53.d(´-ω-`)逃げたか
高速移動するブラックのスピードは、撃った弾丸に対応可能な歴戦の猛者達でさえ捉えることは困難だった。
「どっちも凄ぉ! どっちも神懸かり的! どっちもイカれてるよ!」
「ビアンカ姉さんも凄かったけど、あの子供……あんなに強かったんだ……」
「………リーさん?」
「…………ん?」
ルルーラがリーサル植本に声を掛けるも返事はどこか上の空だ。
植本は闘いを瞬き一つせずに観ていたが、その表情は口を真一文字に引き結んだまま悔しさと感動の入り混じった複雑な顔をしていた。
「一体何ガ起こってるんダ?」
「速過ぎて何にも分からねえ」
「格が違い過ぎる……」
「ニャアニャア、レオにゃん? 解説して下さいニャ」
「………………」
「…………もしかして解らにゃい? 無視? シシシ」
「(観戦の)邪魔だ」ガッ
「ニャガガガが!? 潰れる! 潰れるニャ!」
「バカタレ、わざわざ前に出るんじゃねーよ」
「マヌゥの言う通り、大人しく座ってようよ」
「うん……でも肉球、柔らかかったニャ」
(悪いが無視している訳ではなくて、私も解説……と行きたいが、語れるほど詳しいことはわからない。相手のブラック氏のあのスピード、知覚は出来るが目で追うことは……いや出来そうにないな。
辛うじて分かったのは、あの驚異的なスピードにイェン・タフォー殿が徐々に対応しつつあるという事だけだ)
根がクソ真面目で慎重な為に、不確かな事は言うまいと自重した結果、密かに練習していた解説の機会をレオンは失った。
だがバトルはレオンの見立て通り、イェンの有利な状況へと傾いて行く。
(ざっと数えた限り約120人ほどは屠ったか。だが、数は減ったというのに、ちっとも楽にはならない。というより段々、俺が押されてきている!?)
一見、ブラックがイェンを圧倒しているように見える。今も一回の移動で1〜3人を地に沈めている。
しかし数が減った分だけイェンの動きは精細さを増していっているようにブラックは感じていた。
残り30人を切った時、事態は大きく動き出す。
ズキッ!
「グゥゥゥヌゥゥゥ!!?」ズキズキズキ!
ガッ! ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ
身体を掻き毟りながら、高速移動を中断した勢いで地面を転がってしまうブラック。
「ンンンンンがあああ畜生!!!!!」
ババババッ
好機とみて殺到するイェン達。
スハ゜゜゜゜゜!
ブシュゥゥゥ!! ドサドサドサドサ!
しかし全員、着地するまでに身体をあらゆる角度で両断されて落下した。
ブラックはこの闘いで初めて武器を抜いた。
まるで黒曜石のような刃に、静脈を連想させる蒼い筋を持った大型のカランビットナイフ。柄の部分には、魔力の籠った宝石が三つも埋め込まれている。
続け様に果敢に攻めるイェン達もクナイや鎌で切り掛かる。が、今度はその武器ごと真っ二つにした所で、ようやくイェン達も攻撃を止めた。
しかしブラックは苦悶の表情をやめない。
(何だ一体?! 皮膚に刃が食い込んでいるようだ!)ズキズキズキ
ブラックはウィル・ゴードンのような硬化能力を持たないが、魔力で防御力を上げる術を用いて身を守っていた。それを抜きにしても彼の身に着けている強化外骨格の防御力は、自他共に絶大な信頼を寄せている。
気を抜けば文字通り身を切られそうな感覚に、ブラックは甚だしく動揺してしまう。
その動揺は、観ている者達にも伝播していた。
「ブラック様の鎧から瘴気が?!」
ブラックの副官を務める女性が悲鳴を上げる。
そう、ブラックの外骨格から眩い燐光が発せられているが、それを遮るように首元などの隙間からイェンが出すのと同じ瘴気が溢れ出ていた。
「く………!? こ、これはいつの間に……? いや……そうか、影だな?」
ブラックは意識を皮膚に向ける。
外骨格は自ら光ることで敵を挑発する効果を持つが、今回に限っては内部に影を生まない副次効果が見込まれていた。だが実際は下着と皮膚の隙間から、イェンの瘴気が湧き出ている。
(見立てが甘かったか……だが全裸で着ると、それはそれで怒り狂う者も居るしなぁ)
「警戒していたんだがな………ま、種が判ればどうにでもなる、こんなの、散髪後の肌着の不快感に比べれば我慢できない程じゃない」ズキズキ
背筋を伸ばすブラック、その眼は初めてアーサーを見た時と同じ、獲物を見詰める眼だ。
「この場で俺に武器を抜かせた事は褒めてやる。だがお前ら全員、確実に駆除してやるからな」
次の獲物を見据えて身構える。
(数が減れば減る程、瘴気の濃度が上がっている。比例して技のキレも上達しつつある。最終的に俺を倒し得るかどうか、見ものだな)ニヤリ
"黒路"
ズハ゛゛゛゛!!!!
