46.(Д´(#)Σc(・曲・#)ドゴ
「トェェェェェイ!!!」
「「「トェェェェェイ!!!」」」
「暑苦しい連中だぜ」
「そう言うな、これが我が部隊の掛け声なのだ。"ウィル・ゴードン"だ。よろしく」
落武者の様な頭をうなじで結んだ筋肉ダルマみたいな男が、自己紹介と共に手を差し出す。身長差が大分有るので、握手を求める手がウィルの目線より高い位置に伸ばされる。
その手を見たカールは、ニヤリと笑ってパンッと乾いた音が響き渡る勢いでそれに応えた。
「"カール・B・ヌァラ"だ。よろしく」ギュウゥ
「うむ」ギュウゥ
「「………がははははは!!!」」
獰猛な笑顔で両者は笑い合い、そして乱暴に手を振り払った。
「君ィ、良い根性してるな」ニヤリ
「ケッ! そっちこそ」ニヤリ
両者共に手に小さな刺し傷で血が滲んでいた。カールは手に画鋲を仕込み、ウィルは何らかの方法で同じ事をしたらしい。
「何やってんだ全く。始まる前から臭ぇな、俺が審判を務めるぞ。貴様ら早く下がれボケ」
「コラ、グレイシャード! 元同期だからとて、今の階級は俺のが上なのだぞ! それに歳上だぞ」
「同期ィ?」
「ああ、歳は四つ違いだがかつて軍に同じ日に入隊したんだ。当初は同じ部隊で同じ釜の飯を食った仲だった。その後も…」
「下がれっつってんだろ位置に着け、それとも撃たれたいか?」ジャキン
グレイシャードがUZIの槓桿を引いて黙らせる。
「その位置で良い、俺が挙げた手を下ろすのが合図だ。武器を使うなら今の内に構えろ」
カールは身長と同じ長さの棒を右肩に担ぐ、対するウィルは上半身の服を脱ぎ捨てた。首から下げた個人識別タグの音がチャラチャラする。
その動作にカールが片眉を上げたのを見て、ウィルは言う。
「勘違いするなよ? 頑丈さだけが俺の取り柄だ。故に肉体が最高の武装なのだ」
「あー、そっ」
「……始めッ!」ブンッ!
開始の合図と同時にウィルが地面を抉るように駆け出す。一歩毎にグングンと加速していく。
そしてカールは担いだ棒を地面に突き立てて、逆側の先端をググッとウィルに向けた。
地面に対して斜めに刺さった棒へ目掛け、ウィルは躊躇無く左肩を前面に押し出す。
衝突で跳ね返されるかと思われたウィルの突進は、それどころかむしろ大きく棒をしならせ、勢いそのままカールを右ストレートで殴り飛ばした。
ゴシャ!!
「「「トェェェェェーイ!!!」」」
ウィルの部下達の歓声が挙がる。
カールは棒こそ手放さなかったものの、1〜2回転がってから、無理矢理に直立の体勢に持って行った。
「……フンッ!」ブシュッ
片鼻押さえて鼻を鳴らすと鼻血が飛ぶ。効いてないアピールが逆に痛々しく見えてしまう。
それからスタスタと前に歩き出した。
「アイツ一撃貰ってビビってる〜?」
「んな屁っ放り腰でちゃんと務まんのか〜?!」
「隊長! やっちゃって下さいー! トェェェェェイ!!!」
ウィルが隊長を務めるローガン部隊の隊員達から野次が飛ぶ。対してユウ一団はそれを冷ややかな目で観ていた。
「おめでたい連中」
「あのバカタレ共には、今のやり取りが見えてなかったらしい」
「というと?」
「商人のおっちゃんにも分かり易く言うと、おあいこってコト」
タラ…… ポタッ
「穂先が無いから安全と思ったか? 不用心か舐めてんのか……。何にせよ良〜いもん見せてもらったぜ、棒があんなにしなるなんて知らなかったな」
「………そうか…。いやぁ俺も、こんなに効いたのは……、いや、血を流したのは久しぶりなのだ」
