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C.B.B.NEW FACE  作者: 怠慢兎
第一章・顔合わせ
49/83

49. (・Д・) y≡=ー (´ー`)<残機+1だよ

 シャトルを閉じ込めた旅行カバンを足で踏ん付けて両拳を突き上げるビアンカ。いくつか軽くない怪我を負っているものの、彼女の表情はやり切った感じで爽やかだ。


 見守っていたアーサーはビアンカに内心ハラハラしながら、対戦相手に賛辞を贈る。


「ン〜、まあまあ見応えはあったな。相手の…シャトルだっけ? ポンプアクションでガスブロより速く撃ってたな。CBBの中堅層辺りと良い勝負しそうだ」

『そう? ビアンカも結構やられてる様に見えたけど』

「そりゃビアンカが遊び過ぎたからだ。あの派手なジャラジャラでこう引っ掛けてやれば、スパッと切り裂いて今頃イェンの番になってただろうよ」

「あばー!」『ふーん』


 そのビアンカは肩で息をしながらグレイシャードに『コレもう勝ちでしょ』という目線を投げ掛けた。


「フゥ・・・・・」チラッ

「………カバンの強度が判らん。出られるかもしれない」

「ええ? んーアタシが選んだ強度的には大丈夫なヤツなんだけどなー。うん、でも見ただけでは分からないか……面倒だけど、止めないなら仕方ないねぇ」


 この状況から脱出するとなるとイェンの影に潜む能力が思い浮かぶが、そんな能力はCBBでもあまり見かけないし、影くらい薄くなれる程シャトルに実力があるとは思えない。

 それよりもこのカバンが一体どれだけ頑丈で脱出が困難なのかを証明した方が解り易い。


「ヨイショ、ヨイショ……」ズズッズズッ……ゴッ!


 ビアンカが鞄から取り出したのは、彼女と同じ身長のトゲ付金棒。地面に置くと先端のトゲが刺さって直立で安定している。


「このカバン見た目はこんなだけど、咄嗟の戦闘にも使える便利な代物でさー、こっちは見た目通りの"鬼金棒"。コイツでぶっ叩いて壊れなきゃー、(やっこ)さんでも自力で出られる訳無いし、壊れて出て来たら続行ってな感じでどう?」

「ふむ、だがそこまでしなくてもあと10秒で貴様の勝ちになるが」

「まあまあまー、完全勝利に協力してよー」とん


 直立状態で地面に立てた金棒をグレイシャードの方へ押し倒す。ぐらりと倒れ掛かるそれを片手で受け止めようとしたグレイシャードだが、想像以上の重量に肩まで使い支えてやっと止まった。


「………?!! くっ、まあまあだな……フッ!」ズシッ


 両手でしっかりと握ってから持ち上げ、そして振り下ろす。


 グドッ!!!           グラグラ…


 グラウンドの端にある投光器が僅かに揺れた。威力に納得したグレイシャードは頷きつつビアンカに金棒を手渡した。


「……コレで破損しないなら、こじ開けて脱出は確かに無理そうだな」ズシッ

「じゃー軽く一発ズドンとぶち込むね」スッ


 カバンの取手を上に立てて置き、叩く位置を確認する為に金棒で上部をトントンする。そしてゆっくり振りかぶり……


「そー………れッ!」


 ガゴズン!!!!! モワッ

 グラグラ ガシャン!


