5.(^。^;)マジデスカ〜
「なんか骨はキュッと戻りましたし、後は破れた皮膚をパパッと縫えばOKですよね。あ、誰か釣り針を持ってましたよね? 下さい。あれ? 傷はどうしたんですか?」
「お前が治療に手間取る間に回復薬を使ったよ。それより安易にクレクレは感心せんぞ。ホレッ」ひょい
「すいません、ありがとうございます」
オンラインゲームでクレクレ厨は嫌われ易い。ここに居るのが身内ばかりとて、良くない事は正さねばならない。
俺からも一言注意してやる。
「ネコがサムイネコがサムイ」
「さっき普通に喋ってたじゃないですか。キャラがブレブレですよ」
「…………………………」
俺は"イェン・タフォー"、目の前の新参者より2年先輩だ。
それは置いておいて会話って難しい。まあクレクレ厨に関してはユウも"本体"の記憶から知っている筈だから理解はしている事だろう。
「改めて今後の方針を話したいが、それはカールが起きてからにする。それまでにビアンカは1時間程近辺の調査、イェンは周囲の警戒、ユウは治療に専念しろ。それと忘れない内に"班"を結成する。異論が無いなら解散だ」
「分かった、んじゃ、とりあえず川沿いを登ってみるわー」
パーティの結成で班員それぞれがお互いに誰がどの方角に居るのかが分かるようになった。
"班"は2〜6人で結成し、班長の独断でその人数の増減や入れ替えを行う事ができる。
ビアンカが拾い食いをしない事を祈りつつ、キャンプ地周辺に他の生物の痕跡が無いか軽く見て廻る。
CBBに登場する動物は実在の動物かUMAのようなものばかりで、お伽噺や伝説に登場する怪物は滅多に出ない。イベントでも無い限り。
それで、偶然見つけた足跡は片脚の蹄が5つもある猪に似た足跡だった。視界写真を撮って既存の偶蹄類の足跡と見比べると、やっぱり猪のものが一番近かった。
嫌な予感がするので班長に報告する。
「イーベベッベリーゴ」
「平和そうでなによりだ」
話をしても思う様に伝わらない。埒が開かないので、一旦ユウとカールの様子を見に行く。
「おやイェンさん、お散歩ですか?」
コイツは割りと皮肉屋だ。それは置いて、気絶しているカールのインベントリを漁る。怪我には回復薬が必要だ。
「あの、仲間にも死体漁りをするのはどうかと思いますけど」
勝手に仲間を殺すのもどうかと思う。
ふと思い出して個人チャットによる会話を試みる。PvPの際は積極的に話し掛けて相手の動揺を誘う常套手段であるが、それ以外の本来の使い方では滅多に使わないので忘れていた。
個人チャットを開いてユウにDMを送る。同時に回復薬も突き付ける。
『抵抗しないなら共有倉庫』
「個人チャットですか? えーと、……ふむぅ」
口に出すより余程上手く意思疎通が可能でちょっぴり感動する。
「うーん、まぁ、カールの怪我をカールの薬で治す分には良いか」
『雑魚技能なんだから、弄って悪化させるより、確実に治療しろ』
「……確かに」
熟練経験値は失敗するより成功した方が上がり易い。と言うより失敗すると減るのだから、医者っぽく振る舞うくらいなら傷薬を塗り込むだけで十分だ。今のところは。
『それと使った余りは戻しとけよ』
「ハイ、もちろんです」
さて、次はアーサーだ。
『DMだと話せるんだな』
『個チャなら文字だしね。そんな事より変なの見つけた』
猪っぽい蹄の事をアーサーに報告する。
『こんなに蹄が多いとキモいな』
『やっぱり判らない?』
『ああ、初めて見る。こりゃ確かにイベント限定生物っぽいな。新規マップまで用意しといてゲリライベントってのは嫌な予感しかしない。ビアンカを呼び戻す。お前は警戒を続けてくれ』
「アェアェ」
個人チャットは届ける相手が分かっているなら距離に関係無く相互通知が可能で、同一サーバーなら相互通話も可。
但し班に所属している場合は、班長以外は単独行動をしている相手にしか届けることが出来ない。逆に、班長でなければ他プレイヤーからの迷惑メール弾幕を受けることも無い。
そして班長と班員間でのチャットは班内で共有される。
『帰って来いビアンカ』
『戦闘中、スグハ無理』
「イェン! 援護に向かえ!」
「アイウエォー!」