61.ブホッ(;ω;)寂しいね
「ここっスね。どんぶり持って並ぶだけっス」
「ほぉ〜……、何つーか、普通に食堂だな」
食堂の立て看板を目印に入口から中へ進むと木造のカウンターに人が並んでいる。基本的な内装は清潔感溢れる白を基調としたタイル張りの社員食堂そのものである。
お盆は無く、特大どんぶりとスプーンをナナラから受け取って適当な列に並ぶと、流れ作業が完成しているのか、あっという間に自分の番が周って来る。
「あいよ〜♪ あいよ〜♪ あいよ〜♪」ドボボ!
小気味良い掛け声でどんぶりになみなみと注がれたのは白いリゾットだ。どんぶり一杯でもずっしりと重い、その上でおかわりは自由とのことだが、種類が他に無いのでは物足りないと思ってしまう。
「座席は向こうか……って広いな」
カウンターを離れて喫食スペースに向かうと、天井が途切れて吹き抜けのフロアが目の前に広がっている。見える範囲内で三階層に分かれた喫食スペースがいくつもの階段で繋がっている。
当然だが下の階は満席で、上にいくほど人は疎らな様子に見える。そうして見上げていると突然、三階の転落防止柵を飛び越えて誰かが降って来た。
………ドスンッ! スタッタッ
「おっ! アンタら昨日の……食堂は絶品だけど、物足りなきゃ事前に購買で調味料を買うのをオススメするよ。じゃあな」
飛び降りた赤毛の人物は一言アドバイスを言うと駆け足で去って行った。
「……横着な野郎だなー。近道のつもりかよ」
「まぁ緊急の呼び出しとかあれば、階段使うよりは速いだろうが……」
「ちなみに購買は三階からが一番近いニャ」
「じゃあ三階に行こう」
訳知り顔で口を開くオリヒコだったが、それを聞いたアーサーが三階へ行くと決定したので他のメンバーに小突かれてしまった。
三階の座席は疎らに埋まっていたがアーサー達は適当にそれぞれの仲良し組で別れて座ることにした。
「食事の時くらいは怖い上司の顔を忘れていたいだろうしな」
「そうかなー? アーサー1人だけ離れれば良くないか?」
「(´・ω・`)寂しいコト言うなよ……。それより食おうぜ………美味い! t単位の野菜を煮詰めて凝縮された旨みの深みが感じられるぞ」
「うるせえぞ、黙って食えよ」
「上司じゃなくてもアタシは面倒だぜー、こういうヤツ」
「(´;ω;`)ちゃんと塩味も効いてて美味しいなー」ジュルジュル
昼食後に一旦部屋へ戻っての午後からは、また午前中と同じくグラウンドに集まったCBB一同。午前中との違いは全員が完全武装をしている事だ。
皆の前に立つアーサーは昨日の派手な衣装とは打って変わって、タイトな服装の上からグレイシャードの部下達がしていたのと似た関節を守る防具を身に付けている。
「さぁーてと、ここの料理は美味かったなぁ? あとは種類と調味料が揃えばまあまあだけど……」
「旦那ぁ、そんな事より言われた通り武装して来たぜ。と言っても俺とナナラは普段着だけど」
「お前ら貧乏人にんな上等な期待はしてねーよ。でだ、今から始めるのは最終テスト、総仕上げだ」
「総仕上げ?」
オリヒコとその妹のセーナが揃って首を傾げる。今の二人は人間形態だが、変身して戦うことを想定して厚手のズボンを幅広のサスペンダーで吊った半裸に近い格好をしている。
セーナは女の子なので胸を隠す鉄板をベルトで装着しているものの、オリヒコと同様に背中はガラ空きなので目のやり場に困る姿である。
「何、やる事はシンプルだがその前に……お前らも思ったろ? 昨日の、俺の試合、何が何だか、ってなぁ?」
「それはまぁ、ねぇ……?」
「うん……遠いし暗いし、倒木と土煙で隠れていたし……」
ラーナとルルーラも互いに似通った格好をしている。光沢を持つ革製のツナギは、一言で表せば黒いボンテージ。
グレイシャードも黒い蛇皮のパーカーを身に付けていたが、あちらは光沢が有ったり無かったりする不思議な素材で更に数段上等な代物だった。
「俺だけ強さがハッキリしない、ってのは上に立つ身としては余りよろしくないと考えた訳よ」
「よろしいも何も、昨晩はともかく、朝の入団テストで嫌と言う程に思い知らされましたが?」
「レオンはそうだろう。だが寝落ち合格組はどうだ? ん?」
「寝落チ合格っテ……」
「まあ確かニ、レオンさんほど知ってはいないけどネェ……」
レオンと虎の双子のジェリコとジェットは、入団テスト時には身に着けていなかった鼻と顎まで守るヘッドギアと手甲を装備している。細かい波状の加工によって防御力を上げる工夫が施されているようだ。
「特にアレン、お前は機転で入団テストを合格したが、お前が一番俺のことを何も知らないだろう? 違うか?」
「………ええまぁ、その通りです」
最年少のアレンの姿は入団時と変わり映えしない、上半身が毛皮のポンチョで覆われた格好だった。斑模様の何かの毛皮だが、薄らと魔法的な力を感じるので見た目以上の防御力がありそうな雰囲気である。
「あ、'C'確定のグィリルはもう休憩してていいぞ。今から始めるのは集団戦闘だからな。セイスのおっさんはどうする? 非戦闘員枠だけど?」
「ハッハッハッ、見くびられては困りますなぁ団長殿。神の御技は攻撃だけに留まりません。老兵の底力をしかとお見せ致しましょうぞ」
「お元気ですねぇ。ま、私は勿論、お言葉に甘えて下がらせて頂きます」
僧侶のセイスは肩幅以上の貫頭衣の下に、ガチャガチャとうるさい金属鎧を身に付けているようだ。腰にはアレンの物よりも強い力を感じる紐を巻いて貫頭衣と鎧を密着させている。
ちなみにグィリルの姿は行商時の旅装だが、強盗や獣に襲われることを想定して防御力のしっかりした素材を使っている。軽くて丈夫で、オマケに裸で居るより動き易い工夫が凝らされ、"戦えずとも生き残れますよ!"と豪語していた。
「言うまでも無いが、お前らも参加しろよ」
「当然」
「殺すつもりで良いよな?」
「勝ったらトドメ差した奴が団長になるのかー?」
CBB出身組も完全武装だ。
リーサル植本は例の吸光塗料一色のフクロウのコスプレを着ている。頭には同じ塗料でコーティングしたケブラーマスクを装着し、地肌まで塗って目線すらハッキリ確認出来ない。
みんなから"マナミ"と呼ばれる少女は、リーサルと同じくベンタブラックがコーティングされたフード付きポンチョとケブラーマスクを装備している。
カールは自前の参号型最上級戦闘服。
ビアンカは自身が盟主を務めていた同盟"婦陣會"のオリジナルデザイン特攻服の見た目をした赤い丙種高機動型戦闘服。
「ではこれから何をするか発表する! その名も……
"第一回、CBB チキチキ ド頭カチ割れ、叩いて殴ってノックダウン大会"〜!」パチパチパチーン!
