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C.B.B.NEW FACE  作者: 怠慢兎
第一章・顔合わせ
37/83

218X年 大晦日

 その日、関東は記録的な大雪に見舞われており、路面の凍結による車のスリップ事故が多発していた。たった一日で例年の1.8倍の数字を叩き出していたそうだ。


「天気予報も見ねぇのかこの国の者は?」

「しょーがねーよ、雪で電波塔が逝っちまったらしいもん」


 とある公園の一角、屋根付きの休憩スペースに二人の男性が座って一服している。

 一人は座っているのに立っているのかと見間違える程に大柄なスキンヘッドの黒人。

 もう一人はその対面でスマホを弄りながらタバコを吸う堀の深い顔立ちの日系人。


「嘘だろ。100歩譲っても、窓の外見りゃあ一昨日から今日まで大雪だったし、そんだけ日数がありゃスタッドレスに履き替えられるだろ」

「何か起きてもその日中に解決するのが当たり前だからなぁ、特にインフラとか。雪だってすぐに収まると思ってた人が大半みてーだし」

「天気はインフラじゃねえだろ……」


pn♪"タクシーが到着しました。約30メートルの地点に待機しています"


「お、もう来たんだ。なぁモリオ〜、今何時だ?」

「お前が手に握っているそのスマホは、天気予報どころか時計すら見れねえのかよ?」

「フー………6時半、今からゆっくり行っても間に合いそうだなー」


 そう言って男は携帯灰皿にタバコを突っ込むと席を立ち、"モリオ"と呼ばれた黒人もその後に続いた。

 待機している黒塗りの無人タクシーに近付くと、観音開きのドアが開いて利用客を歓迎する。


「ちっせぇなー、もっとデカいの呼べよ」

「うっせー、すぐ呼べる一番デカいのがコレなんだよ」


 ぶつくさ言われながらタクシーを呼んだ男が運転席(・・・)に乗り込んで目的地を告げる。


「7時までに慈々苑に頼む」

 "慈々苑を了承致しました。最寄りのCBBビルの慈々苑専用駐車場への到着予定時刻は6時55分です。"

「………ああ、それと座席を倒してスペースを確保してくれ。連れには狭いからな」

"ご不便をお掛けして申し訳ありません。ワイドスペースモードに移行します。助手席を格納しますのでお気を付け下さい。"


 助手席が畳まれて広くなると、モリオが後部座席の背もたれも倒して寝そべる格好で車内に乗り込んだ。


「アメリカだったら一人乗りでももっと広いぜ」

「テメーだけチャリでもイイんだぜ? 俺の"ダークネス・マキ○オー"とモリオの体力なら先に到着出来るだろう」

「んなダセーの乗れるかバーカ」


 30分後…


 "お待たせしまし"た。目的地の…

「ここか、松ちゃんが予約した店があるのは」

「余計な時間食ったし急ごうぜ」


 機械音声が到着を告げる途中で下車すると、車を確認したスタッフが駆け寄って来た。待ち合わせの旨を伝えると店まで案内されてそのまま個室に通された。

 個室に入ると円卓に5個の椅子が並んでおり、既に男女2人が座っている。そして入室に気付いて半縁眼鏡を掛けたポニーテールの女性が生ビールの大ジョッキを片手に捲し立てて来た。


