17. ハノz)
(=゜ω゜)!?
「病室の奴は清掃員に直接襲われた奴なのか?」
「アイツが捕獲した男の事なら、サイモンは被害者で間違いない」
「アイツってドイツですか、ややこしい言い回しはやめて下さい。ルビの無駄遣いですよ」
当事者に話を聞きに行って先程捕まえた怪しい男の顔を見せた所、錯乱してそれどころではなくなった。
捕らえた男は件の賞金首の片割れで間違いはなく、イェンが捕まえた時点で両足の腱を切った上にグレイシャードが脊椎を上手く破壊して腕と下半身のみを再起不能にした事で、生け捕りに成功したと見做されたので賞金が支払われた。
そしてビアンカに確認させた所、やはりCBBのプレイヤーである事が判明した。
『コイツ、初心者狩り班リーダーの2号だよ。1号と2号は直接ボコったから憶えてる。熱りが冷めた頃にまた同じ事繰り返してたから他にもサブキャラを作ってるよ。確か3号はやらかし過ぎて運営がBANしていて、4号が一番新しいキャラで顔がコレ』
チャット欄に表示された容姿は黒髪ロングにツインドリルテール+ポニーテール+目隠れの欲張りヘアセットと危ない衣装を着せたドン引きロリスキンだった。隠れてプレイする為とは思えない浮っぷりである。
とりあえずこの情報の開示は一旦保留にして、容疑者を牢屋に入れる前に知りたい事を吐かせることにした。
なので場所を移して現在は仮拠点の一軒家の居間に居る。村長の趣味なのかそれとも整理が終わっていないのか、妙なオーラを纏った骨董品や何かの気配を感じる絵画が布に包まれて部屋の隅にまとめられていた。
「やっぱり現金は新品よりもくたびれている方が安心するな」
前金で渡された5,000リールと同額の札束を手で弄びながらアーサーが呟く。
「村長は伊達に大商人と呼ばれてないからな。あの人が扱う物は良くも悪くも偽物は一切無い」
「ハッ、それであっちの本物をあんな雑に置いてて警戒心が足りてないんじゃないか?」
「チッ………、んな事より連中と面識がありそうだったが、何を知っている? 何者だ」
先程まで居た詰所では侵入者に気付いて捕縛したものの、それまでは誰も気付く事無く上官の部屋付近にまで接近を許していた。なので警戒が疎かであるという痛い所を突かれて話題を変えたいようだ。
「直接の面識があるのはビアンカだ。それと俺達の親父。地元でも指名手配されていて、見つけ次第、始末するつもりだったがこっちに流れていたとは知らなかった」
「そうか、ビアンカと……」
「因みにビアンカの話では私刑を繰り返していたら、いつの間にか消えていたらしい」
「オイ! 誤解を招く言い方すんなよー! 先に手ェ出して来たのは連中で、いつどこに現れても協力者が私を誘ってくれるのに便乗したんだよ」
「……何? アイツをいや、アイツらに何度も仕返ししていたのに、目を離した隙を突いて逃げられたのか」
「袋叩きにすればそれで満足だったんだけど……」
「甘過ぎるな。重罪人ならさっさと始末するに限る」
実際はCBBの中での事であるから、殺したくても出来なかったのである。それでもアカウントを晒してSNSや何やらを特定し、社会的抹殺を企てて実行した被害者も中にはいた。
「俺の聞いた話じゃ、アイツらが飛ぶ直前までは今言った通りだが、最初の方はビアンカが声掛けまくって協力者を募ったらしいぜ」
※ここで言う"聞いた話"とは本体の記憶を読む事です。
「友達の輪が広がるってイイネー。よいしょー、喉渇いたからお茶淹れてくる。ここを使ってやるってのに何も出さないみたいだからなー?」
「使わなくても構わんぞ。ああそうだ、ここの水道タンクはまだ空っぽだし、井戸の蓋の鍵は俺が持ってる」
「気にしない気にしない」
「………アイツまさか蓋、叩き割るんじゃないだろうな? オイ!」
「しねーよ馬ー鹿! 淹れてやんねーゾ!」
怒りながらビアンカは厨房へ向かった。
「デリカシーの無いヤツだな」
「うるせえ」
少し時間を置いてビアンカが盆にティーセットを載せてやって来た。つい最近、嗅いだ覚えのある香りがする。
「お茶淹れたぞー。ありがたく呑むが良い」
「あ! この香りはさっきの……」
「ふふふ、クスねてきた」
「オイ」
咎めるような口調だがグレイシャードはソファに座ったまま動かないので気にせずお茶を楽しんだ。
「いつまでも紅茶の香りが無くならないのはマスクに篭った所為と思ったが、ガメていやがったとは……」
「ちゃんと代わりのお茶っ葉を置いて来たから差引0!」
「良い訳あるか! 二度とするなよ」
「旦(^。^)ハーイ」
(ーーー!!! !!!………!!!?!)
