突き破って剣が半分くらい刺さって、しかもどれだけの力なのかシールド自体が十数cmも地面に沈んでしまった。俺に当たらなかったから良いものの、さもなきゃ脳天串刺しになっていたかもしれない。
「ヒィッ!!?」
「お前が居る所為でこの丸っこいのに当たった弾丸が、ここの温度を急上昇させてやがんだよ」
それって自業自得では? だって俺は別にここに来たくもなかったもん!
「まあ、そうだなぁ、お前は'B'だ。ようこそ"CBB"へ!!」ぶうん!
「うわああああああ!?!!」
刺さった剣ごと明後日の方向にぶん投げられてしまった。すぐに団長さんが豆粒のように小さくなっていく。
メチャクチャに回転しながら必死に剣を靴で挟んで切らないように注意をして落下地点がどこに向かっているのか探す。でも目が回ってきて気分も悪くなり始めた辺りで建物に接近している事に気が付いた。
(ぶつかる?!)
バゴォーーーン!!!!! ビシッ!
ギュルルルルルルルルルルル!!
シールドに重い何かがぶつかって滑空の勢いはかなり落ち着いた。だけど今の衝撃でシールドには大きな罅が入った!
しかも勢いは落ち着いても回転のスピードは格段に加速。遠心力でシールドに押し付けられて身動きが何も出来なくなった。
吐き気が込み上げ意識が朦朧とする中、とうとうシールドが砕け散り、地面の上を転がった。
視界がぼんやり見えるけど、誰かが来る前に気を失ってしまった。
(・∀・)>まだ居たか偽物〜
(;@д@)>出たなオリジナル!?
〔○躁○〕>ボボボボボボボボボボボボ
(:3 」∠)_ >何コレ?化石級のウイルス入ってんじゃん
(;@曲@)>知っているのか雷電?!
(`・・)>ここ俺の個人用電脳空間だぞ。対応アプリ完備じゃい
〔‘○鬱○〕>もももももももも
(・з・)>こんなもんに侵されるとかポンコツ過ぎ、除去はしてやるから帰れゴミ
〔|||○Д☆|||〕>Ahhhhhhhhhhh!!!!!? 〜Q……
(;@д@)>大丈夫かー?!……そう言えば名前知らねえ
(・〜・)>大袈裟な…空フォルダ消しただけだぞ?
ドガ!
(;@Д@)>ああ蹴り飛ばしやがった!?
ʅ(◞‿◟)ʃ >送り返しただけだ
(;@_@)>……違うCBBに入っちゃったぞ
(°-°;)>………知ーらね、帰るわ