拳と片膝を地に突いた姿勢のままで微動だにしない。ウィルはパンチの瞬間、カールから強烈なカウンターを受けていたのだった。
「どうしたどうした? つま先がちょいと引っかかっただけじゃねーか? そんなんじゃ部下の前で格好付かないだろーが、えぇ?」
「どうしたどうした? 華麗にぶっ飛ばされただけじゃねーか? そんなんじゃ部下の前で格好付かないだろーが、あぁん?」
聞こえよがしに煽ってみたものの、降り注ぐ野次の勢いに変化は無く、逆に煽られる始末。
「チッ、よっぽど信頼されてんだなぁ? 頑丈が取り柄ってー自信満々なだけあるようだ」
「確実に無事に帰還できるってのは職場仲間は勿論、家族にとって一番喜ばれる事なんだな」
「ふーん、でも今は強がりにしか見えねえぜ?」グググ
構えるカール。狙いは正中線上の何処か。
すると不意にウィルは頭を擡げ、どこでも好きに突いて来いと言わんばかりに正座して胸を張った。
「だろうな。その上であえて言わせてもらえば、君のその腕に見合わないただの棒きれでは、かすり傷一つ付かんぞ」
ギュドゥメヴァッ!
カールは喉仏の下を突いた。が、傷どころか負荷に耐えられなかった武器が、泡立て器のような形状に壊れてしまった。
「そうみたいだな。あーあ、木目塗装で偽装していたが、捩り鍛えた鋼鉄製がこんなんなっちまって……」ポイっ
「もう一つ言うが、君は俺が舐めてると言っていたが、君の方こそ俺を舐めていたのではないか?」
「コキコキ)……ああ、悪かった。それじゃあ、改めて仕切り直しと行こう。こっからはシンプルに行こうぜ」ニギニギ
「………ん? 小言が足りなかったかな? 素手でバッ!?」ゴズッ!
「テメーも素手だろうが! オラ、掛かって来いや!」
「やるね君ィ? 後悔しても許さないゾォ!!」
ドンッ! カールの左脇腹にウィルのアッパー気味のゲンコツが刺さる。すると間髪入れずにウィルの左側頭部にカールのゲンコツが振り下ろされる。
それから殴られ殴り返すこと数十回、カールの拳がみるみるうちに赤黒く出血し、ウィルは見た目こそ変わりなくはあったが、だんだんと姿勢維持に綻びが生じ始めた。
それからお互いに百回ずつ殴り合う頃、先に攻め方を変えたのはウィル。
ドスゥ!
「かはっ……、貫手は効くねー。グッ」ズボッ
「その割にはあまり刺さらなくて俺は驚いているぞ」
「来ると分かってて気張ってりゃあ、こんなもんよ。それより地味な絵面に飽きてきたみてぇだなぁ? よし、そろそろ決着つけようか」グググ
今までよりも高く、ワインドアップモーションで拳骨を構えるカール。
『三酷使設定1・"前腕・腰椎・下半身、鬼金棒"発動』
アーサーが使うものと同じ"三酷使"は、身体の任意の部位3箇所を極端に強化するスキルである。このスキルは指定部位が細かい程高い効果と負荷が掛かり、アバウトな指定でも自傷を伴って余りある効果をもたらす上級スキルだ。
そうとは知らずとも危険を感じ取ったウィルは、これまで殴られ続けた側頭部を両腕を使って守りの体勢を取った。
「そんなあからさまな動作、来ると分かっていて気張れば、大怪我するのは君の血に塗れた拳だと思うんだがな? 俺の皮膚はそれこそ隊長格の強装弾も通さないぞ」
「やりゃあ判る。オラアアア!!!」
ゴギンッ!!!! ブシャアアア
スキルの反動でカールの腕から大量の血が噴き出した。
「ぐあああああああ!!!!!」
昼夜逆転の人工灯と月光の狭間に、苦悶の絶叫が木霊する。