仮拠点として村長に紹介された物件には、石造りの地下倉庫が備えられており、大声を出しても聞こえない筈だが、どれだけの声量か床下からくぐもった声が微かに響いてくる。
「オイオーイ?! 床下から音が漏れてんじゃーん。折角の茶が不味くなっちゃう。不良物件だ! 安くしろ!」
「黙れ。元からタダなんだから、ガタガタ言うなら賃金を払え」
「ぶーブー!」
「第一、あそこは食糧倉庫に使う予定で拷問部屋じゃない。防音より容量と頑健性を優先している。そんな事より血で汚される方が心配だ」
グレイシャードの言う通り、現在地下室ではカールとイェンによる拷問が行われている。
この手の技能は倫理に反する内容なので自主規制を設けるゲームも少なくない中で、CBBではよりリアルな体験の為に"される側"に重点を置いて開発を進めた事でニッチなファンを取り込む事に成功していた。法的に黒寄りのグレーゾーンなんて謂われるが、MODでカメラ位置を第三者視点にして観るとグロ過ぎて苦情が入り、描画設定パッチが当てられた程だった。
されればされる程、その手の耐性や方法を学習してイベント等での選択肢の幅が広がるのだが、それが可能なプレイヤーは実はそれ程多くない。
その数少ないプレイヤーが息も絶え絶えになってロッキングチェアの背もたれに抱き付く様な格好で縛り付けられ、首には頭上の梁と繋がったロープが張り詰められている。
その姿を照らし出す明かりは、柱に取付けられた燭台1つのみである。
「………はぁ…くこ……、も、もう十分だろ…死んじまう」
「こっち来てから何人もぶっ殺しておいて何言ってんだ? それに楽しみはこれからだろう? ん?」
「たぁぷぽぽ」
「ふ……ぐぬぇ?! ゅふッ…揺らすなぁ〜」
「お前気付かれずにここまで入って来たんだろ? 今のこの状況、仲間にチャットで知らせて迎えに来て貰えよ。歓迎するぜ♪」
「ちりから?m9(・∀・)9mちりから?」ツンツン
「ギャハハハハハグォエエエ!!! ゥイッふグフフフんギュ! ゲホッホアアアァァーー!!!!」
椅子を足で揺らしながら男の脇腹をイェンが突く、堪らず爆笑すると態勢が崩れて首が絞まる。"優雅な喜劇"と名付けられた拷問である。
「現在地の座標を送って助けを呼べよ。さもなきゃ、そろそろ道具を使って弄り倒すぞ」
「言われなくてももうやったさ! でも返事が無いんだよ! アンタが持ってる俺の鞄から確認出来るだろ!?」
「つったっぽ」
「ゥ………プシュッ…!!?」
「ピーピー煩えなー? 立場が解って無いお前宛に、未読メールがさっきからいくつも届いてんだよ。タイトルも冒頭一行の記載も無い空メールだけどな」
「かヒュッ………ゥハッ! ハァハァ……そうだ、何も書いてない。見捨てられたんだ」
「空白と改行入れまくって下の方に何か書いてあるかも知れないだろ? 俺達がそれを確認するにはまずお前が読んで開封しないといけない、知らなかったのか?」
「知るかボケッ! さっさと殺せよマヌケ! テメェの言う事が本当だとしても、仲間は売ら」
「来たよ。分身が不審な集団を見つけた」
「!? いきなり普通に喋るなよ。敵かと思ったぜ」
「高度な術中だとなんだか話し易いの。ビビらないで」
「んな事よりオイ、"集団"だと? 正確な数は?」
「この家から50mにある林の側に少なくとも20人」
「多いな、あんな壁のクセにザル過ぎるだろ。オイ、さっきはそんな事…」
ズドンッ!
両腕両脚が不随の筈の男の手には短銃身ショットガンが握られていた。
『指まで縛っとけ! バァーカ!』




