29.臭い消しにマッチ擦ろう( ・ω・)旧
その後、あれ以降大きな崩落も無く突き当たりまで緩やかに曲がった道を進むと、暗がりにぼんやり黄緑色の文字が浮かんでいるのが見えてきた。
"↓下行き"
「あったな。下層行きのエレベーターだ。箱は下に降りているが使えそうだ」
どうやらこのエレベーターには独立した動力源があるようで、ビアンカを除く3人はその動力源の僅かな振動を感じ取っていた。
「さて……ここからどう降りようか」
「奴は手榴弾農家だからな〜。ポチッと呼んで、上まで来たらドカーン! って洒落にならないもんねー?」
「隅っこに梯子があるぜ。それかケーブルを伝うか? 何ならこっから飛び降りても行けそうだ」
動力源が独立していても照明には繋がっていないのか、停電で真っ暗な縦長の空洞に上から懐中電灯で照らしながら覗き込んだカールが言う。
それに対してグレイシャードが指示を出した。
「飛び降りるのはなしだ。早いが着地がうるさいのと、その時の衝撃で箱が壊れかねん。ケーブルは触るな馬鹿め。梯子を使う。俺が先に降りて安全を確保したら懐中電灯で合図を送る。それから降りて来い」
「………何で今罵られたんだ?」
「さぁ?」
グレイシャードが下に降りて暫くすると懐中電灯の合図が見えたので、梯子を使い静かに降りて行く。点検か非常時に使う物なので、普通なら誰かが使用中である事を報せる為に響き易い金属製の梯子なのだが、この程度で音を立ててしまう者は一人も居なかった。
そうして降りた場所はエレベーターの箱の上。
全員が降りて来るのを待って、グレイシャードがガスマスク越しに威圧を込めて口を開いた。
「ここから先は俺もよく知らない。念を押すが、ここはシャイターン村長の機密施設で、後々ここの情報が漏れていると分かった時は、真っ先に貴様らの首に賞金が掛かると思え」
「それってこの先に居るかも知れない奴をぶっ殺すかどうにかしちまうのが前提、って解釈すれば良いのか?」
「ああ。最低でもアーサー、貴様の責任になる」
「世話になった村長の顔に泥を塗る様な真似はしねえよ。だが情報漏洩に関しちゃ、保証は出来ん」
暗闇に溶け込んだ黒いガスマスクの内側で、グレイシャードの眼に力が込る。その視線を真っ直ぐに受け止めながらアーサーは続ける。
「今からでも外部と相互通信が可能な装置を持っている。今はユウとイェンにしか繋がらないけどな。さっきはおたくらが自前のを見せないから、こっちも玩具みたいなのを見せたが、俺達にはもっと高度な通信機が普及している」
「………つまりこの先に居る奴に仲間が居ると仮定して、そいつが外に居たとしたら、既に情報が流出している可能性があるから保証もクソもねえと言いたいんだな?」
「そうだ」
「不法入国者に盗賊団やら侵入者も、うんざりするぜクソッタレ。ふぅ………突入するぞ」
グレイシャードが箱の蓋に手を掛ける。
それにアーサーが待ったをかけた。
「ちょっと待て。何か仕掛けがあるかも」
「この中にか? エレベーターを使えなくするとは考え難いが?」
「だがお前も中まで入らずにここで全員を待っただろう? 直感的に何かあると警戒したんだ。俺も思った」
アーサーは鞄から聴診器を取り出し、蓋やいくつかの箇所を指で叩きながら調べていく。そして蓋から一歩離れた位置を示して剣を抜いた。
「この位置なら大丈夫そうだ。切り抜いて中を確認しよう」
更に鞄から紐を結わえた吸盤を出して示した位置にくっ付けると、紐を左手で持ち、右手の剣でその周りを一瞬にして三角形に切り抜いた。
抜けた穴から中を除くと、蓋の裏側に平べったい粘土と、それに繋がったパイナップル畑が敷き詰められていた。
「カール、どうよコレ」ニヤニヤ
「楽勝だぜ」
頭から上半身を入れたカールは畑を丁寧に収穫し、あっという間に畑の全部を自分の鞄に仕舞い込んだ。
「非常時だからかドアは開きっぱなしだが、誰も居なさそうだぞ。通路が奥に続いているが罠の気配も無い」
「わかった。行こうか」
上層に比べて下層は全面大理石張りの美術館の様な内装で、弱々しい光を放つ照明でも反射して十分な明るさが保たれている。
突き当たりは広間になっているようで、かなり広い空間があることが見て取れる。
爆発の起きた地下とは思えない程空気は澄んでいる。箱に穴を開けた時には内部へ向かって空気が吸い込まれていたので巨大な空調設備が稼働しているようだ。
「何故だ? 停電しているなら空調も何も動かねえ筈だろ?」
「予備電源があるんじゃない?」
カールの疑問にビアンカが適当に答えるが、今度はアーサーがグレイシャードに問い掛けた。
「所でここはよく知らなくとも、何があってどういう場所かくらいは知っているんだろ? そろそろ教えちゃくれねえか」
「……それもそうだな」
問いに答える前に広間に侵入した。やはり主要な照明設備は全滅している様子で、電力を必要としない魔法の補助灯がその周囲を僅かに照らしている以外は暗く、懐中電灯が無ければ常人の目では何があるのか判らないだろう。
「ほぉー、何とまぁ、こんな地下に怪しい設備が整ってるねー」
「村長って何者なんだ?」
「知っていたがもうわからん」
「で? ここは何の施設だ?」
「新型の火薬工場だ。従来の火薬に比べて燃焼温度が高く、扱いが難しいと聞いている。これから侵入者を拘束し、違法な畑があれば全部撤去する。安全を確認すれば終わりだ」
「んーじゃぁ、みんなでかくれんぼの鬼になるってコトね。得意分野だわ」
「逃げ隠れするヤツを見つけて袋叩きにしてるもんな」
「貴様ら解ってるだろうが火気厳禁だからな? 使わせもするな。畑は見つけ次第その場で無力化しろ。俺は奥を目指す。ではな」
そう言ってグレイシャードは中央を真っ直ぐに駆け抜けて行った。
「こういう展開って、マンガとかだとだいたい爆発オチだよねー」
「縁起でもねえからやめろ」
「とりあえず役割分担するぞ。俺はグレイシャードを追ってから奥側の半分を探す。手前半分をカール、ビアンカは好きにしろ」
「えー?」
「真っ暗な中で爆弾の解除が出来んのか? ワイヤートラップの配線がどこまで繋がっているのか把握仕切れるのか?」
「や、やってみたら案外……」
「"みたら"じゃやめとけ、回避に専念して畑の場所だけマーキングしてくれ。探すのは得意なんだろう?」
「適材適所ってヤツね。アーサーがいうなら従うよ」
「今のうちに縄と手錠を用意しとけ。誰か捕まえたらチャットで報告。質問あるか? ………なら以上だ。解散」
「よーし! やーるぞー!!」
「うるせえ!」
カールとビアンカが左右へ別れるのを見届けてから、アーサーはグレイシャードの後を追うように駆け飛んだ。




