52.\(°-° )上にまだ…
|||||シュッ
§ 少し遡って、イェンが"百鬼夜行"発動直後
「オイオイオイオイオイ!? どーなってんだアーサー?!」
「よぉお前ら、元気そうで何よりだ」
治療を受けていたカールとビアンカが戻って来た。カールは腕にギプスを吊っており、ビアンカは腹と幾つかの箇所に包帯を巻いて現れた。
状況を尋ねるが、火の点いていない煙草を咥えるアーサーは二人の方をチラリともせずに鞄の中身に釘付けだ。
「班のUIにいきなりイェンのマークが大量に出て何事かと思ったら……何なんだアレー!?」
CBBの機能として班を組んだ者同士は、お互いがどの方角に居るのかを示すUIが備わっている。パーティの上限は6人だが、今はそれ以上の数のイェンを示すアイコンが出ている。
「イェンの奴、"奥義"を使ったのか?」
「いや、まだ"百鬼夜行"の段階だ、恐らくこれから負荷を減らす為に幾らか間引いて奥義に繋げると思う」
「"奥義"?」
奥義とはいわゆる必殺技の中でも特別で強力なスキルである。
CBBに於いてはスキルの名前を自由に変更できるものとそうでないものがあり、奥義は前者に該当する。挙って素敵な名前を付けて使いたい者は大勢居るが、その為に必要なスキルと発動コストは並大抵ではない。
「チッ、奥義は任意の通常スキルを発展させたスキルだ。強力なのは当然として、通常の5〜10倍かそれ以上のコストが掛かるな」
「そんなに掛かるの?! つか舌打ちしたかアーサー?」
「してねえ(嘘)。一口にコストと言っても武器スキルと魔法スキルでは多少別の物を使うくらいは知ってるよな?」
「当たり前だい。前提コストの体力と、武器なら武器の耐久値、魔法なら魔力だろ」
「そうだ。通常なら発動に必要なコストはまず体力を使い、残りを武器に支払わせる。魔法も同様に体力+魔力だ。足りない場合は、武器がぶっ壊れるか、スキルの不発だ」
「ふーん。あ、だから武器とか使わない体術系スキルは前提コストが割高なんだー」
アーサーは鞄からマッチ棒を取り出し、靴で火を点して煙草を吸った。燃えカスは鞄にポイ。
「ふぅー、体力が半分以上減るとその分、疲労値が発生して動きが鈍る。だがスキル発動中は疲労値が解除される場合も多いから、そういう体術系の"三酷使"や"蛮勇乙女"を使って誤魔化す者は少なくないな。でもそういうスキルは発動維持にも体力を消費するから、ダメージコントロールをミスって気づいたら死んでた、なんて事もあり得る」
「うーん、そんなに追い詰められたのは新人の頃くらいだけど、蛮勇乙女もまだ覚えてなかったなー」
「体術スキルはキャラの育成度と疲労値で不発率が変わるぞ。もちろん疲労値に関しては他のスキルにも影響が出る」
煙草を一吸いして携帯灰皿に灰を落とす。灰皿には燃えたマッチが一本入っていた。
「細かく説明すると武器や魔法毎の熟練度も関係するが……それは置いておく。話を戻すが奥義に不発は無い、武器・魔法・体術のどれであってもだ」
「え、不発しないの? じゃあコスト足りない時って………死ぬの?」
「おう、死ぬぞ」
「もしかしてコスト全部体力で支払うとか?」
「いいや、通常と同じ通りにコストを支払って足りない分を体力で補填する感じだな。勿論、全般にコストを軽減するアイテムはあるけど、やっぱり足りなきゃ死ぬ」
「ひえ〜」
「しかも通常なら武器スキルにしかない反動ダメージだが、奥義だとどんなスキルでも発生する。もちろん5〜10倍の威力でだ」
「あーアタシ、奥義を覚えるのは当分いいや」
「……トドメに反動が発生するタイミングは奥義が終わった瞬間で、一切の身動きが取れない場合もある。例え勝ったとしても、十分な体力が残っていないとその反動で死ぬ。ハイリスク&ハイリターンなスキルってことだ」
