51.d(-д- )俺は一人で十分だ
(´・ω・`)こっわ
ブラックのドロップキックで吹き飛んだイェンは、術を発動する為にポンチョの内側で印を結んでいた。両手を様々に組み合わせる印を結び終えた時、イェンのポンチョの中から四人のイェンが現れる。
「「「「幽遁降霊術"百鬼夜行・喧嘩祭交差点"」」」」
わらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわら
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
ポンチョの中から現れたイェン達の、その又ポンチョの中から同じ人数のイェンが現れ鼠算式に増加していく光景は、まるで早送りで巨大な蟻塚が出来上がる様子を見上げているかのようだ。
幾重にも重なって歪な組体操の様な格好で大きくなりつつあるイェン達のタワー、その人数はあっという間に百人を越える勢いで増殖していった。そしていよいよ高さが観客席の上段に届くかという所で堰を切ったように崩壊し、津波の如き勢いでブラックとグレイシャードに殺到した。
「フンッ手応えは有ったのに仕留め切れなかったのはまあ良い。しかし小手調べの返礼に幻術とは臆したか?」
(幻術? 俺にはこいつ等全員からイェンと同じニオイを嗅ぎ取れるぞ?)
一旦距離を置こうとしたブラック達であったが、どんどんと増えていくイェン達は、二人を瞬く間に呑み込んで尚増殖する。
「馬鹿な、押し込まれている?! 幻ではないのか!?」
「クソッ、臭いが付く!」ダンッ!
グレイシャードが堪らず飛び上がって離脱する。数人の頭を足場にして物見台の柱に飛び付き見下ろすと、グラウンドを埋め尽くさんばかりの人混みで溢れていた。
そのままよじ登って物見台に到着した所で増殖は、グラウンドに設置した4つの投光器に到達した辺りで治まっていた。
「何なんだ一体、暴走現象か?」
「オマエモナー」「>>2ゲトォォォ!!」「フーン」「流石だよな、俺ら」「逝ってヨシ!」「ちょっと通りますよ」「3分10円」「貴方は髪の毛有りますか?」「ワクワクテカテカ」「ちくわ大明神」「ショボーン」「Doooraemooooooooon!!」「スヤア」「あなたは好きですか?」「んほぉぉぉ!?」「ぬるぽ」ガッ「おにぎりワショーイ」「ぶるああああ」「北ー!!」「zipでくれ」「ぞぬ」「ゴルァ」「チンポッポ」「茄子やだゴニャ!」「パガクゴア」「アーッ!」「鬱ダ死ノウ」「daddy cool!」「>>1さんハアハア」「ブーン」「ぅゎょぅι゛ょっょぃ」「そんなことよりオナニーだ!」ビターン‼︎ビターン‼︎「ひよこ陛下万歳!」「ホンマスンマセン」「prpr」「ゆっくりしていってね!」orz「あなたは赤い部屋が好きですか?」「やらないか?」「オンドゥルルラギッタンディスカー!!」「ぬふぅ」「僕アルバイトォォォ!」「常識的に考えて」「歪み無えな」「くっ殺せ」「つぁーでっはい」「シャキーン」「ネッ広ね」
眼下を埋め尽くすイェンの大群は、それぞれ意味不明な言葉を叫んだりしながら我武者羅に暴れ回り同士討ちを始めていた。
それを眺めていた物見台の将校が、登って来たグレイシャードに詰め寄った。
「まるで制御出来ていないじゃないか。このドサクサで少将の身に何かあれば事だぞグレイシャード!?」
「落ち着けロンさん。あの人はこれくらいでどうにかなる玉じゃない、それよりこの大群の中から捜すのを手伝ってくれ」
「ああ、然しこの数の中からか……」
「銃でも撃ってくれれば早いが、少将閣下はどんな銃を使うので?」
「聖遺物を使うが整備中だ。それに、歓迎試合で銃を使う事に反対している方だから、予備を携行していたとしてもこの場で使う事は無いだろう。それより鼻は効かんのか?」
「風下なら大雑把な方角は分かるとしても、しかしこれだけ距離が有ってあの喧騒、おまけにアイズマン卿の支配下では無力です」
「あの連中が少将よりチビなのが不幸中の幸いだが、こりゃ時間が掛かりそうな………いや!? 見つけたぞ! あそこだ!」
そう言って指し示した方向、地上の投光器の光が遮られていて見え難いが大群の中心付近、2人のイェンに組み付かれながらも周囲を蹴散らすブラックがそこに居た。
「ハッハー! 寡兵に大軍をぶつけるのは楽しいだろう!? だが俺としては武器を使ってくれた方がもっと楽しいぞ!!!」ドガッゴッズド!