「遅いデカデカコンビ! どうせ暇なんだからもっと早く来なさいよね!」

「スマン、タクシーが目の前で起きた事故の通報を始めたんでちょいと遅れた。あと"モーリオン"はともかく今の時期、俺のバイト先って繁忙期だから大目に見てくれよな?」

「ふん、"貧乏暇なし"とでも言いたいのかしら、"アーサー"?」

「"借金王"様には及ばんよ」

「ぶっ殺sぞ」

「まあまあ」


 険悪な空気を遮ってもう一方の男が腰を浮かせた。


「アーサー、白金(シロキン)、折角のオフ会なんだから喧嘩は辞めましょう? それに忘年会でもあるんですから、ね?」

「けっこう始める前から出来上がってんなぁ?」

「何故か僕より先に来てて、来たらもうこんな感じなんですよ」

「こんなって何よ"松千夜"? てゆーか、まだ全員揃ってないじゃない。これは最後に来た人が奢りね」

「俺はアーサーについて来ただけで誰が来るか知らんのだけど、あと誰が来るんだ?」


 モーリオンとアーサーが並んで席に座り、松千夜と白金も座っていて残る座席はアーサーと松千夜の間の1つだけだ。


「"ファリス"さんが来る予定です。今朝丁度来日していて、用事が済んでからこちらに向かうそうですよ」

「え?! ファリス来るの? 肉食ってイイの?」

「牛は大丈夫そうですよ? 飼育方法に規律が掛かってくるそうですけど、ここのお店なら大丈夫と指定してくれてたんです」

「集るか」

「そうね、特上以外は禁止ね……」


 白金がメニューを凝視して黙り込む。静かな内に男連中も各々の注文を送信していく。注文した肉が届くのを待っていると、松千夜のスマホが鳴った。


「……ファリスさん来たみたいです」

「ふーん、なら飲み物揃えないとね」

「教義的にアルコールはダメなんじゃないですかね」

「大丈夫だ、(酔わなければ)問題無い」


 そう言って浅黒い肌の超美形男が個室に現れた。


「ほー、アンタが"剣聖(ファリス)"さんかい? 俺は"モーリオン"だ。よろしく」

「こちらこそ、ファリスだ。私も皆と同じものを頼もう。やあ久し振りだな、アーサー」

「おう、アンタも忙しいのによく時間が取れたなぁ」

(あのイケメンって何者なの?)ヒソヒソ

(詳しくは知らないですけど、本物の石油王の息子で国元では陸軍中将らしいですよ)ヒソヒソ

(へー、中の上ねー)


 五人全員が席に着くと、給仕ロボットが五人分の生ビールを運んで配膳して行った。

 行き渡るのを見届けて、松千夜が一つ、咳払いをしてから口を開いた。


「えー、この度は毎年恒例のCBB、"Crazy Brutal Blade"のトップ5による"Crazy Best Banquet"に参加頂きありがとう御座います。幹事を務めさせて頂いています、"格ゲー大名"こと松千夜(マツチョ)で御座います。よろしくお願いします」

「固いぞ二回目〜。今年はお前がNo. 1なんだから偉そーにしても良いんだぞー」

「アハハ、3位如きに言われちゃいました」

「ああん? テメータイマンで俺に勝った事ねぇ癖に調子乗ってんのかコラァ?」

「貴方が偉そうにして良いって言ったんじゃないですか!?」

 ワハハハ、ソレはチョットズレてんだろー。アハハハ

「アハハハハ、え〜、今回は初参加の方がいらっしゃるので、一応自己紹介をしておきましょう。えー順番はランク順、僕はもう言ったのでここは下の方からでお願いします。どうぞ」

「どうぞってお前……ふん、5位の"重榴弾"こと黒水晶(モーリオン)だ。普段はアメリカでボクシングをして居る。来年のタイトルマッチに向けて来日して、コイツ(アーサー)とスパーとかしながら遊んでいる」

「え、アーサーとスパで遊んでんの?」

「スパーリングな? まあ汗流すのに銭湯行ったりはするけど」

「………アサ×モリ、いやモリオ主体だからモリ×アサだ」

「黙れ」

「嫌だね。ハイ次、アタシは4位の黄金宝玉(ゴールドジュエリー)(♂)でーす。サブキャラでーす。メインは白金瑞宝(プラチナオーダー)(♀)って言いまーす。よろしくー」

「見ての通りクサヤより香ばしい腐女s」パシッ

「チッ! 止めたか……」

「0距離でも当たらねーよ。つか、肉フォーク投げるなよ。じゃあ、次は俺か。3位、"万年門番(オールキーパー)"・"全滅地雷"・"十日伝説"で有名なアーサー・リッパースター。まあこの面子で全員と面識有ったのは俺だけだから、今更自己紹介するまでもないけど、この中でタイマンなら誰にも負ける気がしない、とだけ言って置こうかな」

「あ゛?」

「っすぞ?」

「おやおや6回目ニキと4回目ネキは何マジになって、図星っスか? この空気どうしますかね? 2回目松千夜くん」

「ケッ、テメーは俺(達)を怒らせた」

「フン、相変わらず不遜な奴だ。その割に15回目にしてより高みに至らない所が滑稽だ」

「んだと?」

「2位、"剣聖(ファリス)"だ。その名に恥じぬよう、そう遠くない日に一対一で勝負させて貰うぞアーサー」

「……12回目にして初めて顔出したと思ったら、それ言う為だったのかよ?」

「自惚れるな、貴様の安い挑発に乗ったまでで、その為だけに来たのではない」

「………やっぱCBBの」

「エホンッ! 一応全員自己紹介が済んだみたいですし、乾杯だけやりましょうよ。ね! 折角の忘年会なんですから」

「忘年……ッて、………忘れられるかよ! CBBがいきなりサービス終了しやがんだぞ!」バァン!


 15年続いたCBBは、最後のアップデートから約半月後に突然のサービス終了が発表されていた。

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