42.賑やかが良いよねー(*´・ω・)(・ω・`*)ねー
「思ったより残ったなー」
多くても2〜3人のつもりだったが、試験が終わってみればリーサル植本やマヌゥとナナラを除いても9人もの合格者が出た。
「もっとバチバチに絞めてもよかったかもな」
「旦那、あれ以上やったら死人が出ますぜ?」
一部を除く合格者は皆、げっそりとやつれてしまっている。中でも一度アーサーに挑んでぶっ飛ばされ、その後仲間4人を担いで合格したライオンの獣人は、眼を向いて虫の息になっていた。
「この獣人に運ばれた連中も合格ですかい?」
「"俺より先に門を潜ったら合格"って先に決めているからな。合格だ」
「ちょっとズルい気はしますがね」
「寝ても覚めても悪夢だが、夢で済む分、ラッキーな連中には違い無い」
そんな荷物組は虎の獣人2人と寝顔が瓜二つな男女のペア同士だ。どんな夢を観ているのかどの寝顔も苦悶の表情である。
「しかし厳つい獣人ならまだしも、非戦闘員が2人も合格するとは思わなかったぜ」
その1人は試験を始める前に質問をしていた商人で、もう1人は首周りがやけに発達した聖職者のおっさんだった。
「はは……、生きた心地が有りませんでしたけど、時に商人もクソ度胸が必要な時が必ず有りますので」
「拙僧は出家する前は貴方と同じ傭兵に身をやつしておりますれば、おっと失礼、然りとて戦さ場の心得あれど、あれ程身の竦む思いは二度と無い事を」
「わざと難しく言ってんのか?」
「しゃあないやん、口汚い聖職者は軽んじられんねん、勘弁してや」
「素直でよろしい。所で名前は?」
「私は"グィリル"と申します」
「拙僧は"セイス"と申す」
「"グィリル"と"セイス"ね。よろしく頼む」
「こちらこそです」
残りの2人はビアンカの取り巻きである。
身長が高い方はモデル体型で、ポニーテールを腰まで垂らしている。身長が低い方はビアンカ以上の胸部装甲を有しており、長い髪を胸元で結び、切り揃えた前髪は鼻から上を覆う目隠れ少女だ。
「何か用?」
「用も何も、合格おめでとう」
「……ナンパ?」
「そう言う君達はビアンカの"1号"と"2号"かな?」
「何それ? つまんない」
「くだらない、セクハラ」
「(´・ω・`)」
「フン、あたしが"ラーナ"、この子が"ルルーラ"よ。覚えときなさい団長さん」
「そして今日はもう話し掛けないで」
そう言うと2人はビアンカの所へヨロヨロと歩いて行った。
(貧乳と巨乳ね。記憶した)ニチャッ
「……うひゃあ!?」
「ひぃ?!」
「え? え? どうしたの?」
「な、なんだか舐め回されるような視線が……」
「わかったアイツぶっ殺す」ベキボキ
「はて、ほろほろ行こうか」ダラダラ
「あんな露骨な視線飛ばせば、そりゃそうなりますよ」
「寝てる奴を起こせ。休憩は終わりだ」
「昨日の俺達みたいだね………旦那ぁ、聞いてます?」
「ん? どうしたナナラ。忘れ物か?」
「ダメだこりゃ、左耳が完全に逝ってますよ」
「まあ湿布貼れば治るんだけどね」スッキリ
「相変わらず魔法薬みたいな効力っスね」
「ここに名前書けばいいの?」
「お、おぅ……」
町の門番が渡す書類に記入する。今日この時間帯にこの門を利用する予定の団体用名簿を渡され、イェンが控えていた名簿から脱落者を消したりしていたら門の外が俄かに騒がしくなった。
ガラガラガラガラガラガラ!!!
「ちょおーーーッ、とぉ! 待ったあ!!!」
騒ぎの原因は馬車に乗った少年だった。毛皮のポンチョを被る少年は、見事な手綱捌きでロバの曳く馬車を門の前に停車させた。
「いやぁ、まだ出発してなくて良かった! 団長さん! 俺っちも入団、認めてくれますよね!?」
「あぁ? こらガキ! どこから湧いて出やがった? 全然違う方角から来やがっただろが! しかも連中から馬車まで盗んで、命が惜しくねえのか?!」
「違う! コレは正真正銘、ウチの馬車だい! 予定と違う門から出たから時間が掛かったんだい、です! 目一杯飛ばして西の門を通りました! お願いです! この"アレン"めと愛馬"ガレオンゴールド"の入団を認めて下さぁーい!!! あ痛ッ?!」ゴツん
「うるさい、近所迷惑だ。それと馬車を退けろ、通行の邪魔だ」
「(;ω;)後生ですから、あとごめんなさい! お願いします!」
このアレンという少年は試験参加者の中では最年少の12歳だそうだ。愛驢馬は亡き祖父の形見だそうで、6年間連れ添った中だという。両親は7歳の時に事故で亡くし、翌年祖父母も流行り病で亡くしてからは天涯孤独だとか。
上述の内容を15秒で説明した上で、更にごちゃごちゃ言い掛けたのをアーサーは遮った。
「アレンとやら、テスト開始時点で速攻明後日の方向に馬車を走らせてたなぁ? どうしてそんな事をした、その根拠は何だ?」
「団長さんはハッキリ言いました、『俺より先に門をくぐれば合格決定』と。町の東西南北に設けられたどの門かは指定してはいないので、別の近い門の方を潜って来ました。あの発言はきっと、荒事に向かない商人の為の抜け穴を作ったんじゃないか? って思ったんです。それでガレオンゴールドを走らせてたんですけど、ギリギリでしたね! アッハッハッハッ! ハッ!? まさか馬車が目当てでわざと隙を作ったんじゃあ……」
「合格だ」
「やたー!」
「ちょっと待てェー!!?」
ここで起きて来たお荷物ツインズがツッコミを入れた。
「私達が命懸けでテストを合格したのに、アレンがズルで合格って冗談でしょう?!」
「そうだそうだ!」
「お前らが言うな」
「「どべ!?」」ゴツん!
殴ったのはライオンの獣人。アーサーの強烈な蹴りを喰らった後、短時間で目を覚ましてすぐに仲間4人を担いであっという間に門を潜った猛者である。
「連れが失礼をした。私は"レオン=イードス"、この者達は貴方と同じく傭兵を生業にしている私の部下です。それより急ぎましょう、先行していらっしゃるグレイシャード殿の殺気がどんどん膨らんでいます」
「おおそうだな、ありがとよ。お前ら急ぐぞ! 駆け足ぃー!!」
レオンに指摘され門から出た先を見ると、数十m前方でグレイシャード達が待っていた。ぐずぐずしている所を見たのか、イライラをこちらにぶつけて来ている。
隊列も何もないグチャグチャな集団が駆け足で合流に向かう。
彼らは未だ無名の傭兵団。仕えるべき主とも顔を合わせていない者が大半である彼らが、その主を担いで大陸を制覇するのはまだまだ先の事である。
『違う門の監視をしていたら、置いてけぼりにされたでござる by イェン』




