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アンダー18  作者: FALSE
第一章 <一学期編>
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青天の霹靂②

何と言うか、学生の時の人間関係って簡単なようで難しいよね、って話です。




「……」

「……」



 あの騒動の後の帰り道。いつも調子に乗った発言で場を作る零善も、今日ばかりは空気を読んで(?)ここまで一言も発していない。これは今日はどしゃ降りになるな、何なら雷までセットだね、超ハッピーセットだ。

 とは言ったものの、今日は嫌になるほどの快晴で、もうじき陽が落ちるというのに雲一つ浮かんでいないのである。全く、空だというのにまるで空気を読めないのだな。空失格ではないか。



「……優馬くん、何見てるの?」

「っえ?」



 桝本と、途中で先に帰ってしまった河野を除いた六人で帰っていると、本当に会話が無く夕焼け空を見ているぐらいしかする事が無かった。どうやらそこを見られていたらしく、いつの間にか隣にいた星条に話し掛けられていた。本人は誰かと歓談したい精神状態ではないと思うのだが、自分の事より場の雰囲気を優先したのだろう。星条らしいと言えば星条らしい事である。



「いや、夕焼けが綺麗だと思って」

「あ、確かに綺麗だね。イクラだね」



 おおっとそれ(・・)は健在かー。流石に今回はすぐに思考回路が追い付かないな、他の四人なんてどう返答したらいいか分からずに顔がグニャってるぞ。

 イクラって、パッと聞いた感じ太陽とイメージ的に近いものをチョイスしたと思いたいが、いや、星条なら何かもっと深いチェーンがある筈だ。例えば、そう、赤くて丸いに綺麗も加えた結果がイクラな訳で、その『綺麗』から何故イクラが生まれたのか、綺麗とイクラ……



(……もしかして『海の宝石箱や~』か!?)



某伝説のグルメリポーターの名言の一つ、海鮮丼に対して発言したそのフレーズから引用したというのだろうか。それは幾ら何でも繋がりが複雑過ぎやしないだろうか。そもそもあの発言はイクラ単体に対しての発言ではないし、夕焼けからイクラに変換は数的に無理があろう。



「……イクラだと数が多すぎるだろ。せめて『日本だね』ぐらい安直にしておけ」

「っ……うん!! そうだね、日本だね!!」

「和泉……驚きを通り越して呆れてるんだけど」



 どうやら星条のお気に召す回答が出来たらしく、玩具を与えられた子供の様に目をキラキラさせて大きく頷いていた。背後から立石に呆れられたが、まぁその程度の代償で彼女を元気付けられたのなら良しとしよう。いや、全く良くは無いのだが。というか立石、お前は気付いていないかもしれないが、その言葉は自分をディスっているようで星条もディスっているからな。



「立石、一応言っておくが自分は真面だからな?」

「……優馬くん、それ私がマトモじゃないって言ってない?」

「言ってない言ってない。少なくとも零善よりはマシだ、自信を持て」

「────って何でそこで俺の名前出て来るの!?」

「うーん、恭介くんと比べられてもなぁ……」

「ちょっと待って彩良ちゃんも酷くない!?」



 最寄りの駅までの間、こうやって零善を交えつつ談笑する事で何とかいつもの日常を取り戻せていたように思えた。いや、でもきっと、皆これが”いつも通り”とは思っていないだろう。きっと皆、割れ物を扱うような思いで声を出していたのだと思う。



「……和泉、そろそろ電車来るから」

「ん、あぁおう」



 立石に声を掛けられ、何時ものように二人、駅のホームへ駆け下りていく。今日は駆け込み乗車するなんて事にはならずに済みそうだ。

 ホームに並ぶ時は大体が中央位の番号で、それは立石が降りる際に出口に一番近いからだったりする。別に立石に強制されたとかではなく、自然とその場所に並び始めるようになった。



「……和泉は、どう思う?」

「え? どう、って……」

「彩良の話。言わなくても分かってるでしょ」



 確かにあの後でわざわざ立石がこちらに質問を投げて来るとなると、その内容は絞られはするが、少々雑ではなかろうか。まぁ、わざわざそんな文句を言うつもりは無いけど。

 立石が言いたいのは星条の様子の事だろう。騒動の当事者であり、何より仲違いした二人のどちらとも仲の良い人物であるため、この先もずっとどっちつかずの対応を強いられる事になる筈。根の優しい星条の事だ、どっちとも仲良くありたいと思っているだろうから、彼女の精神状態が好転するとは思えない。



「そうだな、自分が星条だったら病んでると思うな」

「はっ、何それ。アンタはそんなヤワじゃないでしょ」

「えぇ……」



 何故だろう、立石の中での自分は機械人間か何かにされているのだろうか。今までそれなりに感情を見せているつもりなのだが、まだ足りないと。零善と比べられているのなら、即刻止めて頂きたいものだ。



「……彩良の事だからさ、きっと周りに気を使って無理すると思う。多分、大丈夫しか言わないと思うし」

「まぁ、想像はつくな」

「そんなの見てらんないでしょ。ただでさえあの二人のせいで気まずいのに」

「……」



 立石のその言葉に、返答出来なかった。自分達があーだこーだ言って解決するとも思えないし、もし仮に河野と桝本を含めたこの関係が元に戻ったとして、今後上手くいくとも思えない。

 いつかは必ず起こり得る事が、偶々今日この日に起こったというだけの話。自然現象を人の手で捻じ曲げられないように、水と油の様なこの二人を元に戻す事は、きっと誰にも出来ないだろう。それが、最も近しい星条だったとしても、だ。

 隣に立つ彼女はこの現状を分かっているからこそ、自分に案を求めてきたのかもしれない。ただ、そこまで思考が回ったとて、彼女に返す言葉を持ち合わせていないが。



「……じゃ、()()()()()()

「お、おう」

「……何?」

「……いや、何も」

「そう、じゃあまた明日」



 自分の反応に不思議そうに首を傾げた立石は、人混みに紛れて駅のホームへと降りていった。そんな彼女の背中を視線で追いつつ、珍しいものを目にした、と目を丸くした。



(……立石がここで降りる事ぐらい、知ってるのにな)



 電車のドアの閉まる音が、今日は嫌に耳障りに感じてしまう。窓に反射する夕日の輝き方も、線路を走る音も、そのどれもが自分に纏わりついて離れない様な、そんな気分だった。




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