48. 何だお前(#•∀•)y≡=ー _(´-`」∠)
「アワワワワ」((( ゜д゜;)))
ショッキングな場面に耐性の低いビアンカがオロオロしていると、グレイシャードが頭蓋骨の原形を留めていないシャトルの顔を一瞥してから言い放つ。
「試合続行!」
「えーーーー!!!??」
驚愕の宣言に客席が騒つく。
だがよくよく耳を傾けると、それらは現場に出る事の無い一般職員の声が大半である。
「……いや、イヤイヤイヤ! コレはどう見たってあたしの〜、あれ?」
ビアンカが自身の『反則負け』であると言い掛けた所で、何か違和感がある事に気づいた。違和感の正体を確かめるべくゆっくりと近づいて行く。
潰れた顔面は完全に陥没しており、飛び出た目玉は繋がったまま、潰れた顔の分だけ膨らんだ頭皮が伸びて髪が疎になってしまっている。
「…………あ!」サッ
ブォンッ!
そしてビアンカが違和感の正体に気付くのと、彼女の顔へ目掛けた爪先が空を切るのは同時だった。
「うえっ、生きてる。気ー持ち悪ッ!」
「ぷヒュッスー……気持ち悪いって心外ですね」
風船が膨らむように、シャトルが息を吸うに従って頭の形状が元に戻っていく。
「流石、噂に聞く怪力。装甲車は馬の何倍もの力が出るから、吹かしてるのかと思っていたけど……俺か義父さんでなかったら本当に潰れて死んでるよ」
「潰れてんのに血の一滴も出さねーなんて、ゴムかよお前ー? 嫌だなー、打撃特化なんだろー?」
「嫌なら降参しましょう。俺も女性を痛ぶる趣味は持ち合わせていないので、そうしてくれると助かります」
「ヤだね! 負ける方が嫌だもーん! てな訳でクタバレ」
「うげっ!?」ドッ
ゴシャッ!!!
死んでなかった事に安心したビアンカがまだ半身を起こして座るシャトルの下腹部を踏み付けて、もう片方の足で顔を思い切り蹴り飛ばした。
「ふぐビョッ!?」ギュルル
ズドンッ!
頭が500°程回転しながらも、踏み付けるビアンカに向けてショットガンを発砲する。
しかし撃鉄が叩くより先にビアンカが銃口に裏拳を叩き込んだ為に、弾丸の複数のボールベアリングが観客席へ飛散する。不運にもその内の一つが真っ直ぐマヌゥの座る席へ飛んで行った。
「危なッ!?」キィン!
バシィッ!「あ痛ニ゛ャーー!?!」
弾道を見極め飛び退いたマヌゥだったが、鉄の足場にぶつかった跳弾がネコ化したオリヒコの後頭部に直撃した。
「ンニャ〜ッッッ!!! 死ぬ程痛ッッたい!!」バタバタ
「ワハハハハハ! バチが当たったな!」
幸いに(?)もオリヒコにタンコブができた以外の被害は無く、そこから目線を戻すとビアンカがシャトルの頭を捻じ切る寸前だった。
「・・・・・?!」バシッ ガシッ!
「いくら柔らかくても、皮膚の長さには限界があるんだろー? このまま降参しねーとブチってするぞ?」ギリギリギリ…
ビアンカの万力のような締め上げに抵抗するかの様に、彼女の腕や腹に銃床を叩き込むもびくともしない。捻じ切られずとも窒息で意識の飛び掛けるシャトルであるが、不意に首の力を抜いて行き場を求める肺の空気を、柔らかい喉へと押し上げた。
すると"ポコッ"と喉仏が膨らんでビアンカの注意を引いた。
「んん? あ痛ッ?!」バッ
ズドッ!「!?」
一瞬の隙を突かれ、ビアンカの腹部に鋭い痛みが走る。反射的に蹴り飛ばして距離を取る。
吹き飛んで転がるシャトルは頭を振って元に戻った。首を摩って具合を確認する手の指には、真新しい血で染まっていた。
「゛゛゛゛んはあー!!! フゥ、えげつねえ真似するね」スリスリ
「このヤロ……、ヘソが増えちまっただろーが〜」
ビアンカの丸出しのへその横に赤い穴が開いていて、そこから血が流れて出ている。ゴシゴシ拭っても血は止まらない。
「・・・・・」
「ハハハ、いくら怪力でも義父さん程の防御力がある訳じゃないんだね。ま、あっても貫けるのが"穿孔軍曹"たる所以なんだけど」
「フンッ!」ミシ
血が止まらないと分かると腹筋に力を込めて止血した。そんなビアンカは怒ったように指を鳴らす。
「乙女の肌を傷物にしやがった責任は取ってもらうぜ〜」ベキっボキッ! ザッ!
脚を大きく開いて膝に手を乗せる。それがビアンカの持つスキルの発動モーションだ。
「"蛮勇乙女"」
ミシミシと筋肉が膨張してビアンカの体格が一回り大きくなる。アーサーやカールが使用した"三酷使"とは違い、全身を無理なく強化する体術だ。
その姿を見たシャトルは、乾いた笑いを垂れながら構え直す。
「ハハッ……、あれだけやってもまだ手を抜いていたのかい?」ムクッ
「違うね! 手加減出来ないから使わなかっただけさ! でも、もっと乱暴にしても大丈夫なんだろー?」
「あんなにグチャグチャにしておいて大丈夫も糞もないと思うな」
ジャコッジャコッジャコッジャコッ!