「おもし⁉︎」「ろふらッ⁉︎」「シュウ⁉︎」バタバタバタ
上空にぶっ飛ばしても、地面に殴り倒しても、次々に錯乱したイェン達が前後左右から襲い掛かって来る。中には取っ組み合いをしたままぶつかってくるのもいるが。
(召喚の一種? だとして自分自身を複数呼べるものか? それに見た目だけの人形や土塊じゃなく、手応えは最初の本人とまったく同じ丈夫さ。不幸中の幸いは、戦闘力にバラつきがある事か……)ガッゴキン!
よくよく観察すると取っ組み合いをするイェン達は、実力が拮抗していつまでも争っているのが殆どだが、ごく少数だけ次々と他者を屠る精鋭を見掛けた。精鋭同士はまるでお互いの位置を把握しているかのようにグラウンド内に点在しており、更にブラックの視界から逃げる様な立ち回りをしていて一体何人の精鋭が居るのか分からない。
精鋭に倒された者達を近くで確認すると、刺したり首の骨を折られたりして死んでいた。
(有象無象を蹴散らすのは簡単だが、密度が高過ぎる。まとめて倒しても消滅しないから、足場がどんどん悪くなる。最悪な所はこいつ等、血を流して死体になっても消えやしないんだから、召喚の中でも伝説級の魔法かもな)ズドン! ゴバッ!
周囲は手当たり次第に争い続けている。そんな中、ブラックの死角を突いて背後から接近し、途中で二手に分かれて左右から挟撃する者が現れた。
パシッ! グイッ
「ぎゅべ!?」「ぷぎゅ!」グシャ!
他の雑魚が突撃するのに合わせたナイフによる刺突攻撃を身体の回転を利用した体捌きで避け、首根っこを掴んで二人をぶち当てる。
「ふっ!」ガッ!
息つく暇無く顔へ目掛け飛んで来るナイフを掴み取る。
「いいぞイイぞ! どんどん来い! 身体があったまってきたぜぇぇ!!!」
精鋭達が集まり始めていた。三〜四人が常に同時攻撃を仕掛け、四方八方からナイフが降り注ぐ。
見事な波状攻撃、されどブラックに攻撃が当たることは無い。この頃になるともう、ブラックも遠慮なく召喚体を殺害して数を減らしに掛かっていた。
もはや降り注ぐのはナイフだけでなく、地面を蹴り飛ばす土塊やイェンの死体、中には死んだフリをする者もある。とうとう生きた雑魚を盾に突進する精鋭が現れた。
「ハァアッ!」ズブヴゥ
その盾ごと背後の精鋭を貫く為にナイフを突き刺した時だった。
バゴォーン!
「ブフッ?!」ビュゥ
ブラックの顔面に鉄拳が突き刺さる。飛び散った鼻血が、目の前のイェンに返り血として付着する。
そして背後の精鋭がブラックに取り付き、他の者と協力してその場から一気に遠ざけて行く。
「か、身体に鞄の機能を?」
「彼の血を辿れ、彼の者を目指せ、あれぞ怨敵、標はこれぞ」
イェンが付着したブラックの血に手を翳すと、悍しい魔力がそこに溶け込んだ。
「貴ィ様ァァア!!!」グシャア!
ブラックの全身を青緑色の燐光が包むと、振り解く動作一つで纏わり付く精鋭達を皆殺しにし、ブラックを殴ったイェンへ一直線に駆け出して行った。
それに対してイェンの精鋭達が全力で肉壁となって進撃を阻止する。
吹き飛ばされても何度でも立ち上がって飛び付き、たとえバラバラにされても鋼線で絡ませてでも纏わりつく。
小柄なイェン達がミツバチの蜂球の様にしがみついて離さない。近付けない者は鋼線を張って地面の杭に繋ぎ止めている。
それでも止まらないブラックであったが、流石にあと一歩の所で完全に進行を止められてしまった。
「フゥーッ! フゥーッ! フゥーッ! グ……」
ギシ……ギギギ……ググ、ジリ……
周囲の精鋭全員がブラックに集中している為に、本物のイェンはポツンと孤立している。更にその数メートル離れた周囲では、相変わらず有象無象のイェン達が喧嘩を続けていた。
「ハァハァ……素晴らしい。ハァ、君は確かに相応しい……」ゾワ
ブラックの全身が悪寒に包まれる。もはや前も目視出来ない程に抱きつかれていたが、正面から感じる凶々しい魔力によって前後不覚寸前の心理状態に陥った。
「委ねよ、其方らこそが我である」
イェンの紡ぐ言葉は、強大な魔力の篭った詠唱魔法。
イェンが構えを大きく取って両手を左右に目一杯伸ばすのと、ブラックの纏う燐光が隙間から溢れる程に輝いたのは同時だった。
「イィィエェェェン-タァフォオオオー!!!!!」
ブチブチブチ!! ズドン! プチッ グチャ! ブチブチ、バツン! ドシュッ
「うおらあああ!!!」ブウン!!
バチィーーーーン!!
「幽遁奥義! "唯我独占"!」




