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第一章 <一学期編>
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変わらない新学年と変わるもの②

まだもう少し登場人物紹介の回が続きそうです。





「全く……校長って長々と喋らないといけない義務でもあるわけ?」

「まぁまぁ。結構為になる事言ってたと思うよ?」



 全校集会も春休みの課題提出も終え、昼前に下校となった自分はいつものメンバーと正門をくぐろうとしていた。

 正門をくぐる前から校長の長話(めいぶつ)に愚痴を言い続けているのが、クラスの女子の河野(かわの)愛実(まなみ)である。

 元々強気な性格の彼女は、クラスの女子の中でトップの発言力を有しており、クラス単位の行事をする際に彼女の意見が通りやすかったりする。どの学校のどのクラスにも一人はいるであろう、女王様タイプである。

 と、それだけ聞くと少々悪い印象だけが残ってしまうのだが、そんな彼女にも仲のいい友人はそれなりに存在する。表でこそ強い言葉をよく使う彼女だが、それは彼女なりの思いやりもあっての言葉であり態度であり、意外に友達想いだったりする。それが相手に伝わりにくいので、よく誤解を招いたりするのだが。



「”大人と子供では時間感覚が異なる。子供である内は余りある時間を色々な事に使いなさい”だったかな。俺としては良い言葉だと思うけどね」

「よくそんな長い言葉を一語一句覚えてるよね。ホント一也って真面目」

「いやー本当に。一也はもう少し俺ちゃんを見習ったら良いと思うよ~?」

「「それはない」」

「うぇぇっ!? 二人してハモるとか酷くね!?」



 視界の少し先、帰路を先行する海谷・零善・河野グループが楽しそうに談笑しているを眺めながら、残りの五人は後ろからそれについていく。これがいつもの下校風景であり、自分が学生だと実感する瞬間であったりもする。



「和泉くんは、その、新しい先生どう思った?」



 隣を歩く東大寺が全校集会の時に紹介された新任教師について尋ねてくる。確か新しく来た先生は二年生理系担当の数学教師だったっけ。教壇に立って話していたのは覚えているが、余りにも定型文過ぎたので内容までは記憶に残らなかった。見た目も普通で、個性を見つける方が難しいタイプの人だった、という印象である。

 多分だが、彼がこういう質問を自分にしてきたのは、明日以降の数学の授業がこの新任教員である可能性が高いからだろう。自分も彼も三学期の際には理系を選択しているので、同じ状況である自分に意見を求めた、といった感じだと思われる。



「ん……普通としか。明日早速授業あるし、それを受けてからじゃない?」

「そう、だよね。分かりやすい先生だといいなぁ」

「個人的には課題の少ない先生だと有難いかな」

「ふふ、和泉くんらしいな」



 下駄箱の時の海谷との会話でもそうだが、どうやら自分はサボり魔か何かだと思われているらしい。出来る限り面倒な事をしたく無いというだけなのに、全く以て失礼な話である。


 その後も文理別の授業についてだったり、新しく始まるドラマの話だったりと、他愛もない話を続けていると、いつの間にか最寄り駅まで来ていたようだ。



「じゃ、また明日な」

「ん、また」



 この最寄り駅で登り組と下り組に分かれ、自分は下り組なのだが、下り組は自分ともう一人の女子しかいない。つまりこの駅で六人と二人に分かれるのだ。今みたいに軽く別れの挨拶をしているが、正直この時間が一番気難しかったりする。どうしてこんな大事なタイミングで海谷はいなくなってしまうんだ。

 自分と同じ方向の女子というのは────



「ほら、もう電車来たよ和泉。ボーっとしてないでさっさと行くよ」

「え、あ、おぉ」



────と、圧倒的姉御肌な立石(たていし)梗佳(きょうか)である。高身長、好スタイルとハイスペックな外見を持ち、零善に無いクールで大人びた雰囲気から、クラス内外問わず頼れるお姉さん扱いされている。あの気の強い河野でさえ、彼女の言葉には信頼を置く程だ。

 そんなハイスペックお姉さんな立石に急かされて発車間際の電車に駆け込んだ自分は、時間が時間なのかガラ空きな車内にホッと一安心する。駆け込み乗車なんていう迷惑且つ目立つような行為、本当なら余りしたく無いのだが。



「ふぅ……間に合ってよかった。これを見逃して十数分待つなんて馬鹿げた事になりたくないからね」

「いや、そんなに急いでないから別に待っても良いんだけど」

「いやいや、走って乗れるなら乗った方が良いっしょ」

「あぁ、そうだね……」



 さも当然のように首を傾げる立石だが、悪いが全く賛同出来ない。表面上は波を立てない様な反応をせざるを得ないが、正直な所急ぎでないなら電車なんて見送って良いと思っている。女子陸上部所属の彼女だからこその考えなのだろうけど、出来れば余り巻き込まないで欲しいものである。

 ここだけの話、こうして二人だけの帰路につく事はもう一年程繰り返している訳なのだが、どうも自分と彼女は考え方の方向性が違うらしく、会話を弾ませる事がほとんどないと言っていい。自分が異性とのコミュニケーション能力に欠けている部分も原因なのかもしれないが────



「……」

「……」



────と、余程の事が無い限り二人きりで会話が発生しないのである。電車に乗るや否やすぐにブレザーの内ポケットからスマホを取り出した立石は、こちらに一瞥もくれずに画面を見つめ続ける。これが下り組の日常風景である。


 自分はこの無言の時間が結構好きだったりする。

 誰かと会話している時というのは無意識に会話相手の挙動に注意が向いてしまい、外の風景の情報が全く入ってこなかったりする。それはつまり、本来自然に気が付ける事も気付けずに素通りしてしまうという事。それを損したと考えるか、なんて事無いと考えるかは人次第だが、自分は前者である。



「……あ、じゃあまた明日ね」

「ん、また明日」



 乗車駅から数駅先が彼女の下車駅であり、そこから更に数駅先で降りる自分よりも先に彼女は車内から去って行ってしまう。こうして、プライベートタイムに突入する訳である。

 言っておくが自分と彼女は仲が悪い訳ではない。ただ、そう、言葉を選んで表すとするなら、自分と彼女は互いに適切な距離が分かっている、ただそれだけなのである。







読んで下さった方なら分かると思いますが、基本メンバーは八人で、まだあと二人登場してません。

登場は次回以降、という事はまだ人物紹介の回が続きそうですね。

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