63.(´∀`)そう言えば人の気配も増えた気がする
ベイバード砦のグラウンドは訓練や式典等に使用される為、石ころは一切取り除かれている。その為ちょっと風が吹くと簡単に砂埃が舞い上がる状態となっている。
そんなグラウンドではカールとビアンカが連射するガトリングの轟音による空気の振動だけでも地面から砂埃が舞い上がっていた。
Burrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「ギャハハハハハハハハ!!!!! 気ん持ちぃいいいいいいyeahhhhhhhahahahahahahaha!!!!!!!!!!」ズズズザリッ
破壊的な反動に押されて後退しては一歩ずつ前進するカールはトリガーハッピーになって興奮状態だ。
『カール!! 反動がデカいからしょーがないけど、あんま前に進み過ぎるなよ!!!』
「聞こえねえうるせえ!!! ギャハハハハハ!!!!!」ズズザリッ
「チィ! こっちはそっちの倍の反動なんだぞー、って気ィ抜いてたらあたしも後ろに下がっちまうじゃーん!!!」ズズズ
発砲音から耳を守る為にノイズキャンセラー効果の高いインカムを使用し通信しているが、ビアンカの声はカールに届いていないようだった。
『ラーナ! そっちはどうだい!?』
『物凄い音がここからでも痛いくらいに届いて来てます! けど、砂塵でほとんど見えないわ』
『そーかい! ならまだ待機でいいよ!』
『了解!』
「オラオラオラアアアァァァーーー!!!!! ぶっ飛んじまえー!!!」
17万発以上が発射し尽くされ、砲身が真っ赤になりながら未だ硝煙を棚引かせる。容赦なく咆哮を挙げていたガトリングがたっぷり15分間も連射され続けたのだった。
シュルルルルル………
「フゥー、フゥー! 最初の弾切れか……思ったより大量に撃てるじゃねぇか」
「はふぅ、はぁふう〜……銃って………こんなに反動があるんだなー……ぷぅ〜……」ゴシゴシ
「ただ撃ってるだけでコレだ。奴も剣くらいは折れてるだろうぜぇ……お?」
ビュゥッと突風が吹いた。タイミングよく吹き荒ぶ風が土煙を一気に押し流して行く。
「………マジかよ!?」
土煙の中から現れたアーサーは地面に2本の剣を突き立てて、腰に手を当てながら悠々とエナジードリンクのアルミ缶を飲み干していた。
「んっんっん〜、休ませねえんじゃなかったのか? エナドリ一本飲み干しちまったぞ」グシャ
飲み終わった缶は握り潰して鞄の中へと捨てた。
アーサーの正面の地面には無数の穴ボコで抉れており、同じくらい無数の潰れた弾丸が埋もれている。円の上にあったブルドーザーは約30m後方で無惨にも木っ端微塵の姿を晒していた。
「あーあ、後でアレの損害賠償求められるんだろうなー。まぁやっちまったもんはしょうがねえ。で? 次は何をしてくれるんだ?」パンッパンッ
身体に付いた土埃を叩きながら尋ねるアーサーは、無傷でピンピンしていた。
「テメェー、ちったぁ堪えとけよ!!?」
「うんうん、最初はちょっとヤバいかもって思ったけど、"GAU-8"は空を飛んでこその"アヴェンジャー"ってのが再確認出来たんだなコレが」
「どーいう意味だよアーサー?」
「勉強不足なビアンカにわかりやすく言うとだな、まず威力が足りない、弾幕が足りない、弾種が足りない、何より速さが足りていない」
GAU-8は本来なら対地用航空攻撃機"A-10"に搭載されるガトリング銃で、空を飛びながら射撃することで目標を確実に破壊する威力を生み出している。また米軍では攻撃能力を向上させる為に、数発に一発はより破壊力のある劣化ウラン弾などを装填して運用しているそうだ。
「一発でも劣化ウラン弾とか混じってたら、流石にやられてたかもなー」ほじほじ
「チィ、舐めやがって!」
『イェン! 劣化ウラン弾とかあるか?!』
『一発5,000クレジット。でもアーサーが自分から言及した時点で警戒を示唆してるから、ハッキリ言って無駄だと思うね』
「ゴ、五千……」
「口に出てるぞー、カール〜」
その時、アーサーの斜め後ろで倒れていて轟音にも目を覚まさなかったレオンが不意にムクリと起き上がった。
「この音は………?! まさか! そんな筈は……!!!?」ガバッ
「おっと! 急に元気になりやがって、どうしたレオン?」