「「おおおおお……」」カタカタカタ


 ビアンカの金棒による衝撃で周囲の土埃がモワリと立ち上がり、投光器が倒れ、観客席である無駄に高い鉄骨足場が震えた。


「ハッハッハッ! まるで迫撃砲を撃ったかのようだな!」

「確かに、撃った直後はああなりますがね。それよりアイズマン卿、アレでは何も見えないのですが」

「わかっている」ビッ


 ビアンカが土埃を手で払っていると、それまでは凪か微風程度しかなかった所に突如、突風が吹き荒れて煽られ尻餅を着いた。


「あ痛たたッ!? ケッホケホッ! 傷に沁みるぅ……あれ? どこ行った?」


 風で流れた土埃で掠れた目を擦ると、肝心のシャトルが収納された旅行カバンは消えていた。


「ここだ」パンッパンッ

「お? あーあー」


 服に付いた汚れを払い落としながらグレイシャードが顎で示した場所は、衝撃で陥没した地面である。

 そこには消えたと思っていたカバンが、取手こそ潰れたものの、本体はピッタリと閉じた状態で地面の中に埋もれてしまっている。


「コレでは開けられるかどうか以前の問題だな。勝負あり! 勝者、ビアンカ・フォルゴーレ!」

「やったー!」ピョーン


 飛び上がって喜ぶビアンカを観客は拍手で迎えた。一部熱狂的な歓声も聴こえる。

 喜びも束の間、グレイシャードは旅行カバンを引き抜いてさっさと退散するよう命じた。


「オイ、怪我人はさっさと救護所に向かえ。荷物を忘れるなよ」ガボッ! ポイッ

「おっとっと、荷物(コレ)も怪我人だろーが! 大事にしろよなー!?」

「どの口で言うんだ。整備班の邪魔だ。行くぞ」

「待ってよー」


 グレイシャードに戯れながらビアンカも去って行く。入れ替わりで整備班が作業に就くのを合図に休憩のアナウンスが為された。


「さあて次はイェンの出番だぁ、気持ちは如何?」

「短期決戦で出るよ」

「ほう」


 イェンが口頭で会話をする時は高度な術式を用いている際中に限定される。普段であればデタラメな言語しか発せられないので、仲間内で話す時は専ら『チャット』で会話をするのだ。


本気(マジ)じゃん。代わってやろうか? そっちの方が楽しそうだ」

本気(マジ)な所で水を差す野暮、アーサーにMURDERキメちゃうYo?」ギラリ

「Oh怖。お前とバトルはやりたくねーよ。でも正直、羨ましいぜ。コッチに来て初めて見た同格の相手だ」

「………"アーサーにとって"の同格は、悔しいけど格上なんだよなぁ」

「謙遜するなよ。ルール上不利なだけで、制限が無きゃお前も同格以上さ」ポンポン

「頭撫でるな! 鬱陶しい……」

(´・ω・`)ショボーン


§ 救護所


「どうも初めまして、"ユウ・ブーム"です」

「ウゴゴゴアアアァ………ヤァ、ハ…ジメ……マシテ」

「挨拶している場合か?! 麻酔を用意しろ! ウィル、力を抜け! 針が刺さらん」


 歓迎試合の第一戦目が終了した所で想定外の重傷者が運び込まれたことにより、屋外の仮設テントでは設備不足と言うことで急遽、砦内の医療棟に移動していました。


「レントゲン出来ました」

「オゥ………手首の状態が酷いな。上半身の骨もかなり逝ってる。全身麻酔が必要だ。この男は人一倍骨と皮膚が頑丈な癖に痛みに弱い。起きてる間は碌な治療も出来んぞ」


 カールにボコボコにされた相手の方は皮膚を強化する能力を持っているそうなのですが、どうやら痛みを堪える為にずっと強化状態を保っているそうです。


「ハッハッハッ、歯医者でビビる子供みてーだな」

「そこ! 先に言っておくが、そちらの方が重傷だぞ。後遺症が残る可能性が高い」

「え?」

「何?」


 笑うカールに突き付けられた衝撃の事実、まさかの展開に(ユウ)とウィル氏は思わず声が出た。


「今だ!」プスッ

「あう?!」バタ…


 驚愕で気の抜けた一瞬の隙を突いてウィル氏に麻酔針が刺された。それから何事も無かったように治療の準備が始まった。


「オイ」

「脅かすような言い方して悪かった。その手の今後の人生が左右されそうな大怪我は、医療神官棟でパパッと神の御恵みで元に戻すのが無難だ。ここは外科医療棟、俺は手が離せない、ユウ君はここでの見学が優先、手が空いている者で神官棟に案内してあげなさい」

