26. _| ̄|○、;'.・ オェェェェェ
隠れる少女は頑として机の下から出て来ようとしなかった。
仕方がないので机を移動させるも、下から支えて一緒に移動したり、もっと高く持ち上げると突っ張ってでも出て来ないので、最後は机を真っ二つにする事にした。
コフー、コフー…
そうして出て来た少女は、フード付きポンチョと顔を覆い隠す緑と黒のストライプ柄の防弾仮面を被っていた。フードの隙間からはランタンの灯火を受けて、金色の髪がチラチラと光を反射して見え隠れする。
身長はイェンより少し小さい。少し前のパッチで女性の最低身長が更新されたのと同じ程度か。
「よっぽど顔を見られたくないらしい」
「まー、訳有り子供は今に始まったことでもないし」
「お前ら馬鹿か!? ひっくり返せばいい所を真っ二つにしやがってなぁ!」
どうもコールロア村所属の人にはコレクター気質の人が多いのか、このサゾも家具が傷付いていたり壊れてしまったのを目にする度に一喜一憂していた。"一憂"はわかるが何故"一喜"までしているのかはわからない。
「しょーがないよ、やっちまったもんは。で、どーするこの子?」
「こんの……! この子は保護します。ビアンカさん、この子をキャンプに連れて行って下さいな? 現状報告もしっかりとして下さい」
「え、いいの?」
「これ以上、物を壊して欲しくないのでな」
「ふーん、でも終わったら戻って来るからね」
「いや、代わりの人員を頼みたい。隊長なら…」
「よっと」
「わっ?!」
サゾの言葉は無視してビアンカが子供を抱き上げると、ランタンを置いて闇の中へと駆けて行った。
「ランタンくらい持って行けー!?」
「気にすんな、見えなくても道は覚えてる」
「……まあ、この部屋以外に目欲しい家具は無いし、こちらも進みますかな」
「まずは明かりだな、おい照明係、どっちに行けば良い?」
「はいはいコッチですなー(偉そうに」
「何か言ったか?」
「偉そうに(はいはいコッチですなー」
「オメー良い根性してんなぁ」
§
「…と言う訳で保護してやって」
「何が『と言う訳』だ。お前らがやれ」
「えー?! 公務員が何言ってんの?」
「貴様がそれに言及出来るとは驚きだ」
サゾに言われた通りキャンプに連れてったら、保護を断られた。丁度食後みたいなので上手く行くと思ったが、そう簡単には行かない。
「村の匂いのしない、顔も見せない怪しい餓鬼を引き返してまで保護する理由が無い」
「なん……!?」
「ハッキリ言わなくても判るだろう?」
恐らく、自分の鼻に絶対の自信を持つグレイシャードがそこまで言うという事は、この少女の正体に見当がついているのだろう。
そしてその反応で、ビアンカやグレイシャードと一緒に食事をしていたアーサーも少女が何者であるかに気付いた。と言うより確信した。
「どうしてもってんなら孤児院に入れとくくらいは可能だぞ? 紹介状は出さんがな」
「オイ、お前のコトだぞ?」
プイッ
少女はアーサーとグレイシャードの目線からそっぽを向いた。しかし向いた方向にはビアンカが同じ目線で待ち受けている。
「ねぇ、名前くらいは教えてくれない?」
「………」
「黙り決め込むなら、勝手に呼ぶよ。ん〜と……」
「勝手に考えるな」
「あ! 喋った!」
「………」
「てっきりイェンみたいなタイプかと」
「わょわゃ?」『呼んだ?』
「…?!」
どこからともなくヌっと現れたイェンに少女が引いた。
今日のイェンのコーディネートは、全身保冷バッグ等で使われる銀色の素材だ。
「スンッ、音も臭いも無しか……一体何の魔法だ?」
「ふゅふふ」『秘密』
「よく見ればお前ら、背格好が似ているな」
「じゃ、イェン、お前がこの子の面倒見ろ。名前は知らん」
「なぃごて?」『何で?』
「んじゃ〜任せた! あたしは戻るから!」
ビアンカが踵を返して戻ろうとしたその時、
ドォーン!!! ゴゴゴゴゴ……
ビリリリリ!!
突然、サイレンの音と爆破音、そして瓦礫の崩れる音が聞こえる。
「ガモ! レン! 豚共と待機! 残りはついて来い!!」
「イェンは子供と待ってろ。ビアンカ先導しろ!」
「2」『了解』
「わかった!」
緊急事態に対応へ向かう。