「腹の底から響くような重低音、大地から存在を伝えるエキゾースト! まだ存在していたのかクラシック型の"ダービー・ハリスン"!?」
「音?」
………ブロロロロロロロロ……
見たことの無いほど口角を吊り上げたレオンが前に駆け出す。アーサーを避けて走り去る彼の背中は、まるで大好きな物を眼にして興奮する無邪気な子供のようだった。
「おお、オオオ!!? サイドカーまで付いている!!!」
「何だー? バイクか? こっちに向かって来るぞー?」
「サイドに座っているのはヒゲともみあげからしてブラックの旦那じゃねーか? 運転してるのは……ありゃ何だ? ロボットか?」
「カール、アレ見えてんの?」
ビアンカの目には、バイクっぽい豆粒が砂煙を捲き上げながら近付いて来る様子しか分からなかった。だがカールとレオン、それからアーサーの目にはハッキリと搭乗者達の姿が見えていた。
「やあやあやあ!! 君達ィィ〜!!! 私も混ぜておくれよー!!!!!」
サイドカーからバイクの爆音に負けない声量で怒鳴る声の主は、やはりブラック・ヴェルギリウス副騎士団長だった。
バイクはカール達とアーサーの間に割り込むと、そこで停車してヘルメットを被ったままのブラックがサイドカーの上に立ち上がって両手を広げる。
「わははは! 昨日ぶりだが会いたかったぞ諸君! やあ、アーサー。君のもたらしてくれた冷却スーツは実に機能性に優れていて重宝しているよ! さて! さっき言った通り、私も混ぜてくれ。悪いようにはしないから、な!」
「え〜、盛り上がっている所を恐縮ですが、拒否させていただきます」
代表としてアーサーが応える。昨日の今日なのでしばらくは副騎士団長殿から距離を置きたいのである。
「何故だ?」
「何故も何も、貴方が良くても、周りが良しとしないからですよ」
アーサーの言い分を聞いてヘルメットを脱いだブラック。その顔はニヤニヤと笑っていて、「だからどうした?」と言わんばかりである。
「いやいやいや、貴方の立場を考えて下さいよ。ただでさえ昨日の事で…」
「うんうんうん! それはそれ、今は今だ! なんなら一筆認めるさ」
「チッ………そこまで仰るって事は、準備も出来ているのでしょうか?」
「ああ。だが協力するのは君にではなく、こちら側の面々に、だな」
振り返るブラックは不敵に笑っている。その動作に合わせて、バイクに跨がっていた人型ロボットが動いて降車した。
「紹介しよう。我が国の同盟国"鋼皇国"出身で、需品科管理室室長兼技術部整備室特別顧問の"根井"氏だ」
根井と紹介された人物の風貌は、眼孔に丸いヘッドランプを埋め込んだような頭骸骨に、ガラクタのような外骨格の隙間からは人間の骨格を模した金属製の内部骨格が見え隠れする。更に内部はベンタブラックのような暗黒物質に満たされているようだ。
そんな金属生命体である根井は首から煤まみれのエプロンを掛け、下半身には一般隊員達と同じズボンと軍靴を履いた半裸エプロンな姿だった。お洒落なのかこめかみから頭頂部にかけて黄色いデンジャーテープを貼り付けている。
「……………喋れるの?」
「Oh.Yo! 勿論喋れるゼィ、オイラの生い立ち言っちゃうYo〜」カシャン
「イヤ、やっぱいーや」
ラッパー口調の根井に引き気味のビアンカだった。
「とまあ言葉は話せるから意思疎通は心配無い。彼ら"磨人"は鋼の身体で悠久を生き、膨大な時間と経験から蓄積された高度な技術は、我が国の発展に欠かせない存在と成っている」
「Hey,heyYo. オイラの言葉をぶっちぎっちゃー、ぶっ飛ばしちゃうYo? ねぃヒドい思わないかいデカいニィちゃん? Oh!? オイラよりタッパがあるとは半端ネィな」
「なんだぁこいつ?」
身長220cmのカールと並んでわざとらしく驚いてみせる根井は、靴の分を省けば身長は200cmジャストだろう。
「黒いニィちゃんもスゲィが赤いネィちゃんもスゲィYo! 二連装砲の反動を制動し切っちゃっててYo〜」
「うわっ油クサ!」
「〔´○д○`〕え?!」
ヒョイヒョイ動いて軽やかなステップでビアンカにスキンシップを試みた根井は、あえなく撃沈した。
「〔´○_○`〕くんくん」ショボーン…
「始める前から何を元気をなくしている、らしくないぞ」
「一体テメェら何しに来やがったんだ?」
ドスドスドスン!
