41.日(´Σ `*)チビチビ…
"ナグルン"なんて物騒な名前の町の町長さんは、話せば意外と融通の効く人物だった。荒くれ者共の様子を見るのに護衛もなく一人で居る辺り、この人物も町名に負けないくらい腕っ節に自信がありそうだった。
挨拶のついでに心付けを多めに渡すと、握手をして別れを告げた。
「……ビアンカ程じゃないけど、とんでもねー馬鹿力だったな。そろそろ始めるぞー! ん? 何してんだカール」
「テメーを倒せば新団長なんだろ?」
「………"副団長"がややこしい事やってんじゃねー」
本当はそんな役職を決めていなかったが、たった今決める事にした。
「え? 副団長?」
「俺達は実力主義だ。俺の下は実力的にお前だけなんだから煩わせるな」
「へー、初耳だがそこまで言うならしゃーねーなッ!」ズァ!
ズドォッ!
「……ゴハッ!! ガハァッ………」
「気が済んだらビアンカと外で待ってろ。ビアンカァ!」
「ハイよー!」
「お前まで混じってたか……」
「イイじゃん別にー、それよりアタシはー?」
「ンー"突撃隊長"にしようか」
「なら良し! んじゃ、待ってるよー」バイバーイ
「ちっこいのも連れてけよ。よしお前ら、噴水より前に出るな、もっと下がれ! マヌゥ、ナナラ! 後ろ行け! 植本! 何ビアンカについて行こうとしてる? お前もこっちに加われ! おや……」
先程までのどこか舐めた態度が嘘のように形を潜めている。カールとのやり取りが相当効いているらしい。
真面目に取り組んでくれるなら願ったりだ。
「さてと、それじゃあ………始め!」テクテク
「お!?」ズザッ
『始め』の声に合わせてダッシュを仕掛けた数人が、予想に反してただ歩き出したアーサーに驚いてツンのめる。真後ろに居た連中は勢い余ってそのまま殴り掛かって来た。
ボ゛ゴド゛ン!!
その5人はあえなく地面に突っ伏した。
「今の見えたか?!」
「何かあったのか!?」
「わからん! がやっぱり只者じゃねえ!」
「お静かに」シー
「囲むぞ!」
注意した所で静かになる筈もなく、続いてまた新たな5人が果敢に挑んで来る。男女ペアと3人のネコ科の獣人だ。
ト゛゛゛゛゛オオオン!!!
ドサドサッドサッ ドサドサッ
今度の5人は2〜3メートル程フワッと浮き上がって落下し動かなくなった。
「「「・・・・・!!?!??!」」」
「まだ始まったばかりだぞー」スタスタ
まだ10mも進んでいないのに、一気に戦意が喪失していくのが感じ取れた。そうなると次は追い抜く者が現れる。
「あんなの相手にしてられるか! 俺は先に行くぜ! ……ひえぇぇ?!!」ドサッ
「「「ッッッ!!??」」」
一番最初に追い抜いた小柄な男が、何の前触れもなく転倒してしまう。
「今のまさか魔法か!?」
「いや! 魔力を発したように感じなかったぞ!?」
「どういうコトだよそりゃあ?!」
そして誰も襲い掛かったり、追い抜こうとする者は居なくなった。倒れた小男の横を通り過ぎてから後続が様子を見に行くと、男は泡を吹いて気絶しているのを確認し、とうとう立ち止まってしまった。
「なんだよ、これしきで諦めんのかよ? なら結構、当初の予定通りに進むだけさ」ザッザッ
ビュンッ
パシッ
後ろから投げつけられた石を、頭をズラして身体より前で掴み取る。
「うーん、まぁ石ころ程度なら武器には含まねーかなぁ」チラッ
ズドォン!! ガッシ! スパァーン! ズザザッ
タックルから掴みに来るのを、掌底で吹き飛ばす。
挑んで来たのはリーサル植本だった。
「………命拾いしたな」
「もっと早くに仕掛けて来ると思ってたんだけどな?」
「……わたしはあの子と共に生きる運命だ。お前なんかに邪魔させはしない」
「あの子?」
「………」ズザッ!
リーサル植本は後ろ足で砂埃を撒いてから先へと進んだ。
「あの姉ちゃん、おっかないや」
「流石の旦那も援護が無きゃ、やられてたかもっスよ?」
「アホ抜かせーバカもん」
どうやら石を投げたのはマヌゥのようだ。
マヌゥとナナラは動けなくなった連中を押し退けて、真っ直ぐ門に向かって歩き続ける。
「俺達はちゃんと旦那について行くつもりっスよ」
「合格はしたいけどね。うん、前に出たら死ぬ気で進もう」
「気配だけで泡吹かせるって、こりゃ相当気合い入れて挑まんとな」
マヌゥとナナラは何が起きているのかちゃんと理解していた。特にナナラはその手の感覚に非常に敏感な為、緊張しているがそれ以上に引き締まった顔をしていた。
やがて2人は同時に一歩を踏み出す。
「「ンッ!!?」」ビタッ
「立ち止まってどうした? 俺より先に門を通って行かないと合格にならんぞ?」
マヌゥとナナラとアーサーとで並んで立ち止まる。この時2人は、無数の刃が眼前に突き付けられ、全身の皮膚を鋭い剣先で撫で回される感覚を幻視していた。
「……ふぅー! ああああああ!!!」
「冗談キツいぜ旦那。こんなんされちゃ、商人のおっちゃんには絶対合格出来っこないに決まってらあな」
「……ただの度胸試しって言っただろーが」ニヤニヤ
しかし脂汗を流して耐える2人は急に、頭を上げ胸を張って笑い飛ばした。
「へへーん! 殺気飛ばしたくらいでへこたれる俺達じゃあねえよ! 行くぞナナラァ!」
「応!」
参加者の中では下から数えた方が早い年齢の2人がどんどん先に進んで行く。
それを見て触発されたのか、続々と追い抜いて行く者が現れた。中にはマヌゥに"絶対"とまで言われた商人も存外多かった。
「種明かししやがって。だからって手は抜かねーぞ?」
追い抜いても殆どがアーサーの殺気に耐えられず卒倒して行くが、それでも気合いと根性で乗り越えて行き、そしてとうとうアーサーも門を潜ったのであった。