4人分のイェンの首が飛ぶ。
ト゛゛シャ!! ゴキッ!
続けて2人を轢殺し、1人の首を折る。
ギューーーーーン、ビタ!
「うおらああああああああ!!!」ブウン!!
首の折れたイェンをハンマー投げでぶっ飛ばすと、投げたイェンがバラバラになりながら他の者に致命傷を与えて逝った。
「残り23!」ギュン!
ハ゛゛゛゛゛!!!!!
イェン・ハンマーで虫の息になった者達に止め刺す。
「残り7ァ!」ハ゛゛チィ!!
完璧に息の合ったイェンの同時攻撃を造作も無く防いだブラックは、素早い反撃で両脇の2人の首を薙いだ。
「残り5ォォォ! !?」ピィーン
首を薙がれた内の片方だけ首の皮一枚繋がった状態だ。そのイェンは相方と協力して、ブラックに鋼線を引っ掛ける事に成功し、鞄からスタンガンを出していた。
バッ バチバチバチバチ!
『雷遁"満貫電血"』
鋼線を伝って電流がブラックに襲い掛かる。だがその威力は思った程ではなかった。
「チッ、この程度か?!」
常に魔力で防御している為に、僅かに痺れを感じる程度だった事で、ガッカリした表情でナイフを振りかぶる。
"シモセ"……
「??!」
ブラックの耳元で誰かが小さな声で呟いたのを感じて、一瞬だけ驚いた。直後、ブラックの第六感が、強烈な危険信号を感知して身構えた瞬間。
ボウ! ブボボボボボバ!!!
「ぎゃあああああああああああ!!!!??!」
「あれはまさか!?」バッ
物見台から様子を見ていたグレイシャードが、その場から慌てて飛び出して行った。何故ならブラックの外骨格の内側から、新型火薬と同じ暗緑色の炎が吹き出していたからだ。
ブラックはすぐさま地面を転がり回って火を消そうとするも、外骨格の内側から噴出しているのでは全く意味を為さない。
「ああああああ…"外骨格制限解放"!!!」
ブラックの強化外骨格の燐光が、それまでとは桁違いに輝いて周囲を真っ青に染め上げる。
……シューーーージジジジジ、ゴポ、ゴポポ
そんなブラックの周囲からは煙が立ち、足下の土が光沢を発することで、地面が高熱を帯びていることがわかる。
ジャリ、グチャ ジュウーーー!
「確かその鎧には、基礎体温の高いブラックさんに合わせた放熱機能が有りましたね? 許容量を越えている様なので試合を終わらせますが、構いませんね?」シュー
そこに現れたのは審判役のグレイシャード、ブラックのすぐ側に立って居る。その姿はガスマスクを除く全身が、水の塊を纏っているように見えた。
彼の足下では、ブクブクと水溜りが広がっては縮む現象が起きている。
そんな姿のグレイシャードに向けて、ブラックが腕を伸ばしてハッキリと告げた。
「水を差すなグレイシャード! これしきで……負けるかあああぁぁぁ!!!」
バガン! ギギギギギギシュー……ドスン!
ブラックが雄叫びを上げると共に、外骨格が展開していって焼け焦げた上半身が露わに、そして装甲が地面に落下した。
落下したのは外骨格の装甲だけではない、完全に炭化した人間大の塊も一緒に転げ落ちる。
「これで……残りは4」ガサガサ
ブラックが自分の鞄から水筒を出して頭から中身を被った。水筒にも鞄のような機能が備わっているのか、炎の勢いが治まるまで水が流出し続けている。
その間にグレイシャードがイェンの方を見ると、4人のイェンが背中合わせに集まって、手で印を結んでいた。その頭上には、これまでの闘いで流れ出たすべての血液が吸い寄せられ、巨大な血の球体となって浮いている。
「「「「幽遁憑依術"喧嘩祭後夜祭"」」」」
球体から4本の管が伸びて、それぞれがそれぞれのイェンに突き刺さり、球体から管を通して血液が送り込まれているようだ。
「ぶはぁ!! ククッ……死ぬところだったぞ」
「こっちは何度も殺されてるんだけど?」
ブラックが復帰するのと、イェンの術が完成したのはほぼ同時だった。
ブラックの上半身は火傷でボロボロになり、頭のヘッドギアも溶けて地面の上でトロトロに崩れている。無事なのは腰から爪先までの外骨格部分だけだ。
4人のイェン達は、兜のデザインが微妙に違った、ドス黒い血の装甲を身に付けた甲冑武者の姿をしていた。手に持った武器も異なり、端から両手鉤爪、クナイ、分銅付鎖、日本刀を握っている。
「フゥ、フゥ、フゥ。こうなると、こちらもそう長くは持たない。決着をつけよう」
「本当にしぶといですね。ここまで来たら、俺も俺達の仇を討ってやらないと浮かばれんね」
5人の様子を見て、後ろに退がるグレイシャード。
十分な距離まで行ったのを見計らって、まず動いたのはイェン側。その挙動を確認して、ブラックが自分のナイフを握り直す。
"黒路"
ガシーーーン!! ビィーーーン!!