カールが声にイライラを滲ませて聞くと、根井が身体とエプロンの隙間から弾薬箱を3つ落とす。
「オイラは弾薬の提供だYo! しかも中身はノー遠慮で使える 無限満タンだYo」
『それに、お宅のブツよりぶっ飛ぶゼィ?』
「!!??」
カールが丸くするその目に飛び込んで来たのは、根井からの個別チャットだった。コールロア村でCBBプレイヤー相手に使えることは確認済だが、地元民であるグレイシャード達には使えなかったからだ。
「百聞は一見にしかず、デモンストレィションと行こうYo」
「だな、私も改めて自己紹介をしよう。ベイバード騎士団副騎士団長のブラック・ヴェルギリウスだ。"黒砲"」スッ
「んんあ!!?」バッ
ブラックは例のカランビットナイフを手に持っていた。
皆の目が逸れているのを良い事に、煙草を吸っていたアーサーが間一髪でその場から垂直に高く跳ぶ。咥えていた煙草はフィルター部を残して消し飛んだ。
「不意打ちのつもりだったが恐れ入ったよ。必要以上に高く跳ばず、最小限の動きで武器も失わず、やはり魔力が良く見えている。私のは特別なのだがな? 根井」
「アイYo〜……」ガランゴッ! チキチキチシュィーンキンッ!
腕の外骨格が変形して内部の暗黒物質から、機関砲の部品が組み立てられながら飛び出してくる。それらが根井の腕と結合して巨大口径の銃座となった。
「ぺっ、身体の中は鞄と同じか? 都合の良い変形ロボかよ」
「ロックnノ〜ック!」
バゴンッ!!!!
ギャアン!!!
バギャッ!!!!
根井が腕を奮う砲撃は真っ直ぐ空中のアーサーに直撃した筈が、当てた衝撃で高速回転を始める。砲撃音の直後に聞こえた金属音も、回転によって飛び散る金属片から何が起きたかを示す事になった。
ギュルギュルギュルギュルギュル……スタンッ
「…………」ピキッ
アーサーが両手に握る細剣の内、右手の剣が中程で砕けてしまった。それを見たブラックは、申し訳無さそうな表情で髪を掻き上げる。
「あー……悪い! 君の底を推し測る為とは言え、大事な剣を折ってしまって申し訳…」
ピッピッピッ!
ブラックが謝る前に指を振るって制止するアーサー。心なしかこめかみに薄ら青筋が見える。
「Hahaー!!! スッゲィな!? アレをソレで受けてコレっぽっちの成果カイ?! なるほど、こりゃあ徹底的に検証する必要があるな」
まさかの結果に根井もラッパー口調が改る。
「オイラが提供する弾薬は今使ったのと同じモノだ。事前にサンプルも貰ったから、口径もちゃんと同じにしておいた。オイラの作る装薬は魔法との親和性も高い、上手く使ってくれYo?」
「あ? ああ……」
カールもまた、衝撃の結果に開いた口が塞がらなかった。それだけ弾の威力に驚愕していたし、裏を返せばアーサーの実力を高く評価していたのだ。
そんな様子には目もくれず、根井が連絡事項を伝えていく。
「それとニィちゃんが技術部の者に頼んでいた事だが、もう直ぐ到着すると連絡が今しがた届いたYo. 丁度適当な運搬役も居たんで、それも合流予定だってYo. ホラ、もうすぐそこまで来ているYo」
「ああ?」
「カーーールさーーん!! 持って来たっスよー!!!」
「アーーーサーーーーー!!!!! 俺も混ぜてくれええええ!!! 昨日の今日だが、リベンジだあああああ!!!!!」
カールやビアンカ達が居る反対側、アーサーの後方から現れたのは、一時退散していたマヌゥ達で2台のトラックに分乗している。運転しているのはCBBとは別のゲームのプレイヤーだったアルバレスト・ガッツとその部下であった。
〔○皿○〕>Yo! Yo! 何だいここは?ここはドコ?
(;@A@)>誰?!
〔○д○〕>オイラは根井さ!Youは誰?
(;@_@)>誰って、んー
〔○∀○〕>よく見りゃアンタ、アーサーさん?
(;@_@)>…のコピー。いやいや、どうやって来たの?
〔○∀○〕>?
(;@皿@)>訳がわからないYo!




