18.冷たい…床
_(:3 」∠)_
「こりゃ即死かな?」
夕陽が落ちて暖色の照明が室内を照らす床に、顔と身体の向きが180度正反対の男の死体が横たわっている。
「悪い、銃出しやがったからつい足が出た」
「薄暗くしてたから射程距離を見誤ったんだと思う」
「しゃべったああ!!?」
「お静かに」
「(´・ω・`)」
目を離した一瞬の隙に、銃を手に出して握るその音を聞いてカールが男を蹴り上げたところ、この様な有様になったそうだ。幸い撃たれる前に仕留められた。
「首がこうなって死ぬまでに、魚みたいに口がパクパク動いてた」
「早業過ぎて気付かなかったんだろう。お前らが味方で改めて良かった」
『エリアチャットで何て言ってたか分かるぞ』
『へー』
「んな事より敵だ。近くの林に20程居るらしい」
「何だと!? クソッ! イブのジジイにバレたら面倒になる。方向はわかるか?」
「あっち」
イェンが指差す方角は、一階では丁度窓が嵌め込まれてあり、日除けの板が2つの蝶番で繋ぎ止めてある。
「丁度良い、アーサー、お前タバコ持ってるだろ。そこの窓で吸うフリしろ、本当に吸わなくていい」
「お? 頼み事ならしょーがねーな〜。一服するっきゃね〜な〜あ♪」
(おいイェン、あの馬鹿妨害してくれ)
(おk)
グレイシャードがイェンに耳打ちをするとマスクを取り外した。外気の臭いに顔を顰めている間にもアーサーは嬉々として日除けの板に支え棒を差し、タバコとジッポライターを取り出した。
《水遁・油取紙》
キンッ シュッ、シュッシュッ
シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュ
「オイもう諦めろよ。流石にみっともねえ」
「待て! あとちょっとで着くから!」
一瞬振り向いたアーサーの目は血走っていた。
「火花で着くかよ、ウザいから止めろ」
「チクショーおおお!? 何故だああぁぁ?!! ん? ……ォィ、イィエエエェェン!!! グボォ!?」
「フリっつったろボケ、もう十分だ。あの中に残りの的が居る。間違い無い」
「どうして解るんだ?」
「鼻がな、うんざりする程効くんだ」
「……あー、だからあの時、部屋出てすぐにピリピリしてたんだ」
あの時とはイブリースの部屋から出た時の事である。正確にはグレイシャードがドアに近寄った時からだったが、その時はイブリースとシャイターンも居て一悶着あった後なので気にしなかった。
しかし眼鏡娘に耳打ちされた直後から一層警戒を強め、慎重に行動していた。
「それで、どうするんですか?」
「さてな? 今の所は様子見の可能性が高いが、来るなら一匹足りとも逃したくはないな」
「半分は徐々に近付いてくるみたいだよ」
「反対側にも敵は居るか?」
「更地だけに誰も居ないよ」
「ふむ、裏口に出てから回り込んで奇襲が出来るかも知れないが……」
最後の言葉は独り言だ。集中しているのか、ユウの問い掛けに対する言葉が少し砕けていた。
「………どっちでもイイけど、10や20人程度ならなんとかなるよ」
「……ん? どっちでも? それは奇襲か正面から囮になる事か? それとも2つに別れた集団のどちらを担当するかという事か? どちらにせよお前にとっては、大した実力が無いと思っているのか?」
「どっちニしろヨワーイジメスザコ、もょもょゲーレ」
「コイツ大丈夫なのか?」
_(:3 」∠)_モクモクヒトスイカタミセマイ…
「いい大人がガキみたいにいじけるな!」
「まあ冗談は置いといて、イェンなら大丈夫だ。特に夜間なら独壇場と言っても過言じゃ無い」
「夜でも舞台の上で大道芸を披露している方がしっくりくるがな」
現在イェンの衣装は紅白ボーダー柄の防災頭巾に合わせて大阪の某人形を彷彿とさせるコーディネートになっている。
「んなもん着替えりゃ何にでもなれる。何にせよ、瞬間火力のデカさは俺達の中で随一だ。その癖、そうと知らないと、ただ突っ立ってるだけにしか見えない地味さも含めて俺は戦いたくない相手だな」
「そこまで言うのか」
「俺ならこの状況、イェンに全部任せて一服しながら待つさ」
「結局、吸いたいだけだろ」
イェンは褒め言葉が嬉しくてニコニコしながら、玄関から誰にも気付かれずに表へ出て行った。