シャココッ シャココッ
シャトルは会話しながら、銃から弾を抜いて新しい弾を込める。抜いた弾の薬莢の色はバラバラだったが、込め直した方の色は黒で統一していた。
ビアンカはチラと先に撃って飛んだ空薬莢を確認したが、それぞれ赤色と緑色の薬莢なので今度の物はまた別の弾種になる。
「フフーン♪ 女の子相手でも手加減しないのは嬉しいね。お互い真剣にやってこその勝負だねー」ギュウ
「フッ、手加減して君の怒りを買うのも、万が一負けたその後も、面倒極まり無いから…ね!」ダンッ!
最初とは逆に打って出るシャトル、対してビアンカは冷静に素早く半歩下がってから体重を乗せた右ストレートを繰り出す。
そして火を噴く銃口と亜音速のグローブが正面衝突した。
バビャッ!!!!
ビアンカの赤いグローブが弾け飛び、露わになった素手もろとも大きく仰け反る。
グローブの中には鋼鉄のプレートが仕込まれていたが、引き千切れながらもそのお陰で拳は守られたようだ。
仰け反る勢いのまま左ジャブで銃口を叩くも、寸分の差で射撃を許してしまう。弾丸はビアンカの右脇腹を貫通した。
弾け飛んだ拳を手刀に替えて振り下ろす。今度はビアンカが先に銃口を叩き落とし、3発目の弾丸は地面を大きく抉った。
射撃の反動で後退に移るシャトルをビアンカは逃さない。次弾装填より早く左アッパーで銃を上に跳ねさせると、間髪入れずに至近距離へ、そして素手の右手でシャトルの顔面を掴んだ。
(ヤバい!)グググ
頭を掴む力加減が破壊でなく拘束の為の手段と気付いたシャトルは、防御の為に顎を引いて銃身を首にピッタリ寄せる。
しかしビアンカの圧倒的な怪力で徐々に顔が上を向き、銃身は押さえ付けられて身体同士に挟まれるまで接近した瞬間、ピッタリくっ付いたまま器用にシャトルの背後に移動してがら空きの首に左腕を滑り込ませて一気に落としに掛かった。
「グブブブゥ……」ブクブク
「壊れると軟体になるんだろ? じゃあ首極めだったら壊れず落ちるんじゃねーか? なあ!?」ギチギチギチ
完全に極まった絞め技に落ちるのも時間の問題かと思われた。
だがシャトルは自分を締め上げる腕を掻きむしったりしないで、ほぼ反射的に次弾装填をしてから銃口を自分自身に向けた。
「〜〜〜?! 馬鹿ッ!!!」
ズドォン!!!
「!!?!」ズルッ
ビアンカの腹にこれまでとは比べ物にならない激痛が走る。それと同時に腕の中のシャトルがスルリと脱け出すのを見て大きく飛び退いた。
「ケホッ……ペッ、やっと自分から後退してくれたね」
「グゥ〜ゥゥゥ……ガハッ」
腹を抱えて膝を突いたビアンカの口から胃液が溢れる。
一方、シャトルは真っ直ぐ立ってはいるものの、銃口を突き付けていた腹から出血していて、その傷は貫通していた。
「しかし参ったね。俺は自傷する以外にダメージは無いけど、君は徐々に傷が増えている。このまま続けるとどうなるか……言わなくとも解るよね?」
「・・・・・・・フンガーーー!!!!!」バッ
突然、身体が浮くほどの勢いをつけてビアンカが立ち上がった。
キンッ キンッ コロコロ……
「?!!」
そして立ち上がった際に彼女の腹の中から弾丸の破片が落ちて来たのだった。
「………う……嘘だろ? 俺が間にあったとはいえ、強装弾だぞ……」
「へー! コレが強装弾か! 滅茶苦茶痛いけど、我慢出来ない程じゃないね! ……オメーもう絶対許さねーからな」ポイッ
ビアンカがグローブを脱ぎ捨てると、自分の鞄から旅行カバンを出して中を開いた。革製のカバンの表面にはペタペタと色んなシールがデコレートされている。
このカバンにはいわゆる鞄の機能は無く、見た目通りの容量の物が入る。
「オメーの事はだいたい把握した。どの程度の力で壊れるかも、通常時と軟体時の腕力も把握した。あと気になるのは、傷がある状態でゴム毬みたいにしてやったら、中身が傷口から飛び出るのかって辺りだけど、……もういいや」ヒョイ
ビアンカは旅行カバンを持ち上げて中が見えるように持ち替えると、シャトルの視界からその残像を残して消えた。
目の端の砂埃を目印に、咄嗟に銃を縦に盾代わりに構えて、ビアンカが居る方向へ身体を捻った。
バグゥウ!! ベキメキィ!
「グゥ?!」
カバンの噛み付き攻撃に対してショットガンが突っ張り棒のような形で挟まれる事を想定していたシャトルだが、一噛みで圧し折られるとは思っても見なかった。
この一瞬の動揺が決め手になったかは定かでは無いが、シャトルは一気に膝までカバンに飲み込まれモグモグされてしまった。
「食べこぼしは行儀悪ーんだよー!」
ドガッ ガッ グチャッ グシャっ バチン!
そしてカバンからはみ出ていた脚も、ビアンカが足で中へ押し込むことで留め具を掛ける事に成功した。