高速移動をしたブラックだったが、イェンの鎖に捕まってお互いに引っ張り合い、一瞬、宙に浮かんだ。
そのタイミングに合わせた斬撃がブラックに迫る。
"黒路"
ドォーーン!!
鎖をすり抜けて、鎖に沿って移動し、鎖持ちイェンの兜ごと頸を踏み抜いた。反転して、また鎖の上を高速移動し、刀を振り抜くイェンに向かってナイフを逆手持ちに突き出した。
そんなブラックの眼前に、視界の端から鉤爪がにょっきり生えて来た。彼は肩を掠めながらも辛うじて避け、刀イェンを切り裂いた。
スパッ フワリ
ナイフを持たない方のブラックの肘から先が宙を舞う。その向こう側で、クナイイェンが何も無いように見える空間を手繰り寄せる仕草と共に、引き寄せられるクナイをブラックは目撃する。
クナイイェンを守るようにその前方に踊り出る鉤爪イェン。
ブラックはナイフを順手に持ち替えてから、人差し指と薬指でナイフを挟む形にして、手の平を鉤爪イェンに向けた。
" 黒 砲 "
その瞬間、クナイを持つイェンと鉤爪イェン、そして切断されたブラックの腕が、跡形も無く消し飛んだ。
(=^▽^)σおやぁ?君は確か…?
「あれ? んん? 何してたっけ?」
(`・ω・´)おっと、無視はいただけないなー
「馴れ馴れしい。そんな事より、どこだココ」
( *`ω´)それが人にモノを訊ねる態度ですかい?
「ああ分かった、これ走馬燈か」
(・Д・)今までの人生で俺に会った事有るの?
「さあ? 憶えてないのは確かだけど」
(^o^)まぁ、走馬燈なら死に掛けの状況って事になるのかな?
「やっぱそうなのか。どうにかして戻らないと」
(^^)戻って何するの?
「死に掛けてるんだから、生き返りたいのは当たり前だろ?」
^^幽遁使いのクセに、対処法も知らんのか?
「突っかかるなー。だいたい誰だよお前」
(^。^)俺はお前と同じさブラザー
「はぁ? そんな手抜きアバターと一緒にされても困る」
( ゜д゜)喧嘩売っとんかワレェ
「馬鹿馬鹿しい。鞄、鞄は…」
(・_・)それはそうと君は誰?
「出会い頭は知った風な感じじゃなかった?」
(´-ω-`)見覚えがあるだけ、一応、確認したいのよ
「俺はイェン・タフォーだ」
(´・ω・)ホンモノ?
「何で?」
(•ω•)だって普通に喋ってるもん
「………………」
(•ω•)自分が本物かどうかの自覚ある?
「……本物に決まってるだろ」
( ´Д`)y━・本物かどうかは置いて、実際に戻ってもしも、もう1人とカチ会ったらどうするつもり?
「もう1人?」
(´-ω-)y━・~~もしもの話だ
「………術が解ければ勝手に消える。どうもしないさ」
(´•ω-)何もしない?襲わないの?
「何故?」
(^。^)俺はお前と同じさブラザー
「それさっきも聞いた。……同じ?」
( *`ω´)ちょっかい掛けられると反撃したくなるよね!
「まぁ………その気持ちは解る」ジャラ
( ´∀`)ハハッ、鎖?それでどうするの?
「………いや、何もしないよ」
( ´ー`)諦めるのかい?
「勝てない相手に挑んで負けたくない」
(´・ω・`)殊勝だね
「はぁ……なんだか理解したよ。アンタもコピーか」
(・ω・)ほう?なんで判るのかな?
「それは、初めてユウに会った時と、二回目に会った時の感覚的な違いに似てるからかな」
(°_°)へぇ?やっぱりそんな感覚あるんだ。
「なんとなくだけど」
( ´_ゝ`)それじゃあ、どうする戻るかい?
「戻った所で混乱するだけ、面倒だし、寝るよ」
_(:3 」∠)_さよか。本当に良いんだね?
「うん………おやすみ」スゥー…
( ˘ω˘ )おやすみなさい




