31.まぁイイや( •ω•)ヘ_シュッ
「茶番は置いといて、お前の思い付きの話にしては筋が通っているみたいだな。『嘘をつく時は真実を混ぜろ』って昔、話したのを覚えていたようだな」
「嘘じゃない。本当に村からここに派遣されて来たんだ!」
必死に弁解していても前科がある以上、その言葉には何の説得力も無い。
リッちゃんは知らないが彼の悪逆非道な行いは、当事者であるアーサーによって周知の事実である。班内ではログやSNSの魚拓も共有されている。
「う〜ん、グレイが保安官って言った時にパーカーと結び付けて納得した表情からして、その点は本当かもね」
「いや最近やって来た余所者なのは間違い無いだろ」
「保安官さんも留守がちと言ってたように、私もここに篭りがちで村の滞在日数は余り多くないんですよ」
「いつからだ?」
「え……? ああ、え〜と、あの時は意識が朦朧としていたので正確な事は……」
「話にならん」
「でも村長………、シャイターン村長とは面識がありますよ! あの人がここに私を派遣したんです!」
「ほう、面識があるのか? なら確かめる必要があるな」ガポッ
グレイシャードがマスクに手を掛ける。そして屈んで顔を近づけようとするが一時停止し、無言でリッちゃんをひっくり返してまた止まってしまった。
「クソッ、酷い臭いだ。シャワーも浴びてないだろ」
「えぇぇ……すみませんが習慣がないもので……」
顔を上げ、グレイシャードと3人の視線が交錯する。
「………ん? オイオイ、村に居る間は毎日風呂に入ってたぜ?」
「右に同じ」
「そんな不潔野郎と一緒にすんなよなー」
「何故唐突に罵られなければならないんですか?!」
「チッ! うるせえなぁ。ハァ……スンスン………んん〜〜〜」
眉間に皺を寄せて唸る。よっぽどの臭いなのだろうか。
「ニオイ消しで誤魔化しているな。嗅いだことの無い香りだ、消臭効果も優れている。しかし、完璧ではない、気になる部分に振りかけた程度だな? きちんと全身に振り掛けていれば、追跡に手間取ったかもな。くぅ……無臭と激臭の部分が混在している、が、スンッ……確かに、僅かだがシャイターン村長のニオイが残っている」
「はぁ? ………………そ、そうでしょう! そうでしょう! 握手もしたことがありますから!!」
ヒトのニオイを嗅ぎ分けることについては信じていないようだが、藁にも縋る思いで同調するリッちゃん。
一方でアーサー達は…
『なー? なんだか本気臭いぞ?』
『確かに、スッゲェーくっせぇよな』
『そーゆーの要らないから。アーサーが言い出したんだぜ? 『思い付き』だの『嘘』だとか言い出したのは』
『たった数日の付き合いだ。ユウに関しては嘘偽り無く信頼するが、テメェに対して警戒はしても信用もしてねぇからな』
『そんなぁ(´•ω•`)』
『吐いた唾は飲めねェ、手でも何でも、テメェのケツはテメェで拭きやがれ』
『言われなくとも土でも葉っぱででも拭き取るよ』
思いの外立場が悪くなりつつあるアーサーは、徐に電子タバコを取り出して咥える。すぐさま臭いに気付いたグレイシャードが激怒する。
「おい馬鹿野郎! 火気厳禁っつっただろ!」
「火は着けないタイプのヤツだよ。俺は着ける方が好きなんだがな………ふー」
「だったらせめて上を向いて吹かしとけ、上の、どっかで回ってる空調に向かってな……!」
余程タバコの煙が嫌いだからか屈んだままでキレている。吐き出した紫煙は空調設備があるであろう上の方へ向かって棚引いて行く。
「 リッちゃんのアリバイがあるのは分かった。実の所、爆発の原因に心当たりが有って、そっちで引火したのか、こっちが引火させたのか、微妙な感じだから、その辺は深く突っ込まない事にする。代わりに一つだけ聞きたい事がある。……ハァ〜」
アーサーの吐く煙は、暗い中で魔法の補助灯の僅かな光によって辛うじて目で追える程度しか見えない。にも拘らずアーサーの目はそんな煙を凝視し続けている。
「妹はどこに行ったんだ? 打倒アーサー・リッパースターを掲げて、かなり鍛えてたらしいじゃねぇか?」
繰り返すがリッちゃんことリチャードはこれでもCBB初期からの古強者である。最低でも10年はやり込んで来たユーザーであり、一人っ子プレイをしていない事は間違いない。
「会ったことは無いけど、随分頑張ってたそうじゃねーか。ハァ〜……名前は確か、"リーサル植本"、つったか?」
「あー、妹は危篤なんだ。だから見逃」
バァン!!!
強烈な音と光が一瞬空間を埋め尽くした。




