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第一章 <一学期編>
2/22

変わらない新学年と変わるもの①

登場人物紹介の回前半って感じですかね。

少しずつ投稿していきますー





 学生にとっての一年というものは長いようで短くて、それでいて長い。滅茶苦茶矛盾する事を言っているが、年齢問わず多くの人が共感する事実だと思う。

 実際、自分こと和泉(いずみ)優馬(ゆうま)は去年の一年生を終えて、そんな感想を抱いていたりする。人間、不慣れな事をする時はあっという間に時間が流れていくものだから、高校一年生の最初の数ヵ月があっと言う間だったのは納得がいくが、順応し始めた二学期は割とゆったりと時が流れたように思えた。かと思えば年を越し、そして新学年を迎えたのだから、やっぱり長くて短くて長いのだろう。この感覚は、恐らくは間違っていない。


 意識を向けずとも身体が進んでくれる位にまで通い慣れた通学路を行き、桜の花びらが添えられただけで変わり映えの無い学校の正門前までやってきた自分は、そんな些細な事を考えたりしていた。

 普段であれば早朝のテストに向けて英単語帳を使って英単語の一つや二つ呟きながら登校するのだが、始業式の今日に至ってはそんな必要もなく、ルーティンを奪われた自分には、くだらない事を考える以外にすることが無いのである。

 このご時世、スマホでも音楽でも何でもあるのだが、自ら通学中の危険性を増す行為をするのもどうかと思う。歩きスマホ、イヤホンで耳塞いで登校、ダメ絶対!!


 正門を抜け、そこから迷うことなく一年間使ってきた下駄箱へと直行する。

 自分の通う私立桐明(とうめい)高校は都内でそれなりに名の知れた進学校であり、進学校故の独自の校則を持っていたりする。その一つが『三年間同じクラスで授業を受ける』というものであり、何でも高校創立者は『広く浅く友人関係を作るのではなく、数人の親友を作りなさい』という想いがあったとか。学校側の人間としては中々珍しい考え方だが、個人的にはこの考えは結構好きだ。



「────よっ、優馬」

「……お早う、海谷(かいたに)



 使い過ぎてその質感まで鮮明に思い出せる下駄箱に靴を入れ、校舎を歩く用のスリッパを取り出そうとした所で、頭上から自分の名を呼ぶ声が聞こえてきた。その爽やかな呼びかけだけで誰かは十分に分かるので、振り返らずに返事ができた。


 スリッパを履き、視線を上げると予想通り海谷が自分の事を待ってくれていた。

 海谷────海谷一也(かずや)は一年の頃からそれなりにつるんできた一人で、見ての通り高身長爽やか系男子である。運動神経抜群、学業優秀と、揚げ足を取る部分がまるで見当たらない超人、それが自分が最初に持ったイメージである。本当は、ただの純粋なサッカー少年だったりするのだが、その話は今は良いだろう。



「何か二年生になった実感が全くないよなー。下駄箱も教室も変わらないし」

「まぁ……楽っちゃ楽だと思うけど」

「はは、優馬らしいな、それ」

「……そうか?」



 何時にも増して光沢のある階段を上りながら、再会の言葉も無く下らない会話を交わす。春休みの期間中も宿題会やら何やらで会っていたので、ついさっきすれ違った女子達の様に手を握り合って喜ぶ必要も無いだろう。そもそも、男子であの喜び方をすると一部の界隈の人以外には不審がられてしまうな。

 自分達が去年通っていた教室はコの字に建てられた校舎の中央二階に位置し、階段を上った先から少し進んだ所にある二組である。教室の前扉の上に付けられたプレートには、太く『二年二組』と書かれている。人が歳を取るように、この教室も一つ歳を取った訳だ。



「おっ、お二人さんおはよー」

「お早う恭一(きょういち)。珍しく早いな」

「いやー、今日から学校始まると思うとつい早起きしちゃってさー。

お陰様で寝不足なんだよなー」



 教室に入るとすぐ、奥の方から元気な声が聞こえて来る。海谷がすぐに返事したその相手の名前は零善(れいぜん)恭一、名前の字面だけ見れば中々のクールガイに思われそうだが、誠に残念ながら彼はクラス一のひょうきん者だ。『名は体を表す』というのなら、一体彼のどこにその要素があるというのだろうか。今年の夏の自由研究候補だな。



(しん)もお早う。真は相変わらずの早さだな」

「うん、僕としてはいつも通り起きただけなんだけどね」



 豪快に欠伸(あくび)をする零善のすぐ近くの席には一際大柄な男子が着席していて、海谷が声を掛けるとこれまた見た目とは裏腹な、柔らかな言葉が返ってくる。

 真と呼ばれたこの大男の名は東大寺(とうだいじ)真。こちらは名が体を表しているのだが、どうにもその名と体に本人の精神が追い付いていないらしく、去年一年の付き合いで良く言えば温厚、悪く言えば弱気な性格という事を思い知らされた。良い奴なのは間違いないのだが、もう少し自分の意思を突き通せばいいのに、と何度も思わされた相手である。


 海谷と零善と東大寺、そして自分。一年の時はこの四人で行動する事が多く、色々な事をして幾つも思い出を作っていた。元々対人関係の構築が得意ではない自分にとって、このグループに馴染ませてくれた海谷には本当に感謝している。

 下校時には女子四人を含む八人という大所帯で、世間的な言葉で言うならクラスカースト上位グループなのだろう、この二組では発言力が強いグループに自分は入っている。仲間意識やグループ意識というものに憧れや嫌悪感といった強い感情を持っている訳ではないが、今ではこの八人グループを居心地よく感じてしまっている。全く、中学の時の自分が見れば何と言って唾を吐くのやら。



「おーい全員席に着けよー。さっさと出欠確認済ませて全校集会に向かうからなー」



 零善を中心としたちょっとした歓談に身を置いていると、他のクラスメイトも続々と集まっていたようで、気が付けば担任の先生まで教室に入ってきていた。他の三人と座席的に離れている自分はそこで一言告げ、自分の席に戻っていくのだった。





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