15. (:3」z)_何か聞こえる…
1アールは10,000リールで、1リールは1,000ロールだそうだ。つまり50アールは50万リールで賞金首二人分の5倍に相当する。
「……この金額の開きは何故ですか?」
「ん? ああ、まだ被害が我等の部隊にしかなく、知名度も無いので懸賞額も低くしている。ただし、この依頼の報酬額は今後救われるであろう未来を鑑みて提示した次第。額面以上の脅威はあると考えている」
「だからあんな人数で躊躇なく囲んで来たのか」
「丁度そちらの人数も二人だったそうだしな。しかしそれでも大した者だ、銃弾を避けたり受け止める者はそう多くないが、剣一本で強装弾を捌き切るなんて信じられん」
「お陰で貴重なコレクションが一本、粉々になっちまったがな」
「ほう、異国の蒐集家なのか? それはまた興味深いな、少し見せてはくれんか?」
"コレクション"の単語に反応してシャイターン村長が前のめりに身を乗り出す。その目は珍しい物見たさでキラキラと輝いている。
そんな少年のような目を躱して隣のイブリース隊長に目を遣ると、疲れた目を解して肘掛けに持たれている。
「そんなことより、ターゲットの情報を教えてもらいたいんだが?」
「それについてはグレイが説明する。後の事はグレイシャードと共に話し合ってくれ。所で君はどうするのかね? ユウと言ったか?」
「どうとは?」
「失礼を承知で申し上げるが、非戦闘員を連れて戦いに赴くのは足手纏いに他ならないだろう。なあ村長、まだ空き家があっただろう?」
「ああ、暫くの間、そこを使ってくれて構わない。まだ開拓したてで何も無い殺風景な場所だが、返って守り易いだろうしな」
それは飛び道具ありきの考え方で、近接戦主体のうちの班には致命的だ。
だが悪くない提案である、しかし簡単に頷く事はまだ出来ない。
「一時的な拠点は願っても無いし、有難い申し出だ。だがまだ依頼を引き受けてもいない内にそこまでして貰う謂れはない」
「何? まだ足りないと?」
「ああそうだ。金が積み上がるのは何時だって嬉しい、だからと言って今はそれ程必要という訳でも無いんだなこれが」
少しだけ戯けて言ってみたが誰もニコリともしない。村長は鼻で長い溜息を吐きながら目を瞑り腕を組んで背もたれに身体を預ける始末だ。俺だって面白くない。
「ここまでノコノコやって来たのも口約束が果たして守られる意思があるのかどうかの確認の為だ。……さっきから黙ってるが、報告はちゃんとやったんだろう? グレイシャード」
「グレイの報告を聞いた上で我々は君達を呼んだんだ。心配するな、書類くらい幾らでも処理出来る。村長がな」
「何の後ろ盾の無い傭兵が金以外で欲しがるなら、皆まで言わずとも想像はつく。……何も言わずとも準国民扱いの難民、或いは亡命として保護、さもなくば………実績を示してからだな」
「そりゃ当然の話だな。ビアンカ、ユウと一緒に拠点の確認をしてくれ、他は俺とグレイと共に狩りに行くぞ」
「はぁ………そうだ、コレクションの内容も判断材料になるからな」
「なら期待して待てばいいさ、行くぞ」
廊下に出て、最後にグレイシャードが扉を閉めた直後に通路の角から部屋まで案内してくれた眼鏡娘がワゴンを押して現れた。
「あの〜、お茶をお持ちしたんですけれど…」
「遅過ぎるわ!」
ビアンカのツッコミに全員が同意した。
§
「遅くなってすみません! 新しい茶葉に手間取り…」
「構わんさ。もうお行きなさい」
「は、はいぃ……あっ! それとコンバ部隊の生存者が息を吹き返したそうです」
「そうか、それは良かった。後で見舞いに行ってやるか……もう、行っていいぞ」
「ハイッ! 失礼します!」
グレイシャードの妹がワゴンを押し部屋を出て遠ざかるのを待ち、室内が一旦静かになるのを見計らって双子が大きな溜息を吐いた。
「………吸うか?」
「ああ、それに少しだけ呑みたい」
二人の老人がそれぞれパイプと葉巻を燻らせ、ショットグラスに注いだ酒を同時に飲み干した。
「ふぅー……、グレイめ、何が『魔法使いが一人』だ。ユウとか言う小僧以外、全員が視えていた」
「うむ、護衛の一人一人が得体の知れない雰囲気を纏っていたな。だが、それならば逆に頼もしいではないか。そう思って待てばよい」
「クックック…まあ確かに、楽しみが増えたと思えば気が楽かな」
「欲しいか? イブ」
「勿論だ。シャー、お前は?」
「俺の養子にするには子供達が成長し過ぎている。彼らが望むような未来に繋げるならば……」
「ハッハッハッ、ゾッコンじゃないか!」
それから双子の老人は暫くの間、有意義に語り合った。




