35.( *×*)でも換気扇欲しい 回
火達磨になってゴロゴロと転がりながら爆笑するリチャード。一見すると自暴自棄の自滅にしか見えない行動が、実はそうではないことをグレイシャードはすぐに知ることになる。
ゴロンゴロプツン バタンダンダンダンブチ!
文字通り笑い転げる内に、拘束していたロープとワイヤーがブチブチと切れていく。気が付けば両脚が自由になっていた。
それでも静観しているのは、カールが同じ目に遭ってどうなったのかを目の当たりにしていたからで、そんなカールと比べて数段格下でボロボロの男が無事に済む筈が無い、と高を括っていたからだ。
「…………自殺するならさっさと燃え尽きろ」ジャキン!
ただ眺めていた訳ではなく、アーサー達からモーゼルと呼ばれる拳銃と、同じくUZIと呼ばれるサブマシンガンの装填を済ませていた。懐に優しい通常弾であるが、リチャード相手ならば十分だと判断した。
パパパパパパパパパパパパ!
「あぎっひっひっひィ!! んどぅるばああ!!!」シュッ!
転がりつつ器用に銃弾を避けるリチャードが何かを投擲する。
グレイシャードはUZIでの射撃をしながら、それを冷静に拳銃で撃ち落とす。
パパパパパパパパ!
パン!
モコッドオオオーン!!!
「チッ!?」
またしても噴き上がる火柱。床を食い破り身を捩らせる様はまるで灼熱の大蛇だ。
その大蛇が次第に小さくなり、奥に目を凝らすと、僅かな血痕を残してリチャードの姿が何処かへ消えていた。やがて消し炭になると、今度は四方八方からリチャードの爆笑がドッと沸いた。
『ギャハハハハハハ「今のを撃ち落とすかよ?!」ハギャハハハハハ!!!』
「フン……次はスピーカーで撹乱か?」
『ハハハハハハギャ「あんな物被っててあの針が見えてるとか有り得ねー」ハギャハハハハハ』
グレイシャードの声は届いていないようだ。
(自焼野郎だけならどうとでも料理出来そうだが……この状況下、出血させていなければちと面倒だったな。それに地下にどれだけの重鉄茸があるのか知らんが、産出自体はこの施設が出来る以前から有った筈だから、相当な量が保管されてるだろうな)
併せてグレイシャードの考えでは、針に付いている真珠が何かしらの周波を発していて、それが衝撃により直下にある爆弾キノコを起爆させていると考えた。
(カールの時を思い出すに、真珠に直接衝撃が加わった瞬間がトリガーか? であればやりようはあるが……)
カールが爆破される直前の行動が引っ掛かる。針を抜いて、それから何かしようとしたが躊躇していた筈だ。
パンッ! ビシャッ
相変わらず周囲はリチャードの爆笑の渦である。そんな渦の中から飛んできた何かを咄嗟に撃ち落とすと、その中身が慣性の法則に従って足下に飛散した。
それは多少の粘性を有する液体で、猛烈な臭いを放った。
「ーーー〜〜〜〜!!!!」
マスク越しであっても閉口する腐敗した臭いは、特にただでさえ鼻のきくグレイシャードが最も嫌うものだ。
(自分の血を腐らせて取って置いたのか?! 気色悪ィな! ああああ! 畜生! ズボンに引っ掛かってやがる!!?)
「気に入ってくれたみたいだなぁ? ギャハハハハ!」
「無事に生きて出られると思うなよ?」ジャキンッ
グレイシャードのパーカーに付いているマフポケットにはアーサー達の物程ではないが'鞄'と同じ機能を備えている。そこから強壮弾を取り出して装填し、それから三つ指で握る程度のゴムボールを取り出した。
「試作品がどうのとか言ったが、こっちも同じのを使った試作品を預かってんだよ」
振りかぶってゴムボールを床に叩き付ける。すると凄まじい勢いで頭上に跳ね上がり、一瞬の間を開けてから眩い光を放ち始めた。
『ギャハハハハ「!!!?」ャハハハハハハ』
リチャードの閃光爆弾と違い、一度光を放ち始めたゴムボールはそのまま煌々と輝き続け、地面から跳ね上がった時とは正反対にゆっくりと落下を始めた。
その光を浴びて目を覆うリチャードが巨大なタンクの上に居るのを見つけ、銃の照準を合わせた。この時、視界の上の方でやたらキラキラと反射するのが気になり、嫌な予感から視線を上げた。
そこには頭上を埋め尽くさんばかりの大量のまち針がばら撒かれていた。
「これが狙いかよ……。絶対に逃がさないからな………!」
グレイシャードが飛び退ると直前まで居た場所から火柱が噴き出す。これは跳ねたゴムボールが上空のまち針といち早く接触したことによるものだ。
しかしまだ序章に過ぎない。ばら撒かれた針が全部着弾すると、一体全体どうなるのかわかりたくもない。
「ギャハハハハハハ!!! あ〜おっかしい!! ………妹には悪いけど、巻き込んででも俺はアーサーを殺したい」ゴソ…
CBBの服やズボンのポケットにも'鞄'の機能が備わっているが、グレイシャードに縛られた際にそれらは無残に引き千切られてしまった。
鞄が無いとステータスの確認やログアウトが出来なくなってしまう。そんな場合に備えた緊急措置として、大幅に機能制限されたポケットが用意されている。
リチャードはその緊急ポケットから手の平サイズのリモコンを取り出して操作した。
「これで空調はここに空気を送り込む、爆風は押さえ付けられ広範囲に拡散する。?!……あゝ、ナイスタイミング! みんなで丸焼けだあ!」
リーサル植本と彼女を追うアーサーが現れた。
「あ、居た」という表情のアーサーと満面の笑みを浮かべるリチャードの間にリーサルが割り込んだ所で、地獄の業火が噴火して全てを呑み込んだ。




