12.(・∀・)普通に喋れる!
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「ここで待て、騒いだら殺す」
「トイレはどこでしょうか?」
「この部屋から出て左へ突き当たりまで進んだ右側にあります。では失礼」
扉が閉まって室内に5人だけになるとやっと人心地が着いた。
「はぁー、やっと休めると思ったらトイレに行きたくなりますね」
「そうか?」
「CBB古参はそう思ったらパンツかオムツを変えなきゃならんのに」
「本当だったらもう手遅れ」
「ピョルピョル」
「行かないんですね?」
「「『「行きます」』」」
§ 幹部室前
村に帰還してユウ一行を会議室に案内した後で、上司に帰還報告へ向かう。
扉をノックして返事を待ち、入室を認める大きめの声に酒が入っているのに気付いたが、溜息を堪えて部屋に入った。
「グレイシャード、只今帰還しました」
「ん…うむ、無事で何よりだ。こっ酷くやられた様だが連中に遭遇したのか? まあ飲め」
火の付いた透明な酒の入ったショットグラスを煽ってからの労いの言葉は素直に受け止めるが、そのまま同じグラスに注いだ同じ酒は仕事中だからと手で制して報告を始める。
上司は口をへの字に曲げて、また一口で煽った。
「いいえ、まだ若い見習い医師とその護衛四名と遭遇し、件の賊と勘違いをしまして交戦した結果、完敗を喫しまして」
「何だと?」
上司であるイブリースはこれでも元海軍大佐だった。海獣との死闘で両脚を失い、海軍から離れて最後に流れ着いたこの村では治安維持隊長であり村長の相談役として表向きは部下思いの好々爺で通っている。
今の眼光は海軍時代のそれを彷彿とさせる。
「少なくとも我々と敵対する意思は無いと判断して、現在、会議室にて待機して居ます」
「待て、グレイをして完敗と言わしめる連中をここに連れて来たのか?」
「まだ成人したてに見える若い医師でしたが、腕は本物です。私自身も瀕死の重傷を負わされましたが、この通りですし、先に戻った二名を除く全員が治療を受けて自力で帰還しております」
「それは医者の方で護衛とやらはどうなんだ? 得物は何だ?」
聞く姿勢にはなったがまた酒を注いでいる。だが本人はケロッとしているので気にせず続ける。
「はい、護衛のリーダー格"アーサー"は片手剣を使い、見上げる程巨漢のダークエルフ"カール"は槍使いで、どちらも我々の包囲集中砲火を言葉通り無傷で切り抜けました」
一瞬身体が硬直した様に見えたが、グラスを揺らして続きを促した。信じていない様だ。
「ただ一人の女戦士"ビアンカ"は膂力が私と同等以上にあり、小人のベッドを被った小男"イェン"は言動がイカれてますが恐らく魔術師です。両者の得物はわかりませんが先に述べた二人同様、かなりの実力者です。護衛対象の医師"ユウ"は目が良いのかそれらしい身のこなしですがどこかぎこちなく、他の四人の真似をしているに過ぎず戦闘力は大して無いと思われます」
続けて淡々と特徴を説明していく。説明を終えると、彼は酒で口を軽く湿らせてから質問をしてきた。
「ちょっと待て怪力女はまだしも、何だ小人のベッドとは? しかもイカれた魔術師? 揶揄っているのか?」
「イカれているのは言動で、理性はあります。何にせよ例の賊が用いたと言う総刃槍と双節棍とか言う武器は使用していませんでした」
「だからとて賊でない保証にはならん」
「例の二人組……"デュアルショック"でしたか? 報告通りであるならば体格的にアーサーが近いですが、力量では大きく差があります。二人でオルガル大尉の部隊を圧倒する賊と私の強装弾を正面切って全弾無傷で叩き切る奴とでは完全に別者と考えた方が良いかと」
