16. (:3」z)_ちょっと涼しい?
ノツ
部屋から出ると、あの眼鏡娘が現れて、グレイに何か耳打ちしてからお辞儀をし、部屋にティーワゴンと一緒に入って行った。
その姿を見届けてからグレイが振り返って声を発した。
「襲われた部隊の生き残りが目を覚ましたそうだ。話を聞きに行くぞ」
グレイシャードを先頭に6人でゾロゾロと移動しているのに、廊下に響く足音がほとんど1人分だけしか聞こえない。ユウは気持ち大き目に足音を鳴らして歩いた。
眼鏡娘が現れた角に差し掛かると、紅茶の香りが強くなって思わず溜息が出そうになった。そして角を曲がりながらユウが一人で呟いた。
「戻って飲み直したくなる香り……やっぱり待っていようかな?」
いつの間にか先頭をユウが歩き、すぐ斜め後ろにグレイとアーサー、その後ろにイェン、最後尾にカールとビアンカが付いて来ている。
その通路の突き当たりでは作業服を着て帽子を被った清掃員が掃除をしている。モップをじゃぶじゃぶ濡らして床を磨く後ろ姿は、サボってないアピールにしか見えない。
その背中にユウは声を掛けた。
「すみません、給湯室はどこにありますか?」
声を掛けられるとは思わなかったのか一瞬、動きを止めて、モップから片手を離し指で場所を示しながら返答した。
「え……、給湯室ならそこの………」
と清掃員は言いながら振り返る際、流れる様な動作で手に持ったモップを振りかぶった。
オーバースロー投法で大上段に伸ばされた腕は、しかし、振り下ろされる事無く伸ばした勢いそのままに天井へ吸い寄せられ、宙ぶらりんになってしまう。
「カゼでマタがサブかろう」
『幽遁・吊男!』
イェンの仕業だ。
清掃員はモップを握ったまま手を離すことが出来ず、必死になってもう片方の手で握った手を掻き毟っているがびくともしない。
それもその筈、天井から伸びた黒い手が、モップを握る手を丸ごと覆う様に鷲掴んでいるからだ。
不意にその黒い手が360度、グルッと回転した。それにより清掃員の腕か肩の関節が外れてちょっと伸びた。
腕に合わせて身体も回転するのかと思ったら、更に地面からも黒い手が2本伸びて両脚を掴んで固定している。
「グゥアアア!? 調子に乗ってんじゃねえ!」
清掃員は無事な方、左手で素早く腰にぶら下げた道具入れから金で象嵌された黒いヌンチャクを取り出して天井の黒い手を、それから地面の手をもあっと言う間に振り払ってしまった。
しかし着地と同時に両膝を突いて驚愕の顔を浮かべる。
「同感だ。俺もずっとそう思っていた所だ」
「ぬぉっ?!」
清掃員の背後を取ったグレイが何かして骨の砕ける小さな音が聞こえ、それから清掃員の身体がグラリと揺れる。
グレイの手には針の長い三本刃のアイスピックが握られていた。
「どこから侵入したか知らんが丁度良い土産が出来たな」
「懐かしい顔だが………積もる話はまた後でするとしようか」
「ほう? それは楽しみだ」
泡を吹く清掃員の辛うじて保っている意識を容赦なく刈り取り、逃げたり出来ないように徹底的な措置を施してから一行は病室へと向かった。