「私が案内します」

「オ、オゥ」

「カルテとレントゲンを忘れるなよ」


 カールが出て行ってウィル氏の治療が始まる。と言っても外科(それ)っぽい施術は内出血を抜き取る為に切開した位で、後は脱臼嵌めたり軟膏塗ったりで終了。


「外科医療と神官の医療行為の違いは何でしょうか?」


 ウィル氏の治療が終わってから医療部隊長に聞いてみる。


「ん? 外科は怪我を次に備える為の訓練の一環として捉えた医療行為だ。この考え方はこの砦の主であるアイズマン卿が提唱し、そこから君のような若い医師を招集する政策を展開している」

「訓練の一環……」

「人間の持つ本来の治癒能力が追い付かないような大怪我でも、追い付けるよう補助して回復させた方がより強い人間に成長させる、という事だ」

「成る程、伝染病に罹ってもお薬で回復すれば、体内に出来た抗体で同じ病には罹らなくなるのと似てますね」

「薬は俺達、抗体は患者自身、と考えれば同じ様なもんだ。その為にも栄養のある食材が必要なのは必然だが、それすら栽培可能なこの肥沃なベイバードは医者にとって最高の環境と言っても過言じゃない」

「おおぅ……、では神官による医療はどうなんでしょうか? わざわざ別棟に分けているので違いがあるのでは?」

「んん?」


 するとここで、それまで熱の篭った発言をしていた隊長が、訝しむような視線をこちらに向けた。


「神官が神々から賜る治癒の魔法、その効果は怪我や病気に罹る前の状態に戻す。正に神の奇跡。だがしかし、戻す事は成長の切っ掛けを無かった事にするので結局同じ事を繰り返す羽目になるんだ。怪我ならまだしも、疲れを取る為にすら神頼みの連中はいつまで経っても成長しない。大昔から知られる事実だ」

「確かに筋トレの疲労も筋肉の小さな怪我ですからね。それ等が無かった事になるのなら、本人の成長だけでなく、設備や資金の無駄遣いに他ならないですね」

「一応念押しするが、神官が居る所でこんな事は話せないからな? 露骨に態度が変わるからとっつき難いんだ」

「了解です。それにしても"神々"と言う事はこの国は多神教なのですか?」

「なんだ君は異国人なのか?」

「ええまぁ」

「知らなかったのなら覚悟して置くと良い、この国で……ここでは神を味方に神々を降す神々の代理戦争の真っ只中だ。目の前に広がる神域の開拓とは、そういう事だと」

「神々同士は随分と仲がよろしくないようですね」

「神学者じゃないから詳しくは知らん。だが一軍人としての常識を言えば、国境線を跨いだ隣国と仲良しこよしなら初めから国境なんて要らないのだよ」

「ふむふむ、む?」


 隊長との会話が弾んで気付くのが遅れたが、足音が近付いて来ている。そちらへ顔を向けると、角を曲がってビアンカとグレイシャードさんが現れた。


「急患だよー!」

「急患? 元気そうだが君は第二試合の……」

「ビアンカ、お腹痛そうですね?」

「死ぬかと思ったよ」

「銃創じゃないか、すぐに準備をしよう。ついて来い」

「いや違う、そのカバンの中のシャトルが急患なんだマゴット」

「………はああぁぁあぁーーー!!!? グレイシャードォォォ! 馬鹿を言うなよお?!」ガシィ!

「こうなるのは解っていたんです。ユウさん、頑張って下さい」ぐわんぐわん


 どうやらカバンの中の人の父親が隊長のようです。暫く荒れそうな剣幕だが、それ所では無いと冷静になって治療に掛かった。

 その様子に胸を撫で下ろしたグレイシャードさんは、あと二試合残っているからと退散しました。

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