39.(о´∀`о)ウフフ…
「後で顔をだせとは言ったが、巫山戯ているのか舐めているのか、どっちなんだ貴様ら?」
「うぅ……」
「さーせん……」
「俺がさっきまで飲ませてたからしょうがねーしようがねえ」
「官舎でなければ蜂の巣にしてやる所だ」
もう既に深夜の時間帯に差し掛かる頃、閉店時間まで飲んでいたアーサー達は、その足でグレイシャードが宿泊している官舎の部屋の前に来ていた。
グレイシャードは翌日に備えて寝る準備をしていた様で、マスクこそしているがパーカーを脱ぎ捨てて傷だらけの上半身を晒したまま、ズボンにサンダルという非常にラフな格好をしていた。
それと手には霧吹きを装備している。中身はリチャードから押収した消臭剤らしい。
グレイシャードは消臭剤をふんだんに散布し始めた。
「フオッ?!」
「部屋には入るな、酒臭い」
「まだ臭うかな?」ハァ〜、スンスン
「ばら撒いて確認するな!」シュシュシュシュシュシュ!
「うぎゃー!? 目に鼻に口にー?!」
「うわあ! マヌゥ、しっかりしろ〜!」
「無礼にもド深夜にやって来て『報酬を下さい』って言うんじゃないだろうな、あ〜ん?」
「ギクッ」
「貴様らもう帰れ。迷惑だ」
そう言うとグレイシャードは5回ほどスプレーしてから部屋に戻ってしまった。
「……さて、帰るか」
「イヤ、ちょ待てよ旦那! どうしてくれるんスか!? 最悪スよ!」
「そうだよ! やっぱり日を改めてから顔出せばよかったのに」
「心配すんな、たぶん大丈夫だきっと」
「信用できねー!」
するとまた扉が開いて消音器の付いた短機関銃を構えたグレイシャードが顔を覗かせた。
「帰れと言ったのが聞こえなかったか?」
「「直ぐ帰ります!」」ダダダ
「もう悪さするなよー」
「貴様も馬車に帰りやがれ」
翌日・早朝
「おはようさん」
「「お、おはようございます……」」
「……何でまたコイツらが居るんだ? 帰ったんじゃなかったのか?」
「いやーぁ、昨日は日を跨ぐ前に顔を出そうと思って俺が無理に連れて来たんだけど、結局報酬について何にもなかったからさ〜。あ、悪かったと思ってるよ?」
「(ビキビキ)………それで?」
「出発する前にもう一度キチンと話しておこうと思って連れて来た」
「ぶち殺すぞ」
既にグレイシャードは着替えを済ませており、いつものマスクとパーカー姿に銃を提げている。明け方に叩き起こされたマヌゥとナナラは眠気と二日酔いで青褪めている一方、無理矢理連れて来たアーサーはケロっとしていた。
「報酬……いや代わりのものって言ってたっけ? それって金一封とか高価な物とかじゃないんスか? それならわざわざこっち来なくても役場か詰所に受け取りに行くんスけど、もしかして昨日の事が……?」
「おお、マヌゥは察しが良いなー? そうだ、グレイシャードが部下に欲しいかもと思ってたらしいんだが、非常識な連中だって事でそれが失くなった。それじゃー申し訳ないんで、俺が面倒見るコトにした」
「「ハァ?!」」
マヌゥとナナラが驚いて見事にハモった。ついでに酔いと眠気もすっかり醒めたようだ。
「旦那バカか?! いきなりんな事言われてハイ、そーですかってならねーよ! つか、非常識なのは無理矢理連れて来た旦那だろが!」
「お前ら歳はいくつだ?」
「オイコラ聞いてんスか?」
「ん〜と、15か16だっけ? ね?」
「『ね?』じゃねえバカナナラ。あ〜もう! 俺達は同い年だし、たぶんそれくらいだよ」
「そっか、じゃあ確認するが、お前ら俺の仲間にならないか?」
「いやだからなんでそうなるの?」
「逆に聞くけど、働くツテとかあるのか? あったとして続けられるか?」
「う……」
「昨日、店で気に掛けてやってくれと言ったのは俺だけど、よくよく考えたら乱暴で通るチンピラが急に接客業を始めた所で平穏に営業が続けられるか?」
「そんなの大人しく働いていればイイだけでしょ?」
「…………」
「マヌゥ?」
「お前らあのイケ好かない……カスアナールだったか? そいつの手下になって何かした事ないか? どこそこに住む何たらとか言うヤツに嫌がらせしろとか、ソイツの勤め先に石投げたりゴミ捨てたり、他の従業員を脅したり」
「何で知ってるの?!」
「黙れバカナナラッ! ……まあ、やったかはともかく、あのクソッタレがそんな指示を出してるのは見聞きしてるよ」
マヌゥは言いながらチラチラとグレイシャードの方を見た。マスク越しで表情はわからないが、腕を組んで黙っているので聞かなかった事にしたんだと願った。
「お前らの周りに居たのがごろつきやチンピラとか後ろ暗い連中ばっかりなら、その中に一般人を食い物にするのが居たとして、カスの手下だった過去で強請られるか、嫉妬で嫌がらせされるか、何にせよ格好の的だぁな」
「だから堅気を諦めて傭兵になれって? 大して変わらん気がするんスけどね?」
「正確には傭兵じゃなくて、たった一人の主に仕える私兵団が正しい」
「主?」
「そうだ、今はまだ若くて何の力も無いし、兵隊だって俺を含めても4人しかいないが、本気で成り上がる。二人はどうしたい?」
アーサーの問いに対し、マヌゥとナナラは一瞬だけ目を合わせてから答えた。
「「行く!」」
「………もっとゴネるかと思ってたんだが?」
「ちゃんと考えた上で決めたんだよ? グレイさんの一行はここ最近で一番話題になってますし、お供の傭兵達はおっとろしい戦力だって裏じゃあ有名ですし」
「うん、ナナラが言うのもそうだけど、一回限りの金を貰うよりはよっぽど魅力的っスからね。将来騎士になるのも憧れるけどあんなのを見ると幻滅するし、やっぱ俺達みたいなのはそっちの方が向いてると思うスよ」
「身も蓋もないやっちゃな。もう後戻りは出来ねーからな」
「「押忍!」」
「話は済んだか?」
黙って聞いていたグレイシャードがようやく会話に混ざるようだ。
「お前らがアーサーの下に行くのは勝手だが、仕事に加わるかの権限は俺にある」
「?……いやまぁ、そっスね…」
「"代わりのもの"として合流を許可する。俺からは以上だ。出発までに仲間にあいさつなりしておくんだな、では俺は町長に挨拶してくる」
そう言ってグレイシャードは立ち去った。残されたアーサー達も出口に向かったが、少ししてマヌゥが立ち止まった。
「………ん? どうしたの?」
「……昨日、旦那だけここを出るのが遅れたのは……まさかこの為か?!」
「はっはっはっ、何の事やら。だが後戻りは出来ねーつったろ? つべこべ言わず付いて来い! 仲間ぁ紹介してやるからよ」
「へい!」
「憶えてろよ……」




