33.(#´° 曲° ` )マッチむずいのよ!
「ぬうううぅ………ぐああああああ!!!!」
足下から噴き上がる爆炎がカールを焼き焦がす。
燃え盛る竈に手を突っ込んだ程度では音を上げない男だが、持っている鋼の槍が熱で御辞儀をする様にへたる程では耐えられる筈もなかった。
そこへ3本のボトルが投げ込まれる。ボトルの1本は足元で、残りの2本はカールに直撃し、割れて内容液が飛散った。
その瞬間から燃え盛っていた炎は一気に小さくなり、数秒のうちに鎮火していった。
「…………くっ、ふぅ〜うぅぅ………うらああああああ!!!」
ダアアン!!! ゴッ ガシャーン!!
倒れかけたカールは地団駄をして踏み止まり、狂乱して曲がった槍をぶん投げ暴れ出した。
偶々近くにあった重そうな機材が吹き飛び、もたれ掛かった貯蔵槽を蹴り上げて横倒しにしてしまう。
そこへアーサーがストンと上から降って来た。
「そこまでにしろ、カール」スッ
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
バヂィイ!!!
ぎゅぅ……ミシ………ミシ……
「あ゛あ゛!?」
錯乱しているカールは拳を手で止められ驚いた、フリで次の攻撃の予備動作に入る。
しかしアーサーはその手を知っている。
空いている手の暗器と口内の唾液を同時に飛ばす。
汚い手段だがこれをカールがやると暗器は兎も角、唾も樹木の幹を抉り飛ばす程度の威力になる。
ド゛ゴォ!!
アーサーはそれらの初動を同時に片脚だけで蹴り防いだ。
「ぶ……! くぅ……」ミシミシ
『毒ってんだから、もう動くな』
全身焼け爛れ、毒に侵されてなお戦意を失わないカールに、アーサーは心臓目掛けて注射を刺す。
ドス!
『血清と鎮静剤のカクテルだ。恐らく死ぬことは無いから、休んどけ』
「…………高みの見物しとけよクソッタレ」
『減らず口叩けるならひとまず安心だな?』ニコッ
ゴンッ!
ガクンッ……
『エ〜〜〜!? トドメ刺すかよ普通ー?!』
『いや、こうしねえと眠らんだろコイツは。そんな事よりビアンカ、カールは任せるぞ』
『へいへい……う〜、まだ見えね〜。あ、グレイは?』
『あの犬っころなら、とっくに追いかけてったよ。俺は上にあった保守用通路を伝って後を追う』
アーサーはビアンカに、視力がなくても班専用UIが表示される方法を教えてその場を後にした。
§
「ハァ……! ハァ……! くそっ、何かまだ追って来てるのか?」
服の下に隠し持っていて唯一取り上げられなかった湿布薬を肩に貼りながら逃げるリチャード。暗い中で怪我を負いながらも迷いなく走れるのは、明るいウチに覚えたマップを仮想現実として視界に投影しているからだ。
※非公式MOD
必死に逃げつつ、こちらの世界に来て以来最大の修羅場からどうやって逃げるのかも考えている所だった。
リチャード(本名・大方 力也)の人生がおかしくなったのはつい半年前からである。
妻の不倫が発覚し、愛する子供も実は托卵だった事が判明した。子供の親権は向こうに取られたが、そのついでに養育費を間男に払わせる示談を成立させた。
子供にはなんと話せば良いかと悩んでいたら、普段から何やら吹き込まれていたのか、幼いのにどこで憶えたのかわからないような罵声を浴びせられ、思ったよりもあっさり元妻と娘を家から追い出す決心がついた。
一人暮らしが始まって暫く、職場では噂に尾ヒレ背ビレのついたある事ない事が耳に入るようになってノイローゼになった。労災認定されてから程なく辞めた。
転職は上手くいかず、やる気も起きないので昔よく遊んでいたゲームに久しぶりに繋いでみたら出られなくなってしまった。
現実の自分は死んだ事にして、心機一転で再出発だと意気込んでいたら、いきなり殺されかけた。相手は自分の好みを詰め込んだ結果、元妻にそっくりの造形になった自身のサブキャラだった。
ほうほうの体で辿り着いた村では暖かく迎え入れられ、ここを拠点と定めて元・化学の高校教師としての知識無双を披露していると、気が付けば怪しい地下工場で爆薬の製造をすることになっていた。
気に入らないなら暴れてでも逃げて気にしないという生き方も出来たと思うが、銃で武装した相手に立ち向う程の勇気は持ち合わせていない。そんな事が出来る者はCBBでは被弾覚悟で中堅以下、銃弾を受けたり往なせられて上級者、見てから避けて被弾すら0となると頭のおかしい上位ランカー連中の領域となる。
その中で言うと自分は上級手前の中堅所だ。頭のおかしい筆頭の"アーサー・リッパースター"を倒そうと躍起になっていたあの頃が懐かしい。
因みに、CBBを始めてからしばらく後になって作った"リーサル植本"は上級者以上には育てた。俺自身はCBB初期からのアドバンテージでアイテム収集に努め、効率重視で植本を育てる事に成功したからだ。その為に死体漁りやPK集団とつるむこともあった。
結局、雪辱を晴らす前に現実で奴の逆鱗に触れて死に掛けて、入院した病院でまさか植本そっくりの女と結婚する事になるとは夢にも思わなかった。その事がキッカケで一度CBBからは引退したが、今度は離婚をキッカケに舞い戻って今に至る訳だ。
「クソッ!」キュルキュルキュルッ
ドビッ ビッ ビッ ビッ ビッ ビッ ビッ
後を追い掛けて来る何者かに対して即席のワイヤートラップを張り巡らせる。
機材と柱、床と配管、瓦礫と椅子……etc
進路上の目に付いた物、手当たり次第に特殊なはんだでピアノ線を渡していく。張りの強さもピンと張ったものから、弛ませ絡ませるようなものまで様々だ。
無論、吸光塗料でコーティングしたものも混ぜている。
そろそろ仕掛けた最初の罠に掛かる頃かと振り返ったリチャードは、辺りがシン…と静まり返っている状況に気がついて背筋が寒くなってきた。
(植本ならまだいい、目的はわからんが、昨日から何やらごちゃごちゃと協力を求めて来やがったから一応仲間だ。あの真っ黒仮面ならば、罠に引っ掛かるだろう。女は目と耳をやったみたいだし、デカいのは、そう言えば植本が足止めをしてくれていたな……となると、消去法で考えると……)
ゾクッと怖気を覚えて先に進もうと踵を返した。
っy=ー(゜д゜)・∵. ターーーン!‼︎!
・FFB(中):Fire Fight Bottle。どんな炎も秒殺!タバコの不始末から天ぷら火災、貴方が火だるまでも大丈夫!天然由来成分で健康も害しません。
…打/投:ワレモノ系【耐久値が0になるとゴミ[プラスチック]になる】
…名称:投擲用消火剤
…内容物詰め替え「不可」




