青天の霹靂④
こんな深夜だけど、書けてしまったから投稿。
こんな時間に読んで下さる人が居るのであれば、感謝の限りです。
ではでは、お楽しみ下さい。
一人で勉強するより友人と勉強した方が学力向上に繋がりやすい、などという事を耳にした事がある。きっとそれは、人に教える事が学力向上の近道だ、というような事を言いたいが為の文なのだと思う。
数学がそれなりに出来る側だと思っている自分としては、この考え方は結構気に入っている。実際他人に数学を自分なりに教えてきたから、今の地位を築けている部分がある。
ただ、それは教える側と教えられる側の協力関係があってこその学力向上だと思っている。例えば────
「は~マジわっかんねぇ~!! こんなの課題に出すとか終わってるっしょマジで~!!」
「恭介……まだ始めて一時間も経ってないぞ……」
────こんな奴が教えられる側であれば、学力向上なんて話にすら到達し得ないのである。集中力無し聞く耳無し空気読み度無し。天は二物を与えずと言うが、一体神様は彼に何を授けたのだろうか。声量か、声量なのか。
「だってさ~。せっかく文理分けしたのに何で数学やらなきゃいけないワケ!?
数学から解き放たれたと思ってたのにさ~!!」
「いやいや……二年生までは絶対数学やるって入学の時に言ってたぞ。まぁ恭介の事だから聞き流したんだと思うけど」
「えぇ!? 絶対そんなの言ってないって~!!」
女三人寄れば姦しいと言うが、こいつは一人でその全てを担っている。いや担わなくて良いんだけど、もしかするとこれが天から与えられた物なのかもしれない。あぁ、言われてみれば確かに零善らしい才能ではあるな。羨ましくは無いが。
「はは……あ、和泉くん。ここの問題なんだけど」
「ん……あぁそれは公式を使う為にこう変形して。多分そこから先は出来ると思うから」
「なるほどねぇ、ありがとう和泉くん」
東大寺はそれなりに物分かりが良いタイプなので、教える側としてはかなり有難い存在だったりする。聞いてくる質問も重要なポイントが多いので、教えて貰う側なのが不思議なぐらい優秀だと思う。後は自分の考えを押し通す意志の強さかな、その部分を隣で寝転んでいる奴から貰えれば、きっと海谷と張り合えるレベルの秀才に慣れていた筈だ。
零善と東大寺の二人が数学をやっている傍らで、自分は、というと苦手な英語から手を付けている。分からない所は海谷や、そこそこ出来る東大寺に直接聞けるこの機会を有効活用、といった具合である。
ただ、正直な話あまり進捗は良くなかったりする。知らない単語が多いというのもあるが、何より教科書の本文が読めない。高校二年から急に文章の難易度が上がったように感じるのは自分だけなのだろうか、文と文の間のカンマが増えた所為で上手く読めない所がポツポツ現れ始めた。その一つ一つを潰していくのに、これがまた思いの外時間を取られてしまう。
「んー、ちょっと休憩しね?」
「恭介だからまだ一時間も……って、そろそろ一時間経過するのか」
「あー……コンビニ行ってきていいか? 飲み物でも買って来るわ」
「優馬が行くなら俺も行こうかな。丁度キリの良い所まで進んでるし」
「僕は解いてる途中だからここにいるよ」
「じゃあ俺ちゃんもコンビニに────」
「恭介は居た方が良いんじゃないかな。ご家族の方不在な訳だし」
「んぁー……それもそっか。なら一也くんカフェオレ買ってきて~」
「はいはい。じゃあ行こう優馬」
「ん」
何となくその場の流れで自分と海谷がコンビニ組、零善と東大寺が居残り組に決定した。普段であれば海谷と零善がセットなのだが、珍しい事もあるものだ。
スマホと財布だけを持って零善の家を出て、大通りの方に向かって歩いていく。住宅街に入って多少進み、曲がったその先に奴の家がある為、コンビニまでは少し歩く必要がある。
「しかしアレだな。こうして優馬と二人で歩くのって結構久しぶりだよな」
「お、おう」
「はは、何だよそれ」
ナニソレ。いやいや、これなんていう乙女ゲーですか、同性なのに不覚にも胸がざわついたんですが。攻略サイトはどこに記載されていますか、自分ノンケなので何とかNormalエンドに持ち込みたいのですが誰か攻略教えろ下さい。
中々に爽やかな発言をされ少し挙動不審な返事をしてしまい、海谷に笑われてしまうが、隣を歩く好青年はすぐさま表情のトーンを落として質問を投げてきた。
「優馬はさ、昨日彩良から相談されたか?」
「っ……」
「その反応は図星だな。なら俺と優馬だけっぽいな、男子で相談されたの」
一瞬海谷の発言の意図が分からなかったが、その後すぐに理解できた。先程零善が付いて来ようとしていたのを止めたのは善意ではなく、意図的にこの二人の状況を生み出す為に咄嗟に言いくるめただけに過ぎなかったと言う訳か。
「優馬は何て返した?」
「……あんまり言いたくないけど、”星条が二人と仲良くしたいなら、それで良いと思う”って」
「へぇ……なんか、優馬らしくないな。あぁいや、悪い意味じゃなくて、その、優馬ならもっとバッサリ切り捨てるような事言ってるかも、って」
すかさずフォローを入れているが、恐らく海谷が言いたいのは、自分なら河野と桝本の内のどちらが悪いかを明確にする、という事なのだろう。言いたい事は分かるし、もし仮に今回の件が全くの他人同士で行われていたら、善悪の判断を付けていた自信はある。ただ、そうしなかったのは────
「……それは流石に星条が可哀想だろ」
────今回の一番の被害者である彼女への気遣いなのだろう。切って捨てる事は出来たかもしれないが、星条にその選択肢を見せてしまうのは酷だと、そう判断しただけである。
「ははっ、優馬は優しいのな」
「茶化すなよ。んで、そっちは?」
「俺? 俺はまぁ、何も言えなかったよ」
苦笑を浮かべながらそう告げる海谷は、決して自分と視線を合わせようとしない。それは彼自身が一番、自分の発言の酷さを分かっているから、そして、そうする事しか出来なかった自分の心の弱さを嘆いているから。海谷は、そういう奴だ。
「……海谷らしいな」
「っ……これは一本取られたな」
ちょっとした皮肉を言うと海谷は目を丸くしていた。自分からそんな言葉が飛んでくると思っていなかったのだろう、こういうのを『鳩が豆鉄砲を食ったよう』って言うんだっけ、今まさにその鳩が彼だった。
海谷は『個』ではなく『輪』に重きを置いているタイプだ。きっと今までそうして生きてきたからなのだろう、輪が乱れる事を極端に嫌い、恐れている。だからこそ今回の様な騒動に対して手札を持っておらず、星条とのやり取りもきっと、彼のその悪い部分が出てしまったのだと思う。
「……本当、キツイよなぁ」
「まぁ、そうだな」
ポツリと海谷が呟く。それは一体誰に向けられた言葉なのか。それは、一体どんな意味が込められた言葉なのだろうか。
GWは未だ続く。それはきっと、誰かが自分達に与えた執行猶予なのかもしれない。
不定期更新なので、続きが気になって下さった方はブクマして頂ければ幸いです。
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