「(;゜Д゜)えぇ………(ゴクリ」
「まあ、覚えるにしても気長にやればいいさ。下地のスキルの熟練度を上げたり、そっから奥義に昇華させたりがどちゃくそ面倒臭いからな」
「お! やっとイェンが一発殴ったぞ!」
カールの言葉に反応して見ると、確かにブラックが鼻血を噴いてダメージを受けている。そしてエリアチャットに、イェンの詠唱呪文が表示されていく。
『彼の血を辿れ、彼の者を目指せ、あれぞ怨敵、標はこれぞ』
「あいつ!?」
「な、何だよー?!」
「霊遁じゃなくて幽遁の奥義にしやがったか」
そう言うとアーサーは鞄の中を弄り、そして一着の戦闘服を引っ張り出して着替え始める。
「丙種高機動型スーツ?」
「もしもの事が有れば俺が止めに入る。お前らそのつもりで見ていろよ」ギュ、ギチ
「テメェみたいに俺達は身内の奥義の詠唱まで網羅してる訳じゃねえ。一体どんな能力なんだ?」
「あそこでまだ生きてる偽イェンの全部が本物になる。コストも反動もCBB最大級だ」
「全部?! 百人以上居るじゃねーか!!」
「イィィエェェェン-タァフォオオオー!!!!!」
ビアンカの悲痛な叫びとブラックの怒号が重なる。
『幽遁奥義! "唯我独占"!』
§ 現在
ドサドサッ ゴロゴロゴロン……
鋼線を全て引き千切り、纏わり付く精鋭達も全員吹き飛ばしたブラック。燐光と返り血で壮絶な輝きを魅せる強化外骨格は、未だ無傷である。
「ハァ…ハァ…ハァ……」
「…………………………」シュ〜
お互いに黙って相手を観察するイェンとブラック。
イェンの身体からはドライアイスの煙のように黒い瘴気が流れ落ちる。
ブラックは高熱を発しているのか、外骨格の表面にグラグラと陽炎を纏っている。
ブラックは周囲をぐるりと見渡した。
そこには騒々しく喧嘩をしていた有象無象は居なくなり、代わりにイェンと同じく瘴気を垂れ流しつつも静謐を保ちながらブラックを見つめるイェン軍団の隊列が揃っている。
「ハァー、末恐ろしいよ。心からね」
「……貴方の方こそ恐ろしいよ。だって先の二人のような特殊能力を見せていないもの」
「なんだ、話せるじゃないか。ちょっぴり安心したよ、心が壊れていないようで。ふぅ……実力を認めよう、君に敬意を表して全力で御相手する」
「ゴクゴク、ぷはぁ」
ブラックが目を離した隙に、イェンはタウリンが配合された清涼飲料水を飲み干した。
「コラ、これから真面目に殺り合う時にズルいぞ」
「こうでもしないと貴方に勝てないので」ポイッ
「フン、仕切り直しだ。最初は俺が蹴ったから、次の一手は君に譲るよ」
「あざーす」パチンッ
イェンが指を鳴らすと全ての投光器に遮光幕が被せられた。物見台に設置されているライトと天から降り注ぐ月光が、二人と二人を囲む軍団の足下に暗い影を映す。
そして全てのイェンが一斉にブラックに向かって走り出す。
スタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ
「一手は譲ったぞ」
「「「「幽遁"道連れ草"」」」」
グオオオオオオオオオオ
ブラックの足下の影から無数の黒い雑草が立ち上がる。
" 黒 路 "
メギィ! ボキボキボキボキ!
ドオーン!!!
「ゥアァア゛!!!? ゴボォ!」
突如、イェンが吹き飛んで後方の軍団にぶつかる。直前までイェンが居た位置にはブラックが前のめりに立っている。
軍団がブラックの周囲にマキビシを投げ付け、鎖鎌も投擲。だがそこには既に誰も居ない。
ズバッ!ボンッ!グキッ!ガゴッ!ドンッ!ズボッ!
ゲシッ!バンッ!ズンッ!ダンッ!ギンッ!ゴバッ!
駆け付けるイェン軍団が瞬く間に惨殺されて逝く。
屍の数は既に百体を越えていた。
(´∀`)お、ここ良さげ




