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アンダー18  作者: FALSE
第一章 <一学期編>
18/22

運命を導く定理⑧

深夜だけど上げます。

……この作者、毎度の事ながら深夜投稿多くない?



 立石が捻挫をしたその次の日、彼女は遅れて学校にやって来た。予想通り、彼女の左足は過剰なまでに包帯でグルグル巻きにされていた。

 実際にそれを見たのは放課後になってからなのだが、放課後の彼女を見る限り機嫌を損ねているようには見えなかった。これが河野ならまず間違いなく当たり散らかしている所だろうが……こういう部分が周囲の人から大人っぽく見られるのだと思う。


 話を聞く限り、授業や登下校には大して影響は出ていないらしい。最寄りの駅にはエレベーターがあるらしく、プラットホームに行くのにエスカレーターも使えるそうなので、松葉杖さえあれば登下校は問題ないとか。鞄の中身も最低限に抑えてしまえば、鞄をリュックのように背負う事で松葉杖の邪魔にならないのだとか。

 後、全く空気の読めない零善が部活動について尋ねた所、顧問に暫く休部するように言われたそうだ。きっと自分の身体の事を思って顧問もそう告げたのだと彼女は言っていたが、それを言っている時の彼女の表情は誰が見ても分かる位に悲しそうだった。


 ただ、幾ら彼女が負傷しようとも、残酷な事に時間が止まる事は無く、あっと言う間に体育大会当日がやってきてしまっていた。



「さぁ皆、怪我の無いようにしっかり頑張るんだぞ!!」



 担任からのありきたりな激励を貰いつつ、クラスの皆は各々観戦の準備や出場の準備を整えていく。借り物競争は午後の部なので、自分は前者である。



「っべー、なんかドキドキしてくるな!!」

「いや、何で出番最後のお前が今ドキドキしてるんだよ」

「だって今からクラス対抗で勝負するんだぜ? 手に汗握る戦いが始まるんだぜ?

そりゃ誰でもワクワクするっしょ!!」

「あ、そう」



 座席後部でまるで小学生の遠足並みに一人で騒ぐ零善のノリについていけなくなり、視線を前に戻す。自分のいる二階席からは種目の行われる一階席の様子が全て見渡せるので、観戦としては最高のポジションだと思う。

 桐明高校の体育大会は学校近くの小ドームを貸し切って行われる。学校全体の人数を考えると、自校のグラウンドの広さでは行えないのが一番の理由だろう。屋根付き屋内で体育大会とは珍しく思うかもしれないが、個人的には日光にさらされる事が無いのでかなり有難く感じている。


 開会式や選手宣誓など、そういったスタート演目は既に終わっており、一階フロアには第一種目である男女別短距離走の走者が集められている。何時ものグループメンバーの中では、星条がこの種目に出場している。去年は借り物競争を選んでいた彼女がこの種目に出ているのは、意外と言えば意外である。

 男女別短距離走は男子が100メートル走、女子が50メートル走となっており、どちらも走る系の種目では最短の競技になっている。ここに割り当てられる人数もそれなりに多く、特に見せ場がある訳でもないのでサクサクと進められてしまう。ただ、見せ場が無いとはいえ知り合いが出ていればつい目がそちらに向いてしまうので、プレイヤー、オーディエンス共にウォーミングアップとして最適の競技だと思う。



「おっ、次彩良ちゃんの番じゃない?」

「そうみたいだな、ほら優馬も」

「ん、あぁ」



 各学年各クラスの男女が一ヵ所に集まっている為、遠くの二階席から特定の人物を探すのはそれなりに難しい筈。しかし自分より後方にいる海谷と零善の二人は、自分よりも先に星条を見つけ出していたようだ。海谷はともかく、集中力の『し』の文字も当てはまらない零善に先に見つけられるのは、何となく悔しい思いをしてしまう。


 星条が他のクラスの女子と横一列に並んで走る準備をする。クラウチングスタートの構えをする彼女だが、その姿はどこかぎこちなさを感じさせられる。というより、少し前傾姿勢が過ぎるのではないだろうか。



「……あちゃー」



 始まる前から不安を抱きながら、聞き慣れてしまったピストルの音が鳴る。一列に並んだ女子達が一斉に走る中、ただ一人、星条だけはスタートを失敗してしまい出遅れてしまっていた。

 ただでさえ走るのが苦手な彼女が出遅れてしまえば、他走者との距離がどんどん開いてしまう。傍から見ていて目を当てられない光景だったが、それでも彼女は最後まで走り切っていた。



「……星条にしては良く頑張った方じゃないか?」



 海谷も零善も、隣の東大寺でさえも苦笑するだけで何の感想も出てこないので、柄にもなく星条のフォローを入れておく。勿論言った事は本心なので、違和感なく彼らには届いてくれただろう。



「ま、彩良ちゃんらしいし、怪我しなかったからヨシでしょ」

「そうだな。優馬の言う通り、よく頑張ったと思う」

「うん、そうだね」



 クラス順位の事を考えれば、最下位という結果が褒められるべきものではないのは確かである。本人もその事は分かっているだろうし、クラスの全員が最下位という結果の方に注目してしまうのも当然だと思う。

 ただ、彼女は努力して最下位だったのだから、その部分は誰かに認められても良い筈だ。そうでないと、努力する事が馬鹿馬鹿しくなってしまうではないか。失敗を恐れるが故に努力しなくなるなんて、きっと本人含めた誰のメリットにもなりはしない、と自分は考える。



「じゃあそろそろ僕の番だから行って来るね」

「おっ、ちゃんと応援してるから頑張れよな~!!」

「そうだな、応援してるからな、真」

「ん、頑張れ」



 同じく短距離走に出場している桝本が走る準備をしている時に、障害物競走に出場する東大寺が席を立つ。次の競技の人は時間が来ると一階の控え場所で待機しておく必要があるので、恐らくそれに向かったのだろう。

 他の女子と差をつけて颯爽とゴールを過ぎていく彼女を眺めながら、自分の出場する借り物競争ではどうなるのかと少し不安を覚えた。




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