「何なんだその化け物は? もういい、それでそいつらをどうするつもりなんだ?」
彼は漸く思考を放棄したらしく、パイプ用のライターで酒に火を付けて一口に煽った。そして大きな溜息を吐きながら、引き出しから様々な酒を取り出して並べ始める。
「俺が酔っ払ったのか、いや足りないか、久しぶりに爆弾カクテルでも飲もうか」
「せめて報告中は控えて下さい。それで、彼等については医師を難民として保護し、護衛は所属を明らかにした上で傭兵かどこぞのギルドに加入させるつもりです」
「で、ギルドに属する者として賊の件を解決させる訳か? 四人なら新規パーティで旗上げも可能だろうし、そもそもわざわざ依頼をさせる必要も無いと思うが」
「引き留めている理由が難民保護の見返りに依頼を達成する事なので…」
「先走り過ぎだバカヤロウ! 罰としてコイツを飲め」
既にだいぶ目減りしていた酒瓶に、今机に並べた酒を少しずつ注ぎ足して振り混ぜたボムカクテルをグラスに注いで差し出される。
「指栓で振るったのは不衛生です」
「うるせぇ黙って飲め!」
これ以上怒らせても後が怖いので、仕方なく飲んだ。喉が爆発したのかと思った。
「グハッ!」
「フン! 我々の依頼はギルド経由でしか受注不可、故にギルドでの点数も大きい。内々に解決するならまだしも、何故わざわざ我等の出した依頼を我等の紹介する新参者に解決させる必要がある? 手駒を贔屓したと要らぬ軋轢が生じる」
「ふぅふぅ……申し訳ありません」
遊ばせておくには大き過ぎる戦力を有効活用出来るかと思ったが、浅慮だったようだ。
それならそれでやりようはある。適当な依頼をでっち上げれば良い、例えば奴隷の護送は専属契約に基づいているがそこに割り込ませて…
「この中身を飲み干す迄が罰だ、ホレホレ」
「…(-ム-;」
海軍の一線を退いたとは言え流石に海の男だ。椅子の背にもたれたまま水系魔法を操って、酒瓶の中身をグラスへと正確に移し替えている。
凶悪な芳香を飛び散らし満たされていく小さなグラスを見つめていると、不意に背後の扉が開いて誰かが入って来た。
「あまり部下を虐めてやるなよイブリース」
「村長でもノックはしろよシャイターン」
コールロア村の村長でイブリースの双子の兄"シャイターン"氏だ。元は豪商で鳴らしていて現在はこの地域で楽隠居の筈が、村の特産品でまだまだ儲けている生粋の商人である。いつもの如く弟と特産品の無花果をつまみに呑みに来たのだろうか。
「オイオイ爆弾カクテルなんか飲ませて焼きが回ったか? 俺じゃなかったら罰則モンだぞ」
「何しに来たんだよ、晩酌には早いぞ」
「お前が言うな。例の奴隷盗賊討伐依頼だが、お前の押印が汚くて受理されなかったそうだぞ」
「はあ?」
「『はあ』じゃねぇよこのアンポンタン! 叱責する前にお前が改めろ」
「あ、あれ〜?」
「大丈夫かグレイ? 次、こんな事が有ったら君の持ってる蜂蜜酒でどうにかしてやろう……ってどうしたんだその包帯は?!」
「コレは名誉の負傷です。それよりその依頼の件でご相談がありまして……」
「ふむふむ?」
地獄に仏とはよく言ったものだ、これ幸いと自分の提案を蜂蜜酒と交換で通した。
§ 一方その頃のユウ一行
「やはりトイレはタイル張りの水洗式に限る」
「男女で別れているのは当然として、4人同時でまだ余裕があるのも良いですね」
「紙が原料依然の葉っぱはどうかと思ったが、大きさも肌触りも申し分無い」
『強いて文句を言うなら、前席洋式衝立無しな所かな』
立つにせよ座るにせよ、お互いを隠す物が何も無いのは思い切りがいいのか文化なのか。ソーシャルディスタンスは守られた配置だがそれにより、場所によっては真正面から丸見えで人によっては自信を失くした。




