50.<(´ー`) y≡=ー⁂パンッ!‖‖‖ スカッ
_(´д`;」 ∠)_∠3
ドドドドドドドドドドドド
グラウンドの整備は旅行カバンで出来た穴に土を埋めて固める作業のみであり、それが終わり次第、次の試合が始められる。
作業を待つ間、アーサーは紙巻き機でオリジナルブレンドの煙草を作り、イェンは集中力を高めていた。だがそこへ邪魔する者が現れた。
「自作の煙草かい? 良ければ一本くれないか?」
「………」
「あん?」
アーサーが作業を止めて顔を向けると、そこには軍服に身を包んだ剛毛のおっさんが佇んでいる。
「申し訳ないが断る。敵に塩を送る真似はしねーよ」
「これは手厳しい」
そのおっさんはイェンの対戦相手、名を"ブラック・ヴェルギリウス"。"死線跋扈"の異名を持ち、その肩書きはベイバード騎士団副団長である。
「いやぁ、噂より見聞きした事を信じるんだが、君達は噂以上の豪傑の集まりなんだな」
「お世辞を言いに来たのかい? アンタが居ると、うちのイェンの集中が乱れるから向こうへ戻っていて欲しいんだが」
「君にとってもそう悪い話ではないと思うんだが、提案がある」
「提案?」ぺろ
「うむ、と言うのも…」
「こんな所に居ましたかブラック様!」
ハスキーボイスでブラックの話を遮って会話に割り込んで来たのは屈強な女性士官。ブロンドの短髪で年齢は恐らくビアンカの一つか二つ上、キッチリと軍服を着込んでいる為か胸が随分と窮屈そうである。
「整備が終われば次は貴方の番です。こんな所で油を売っている暇は……何ですかその顔は?」
「そのなけなしの暇を見つけてこっちに来たんだよ? 申し訳ないが黙っていてくれ」
「ハッ! いいえ、こちらこそ! 差し出がましい真似をしてしまい申し訳有りません!」
「うむ、それで折入って…」
「重ね重ね失礼します。貴様! 何だその態度は! 副団長がお話を為される時に喫煙を始めるな無礼者!」
「すぅ〜……火ィ着けちゃったもん」ホワ〜
「吸うな! 新入りの分際でふざけるな!」
「はぁ〜……」ガクッ
会話が進まない事に頭を抱えるブラック。そうしていると、整備班が撤収作業に入った。
「そろそろですね、行きましょうブラック様。どうやら"敵"は言葉を交すつもりが無い様なので」
「ふぅ〜………そのようだな」クルッ
そう言って二人は踵を返して去って行った。
提案が何だったのか判然としないままだが、大方の予想はつく。選手紹介の時にブラックと目線が合ったことから、恐らくは対戦相手を変更したいとかだろう。
「………貸しだぞイェン?」
「悪いね」
そして第三試合開始直前、グラウンド上でグレイシャードを挟んでイェンとブラックが対峙している。
イェンは暗緑色のフード付ポンチョの下に同色の忍び装束を着込み、ブラックは下着が薄ら透けた特殊な強化外骨格を着ているのだが頭部だけ何の変哲も無いヘッドギアだ。
「先程は話せず仕舞いだったが、一応もう一度提案をさせてくれないか」
「……今更困るよブラックさん」
「偉くなったもんだなグレイ? それより、今ならまだ間に合うと思うんだが、順番を代わってくれないか? 君もとっくに気付いているんだろう? 実力差は明白だ」
返答をする代わりに肩を竦めるイェン。それを見て小さな溜息と共に、同じくらい小さく肩を竦めるブラック。
「そうかい。子供相手でも手加減はしないぞ」
(とは言ったものの、交渉はグダグダだし格好も悪いねトホホ)
「両者構えて」
「………」
本当は無理を言ってでも順番を変更してもらうつもりで、ついでに顔と身形を確認しようとの思い付きで行ったのだった。それが蓋を開けて見れば、煙草を巻く男の隣で超高密度の魔力が体内で渦巻いている何かが居た。
あれほどの魔力を内包していては人として生きて行けるものではない、そう言えば言語能力が著しく欠如しているのだったかな?
魔力量だけなら過去の伝説的な人物やさもなくば魔獣、それこそグレイシャードがパーカーにして着ている"オーブナーガ"等の魔法に特化した怪物に相当する。だがあの密度はどういう事だろうか?
非物質の筈の魔力が高密度に押し込められて液状化を起こし掛けている。液化魔力は狙って発生する代物ではないが、発生条件は強力な魔法を行使する際の偶発的事象と聞いている。
という事は強力な魔法を起動する直前の状態をずっと維持し続けているという事であるのか。
(となるとあの時点で勝つ為の準備を行っていたのか、俺はなんとバカで野暮な事を提案しようとしていたのか…いや、つい今し方したなぁ(・ω・`)スン…)
グレイシャードは既に手を上げている、これが振り下ろされると開始だ。
「始め!」バッ!
ボッ!!! グシャア!!
空気を押し退けて先手を奪ったのはブラック。開始が宣言された次の瞬間には、イェンの顔面と胸元にドロップキックが突き刺さった。
ゴロゴロと派手に吹き飛んで行くイェンが、為すがまま転がって最後は仰向けでグラウンドに横たわる。
「「「…………ぅ、ワアアアアア!!!」」」
余りの容赦の無さに一瞬観客も躊躇したが、直ぐに歓声が挙がった。然し中には体調不良を訴える者も居た。
「容赦無ぇ〜、オレ、あんなの食らったら死ぬ自信があるぜ………? おいマヌゥ、大丈夫か?」
「……ヤバいよアイツ、何なの?」ぶるる
「えぇ? 流石に大袈裟じゃないか? かなり吹っ飛んだってもよ」
「違うよ、気持ち悪ーんだ。……得体の知れないのが、何人も、何体も……」
「何?」
「ナナラもかニャ……実はオレも、胸騒ぎが治らな」ゲプッ
「お前は食い過ぎだろバカタレ。休憩の合間にまた買い食いしまくりやがって」
「オイ! 見てみロ! チビの様子がオカシイぞ!?」
ジェットの呼び掛けに目を凝らして見ると、イェンがポンチョの中で何かモゾモゾとしている。
その様子を注視していると、視界の端でブラックとグレイシャードが急に距離を取る為に跳び下がって行くのが見えた。その行動に一瞬だけ意識を奪われ目線だけをチラッと横に向けると、今度は逆側の視界の端が真っ黒な塊で埋めつくされた。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!
「幽遁降霊術"百鬼夜行・喧嘩祭交差点"」