「「「はぁ……?」」」
完全武装でと集合させられていて殺気立っていたCBBのメンバー達とは対照的に盛り上げようと手を叩くアーサー。案の定スベッた空気を咳払いで誤魔化して、アーサーは説明に移った。
「ルールは簡単だ。全員で一発、俺に攻撃を当ててみろ。制限時間はそうだな……夜の照明が灯されるまで、としようか」
ルールを聞いた全員が様々な反応をする。ある者は「それだけ?」と困惑し、ある者はあわよくば思いっきり刺してやろうと獰猛な笑みを浮かべる。
そんな反応を楽しそうに一瞥したアーサーは続けて、地面に足でズリズリと線を引きながら説明していく。
「一応、実戦形式だからな、お前らの武器の使用は自由。俺はこの……円の中からは出ないようにする」
出来上がった円の直径は約2メートル。その中心に立ったアーサーは、自分の鞄から細剣を2本取り出して腰の両側に履いた。
「俺が使う武器はこの"剛剣レイピア"2つだけだ。ちなみに俺の手作りなんだが、よく出来てるだろ? さあ、お前らも武器を出せ。MVPには特別手当を支給してやるぞ」ニヤニヤ
「特別手当って何(ニャ〜)に?」
「金か物かどっちか選ばせてやる。俺が用意出来る範囲でイイモノを贈ってやるぞ」
「期待してイイんスね?」
「MVPは一人だけだぞ? それを踏まえて、いつでも…」ジャリ……
タアァーーーーーン!!!!!
バチィ!!
「嘘ぉ……」
「デケェ弾、持ってんだなぁ。AKのよりちょい大きいな」
アーサーは手に指出しグローブを嵌めている。素手の指先でつまみ取ったのは紡錘形の鉛玉。
弾丸を放ったのはルルーラだ。彼女が両手で構えた大口径のボルトアクションライフルから、ふわりと硝煙が立ち昇る。
「不意撃ちとしては赤点だな。次は乱戦の際中に適正距離から狙ってみな」ピンッ
カツンッ「あん?!」
アーサーが手の平で弄んだ弾丸を指で弾き返すと、ライフルの銃口に当たって呆然としていたルルーラは驚いた。
「"あん?!"だって、シシシ! 素早いだけじゃー、通用しねーよ。それじゃ、小手調べはこれくらいにして、どこからでも掛かって来なさい」クイックイッ
グィリルはその場の空気が急速に緊張していくのを感じ取り、傍観者気分で居るにはここは危険地帯だと悟って屋内へ避難しに走り去った。
そして同じタイミングでアーサーの前へ進み出たのはカール・B・ヌァラである。
「コイツを討ち取る手っ取り早い方法は囲んで囲んで叩きのめすことだ! 俺は正面、レオンは背後、ビアンカ・リーサルは遊撃、素早さに自信のある奴ぁさっきのテストみてぇな嫌がらせ! 遠距離攻撃は十分に離れていても立ち止まるなよ。おっさん! 何が出来る?」
「神の御技を与えてしんぜよう」
「じぁあすぐくれ、筋力か防御力でいい」
「ならば25分ほどで半日効果を保たせられる上級の施術を複数人に施せられますが、如何か?」
「わかった。これから30分間作戦会議! 攻撃開始は1時間後! 各自それまでに必要な物は用意しとけ!」
「「「応!!!」」」
カールの号令で各自、鞄から武器や道具を出したり数えたり、役割分担の話合いで俄かに騒がしくなっていく。
「おぅーい、俺のこの手はどうすんじゃーい」クイックイッ
「知るかジジイ、いつでもって言ったのはテメーだろうが」ビッ!
カールは中指を立てて一蹴すると、指示を出しに離れて行く。残されたアーサーは円の範囲から出る事も出来ず、一人寂しくポツンと立つしかなくなった。
「(´・ω・)ショボーン……………
(・ω・)ピコーン!
(゜ω゜)ククククク……!!」
( ゜д゜)!? / ブホッ \
(°_°)………あ、高評価、イイネをよろしくお願いします。




