7.( ´Д`)y━・~~ココハヒマ
…………………………ンンン?
身体の半分がやけに熱を持っている。特に左の手首か?
ジワジワと痛みが続いて不愉快だ、こんなことはあり得ない。
何があったか……? 俺……俺は"カール=B=ヌァラ"、偽名じゃない本当の名前はしっかりと覚えている。ただ直前の記憶が曖昧だ。
『帰って来いビアンカ』
目を閉じているのにパーティチャットが見える。そうか俺は不用心にも寝ているようだ。
『戦闘中、スグハ無理』
戦闘中とは楽しそうな響きだ。すぐに駆け付けたいぐらいなのに、目の前が真っ暗で何も見えない。
俺は一体どこに居るんどゅあ。
「……ぐご、ふぐぅー!? グハァッ!」
寝ている鼻にお茶を流し込まれた。渋臭ぇ。
「ふっふぐッがは、うらああぁ!!!」ドゴォッ
「言わんこっちゃない!」パラパラパラ
「目が覚めたようだな」
「普通に起こせ、馬鹿糞タレじじい!!」
起き上がりざまに殺すつもりで前蹴りを放つもいとも簡単にいなされる、当たらないよりショックだぞ。
「怪我は問題無さそうだな。武器の用意をしろ、俺は先に行く」
「うわっ?!」
そう言ってユウを脇に抱えて走り去って行く糞ったれのアーサー。
「チィィッ!」
腑が煮えくり返る、背中にありったけの槍を突き立ててハリネズミにしてやりたい。だが藪の向こうに消えた後をどれだけ追っても、アーサーの奴が立ち止まるまで背後を見ることが叶わなかった。
班専用UIを頼りにアーサーを追って川沿いを上ると、ビアンカが座り込んで項垂れていた。
「オイ、どうしたんだ一体?」シュッ
バチィン!
「何時でもこういうの忘れないの、嫌いじゃないゾ」
「どうやら戻したみたいです」
「もどしたぁ? 大丈夫なのか?」
見れば青白い顔して口の周りに食べカスみたいなのがくっ付いている。
「とりあえず口を濯いで顔を洗って下さい。川の水は飲んじゃ駄目ですよ」
「ブクブクブク……ウエェ〜」
様子を見ていると更に上流の方からイェンがやって来る。
「何かあったか?」
「オロロロロン」ゲロリンチョ
「危ねぇ!?」
「川に向けろ! 顔を!」
ノーモーションでぶち撒けやがった。しかし既にどこかで吐いたのか、胃液しか出て来なかった。
「ほら、イェンくんも口を濯いで顔を洗う。飲んじゃ駄目ですよ」
『くん? いや、それより無修正スプラッタが幾つか転がってた。グロイナリ』
「スプラッタ? G設定がデフォルトになってたのか?」
G設定を弄ると攻撃を加えたりした際の表現が、Z指定ホラーゲーム並〜A指定ふんわり表現まで好みに合わせて変更出来、キャラ毎に設定をする。
今まではアーサーと俺だけ最高高画質の3G"Great Grotesque Graphic"設定にしてあり、他のは省エネ画質の筈だったが、バグで初期設定のB級ホラー表現になっていたのかも知れない。
「グロ耐性が無いのはしょうがないが、吐く程じゃないんじゃないか」
『実際に行ってあの臭いを嗅げば、カールも胃の中が空っぽになるよ』
「待て、死体が残ってて臭いまで漂ってるのか?」
「フゴフゴもげもげ」
「いいから洗って下さい。その頭巾に臭いが移っても知りませんよ」
「念の為二人に胃薬を飲ませてやってくれ、イェンは二人を頼む、カールは俺と来い、行くぞ」
そう言ってアーサーは取り回しの効く肉厚のバイキングソードを腰に吊して歩き出した。
何を考えているのか知らないが、俺も愛用の笹穂槍を取り出して後ろを歩く。
「……気持ち悪いな、お前の槍に尻を狙われてるみたいで、マジかよッ!?」シュッ
「ふんっ」
流石に俺の槍は避けるようだ。少しだけ溜飲が下がったから、距離を開けて横を歩いた。
風が止んで空気に血生臭さを感じる。CBBでは嗅いだ事の無い、血と汗と洗ってない強烈な体臭の混じった空気は、確かに吐き気を憶えるのに十分過ぎる。
そして見つけたのは6人分の撲殺体と、銃を携えた15人の兵士だった。