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アンダー18  作者: FALSE
第一章 <一学期編>
15/22

運命を導く定理⑤

そういえばポイント下さった方、ありがとうございます。

まだ貰える程書いていないんですけど……良いんですね?笑


これからも、この作品をお楽しみ下さい。




 体育大会まで残り数日という事もあり、ここ最近の立石は放課後グラウンドで作業しているのをよく目にしていた。



「あれ、まだ皆残ってたんだ」



 立石を除くいつもの六人で校舎から出ようとすると、何やら大きな段ボールを積んで抱えていた彼女が目の前を通り過ぎようとしていた。彼女もこちらに気が付いたらしく、荷物を抱えたままゆっくりと近づいてきた。



「梗佳ちゃんお疲れ~。まだ時間かかりそう?」

「んーいや、取り敢えずはこの荷物だけ倉庫に運んでしまえば今日はおしまい」

「そうなん? じゃあ皆でここで待ってるわ~」

「いや勝手に決めるなって。

でもまぁ、それだけならアタシも待ってるから」

「あ、良かったら僕手伝うよ」

「えっ、あ────」



 零善と河野の発言によって校舎前で立石を待つ事が決定した中、その場に自分の鞄を置いた東大寺が立石の段ボールを一つ、彼女が何か言い終わる前に持ち上げてしまう。

 多分立石的には一人で運べるから、東大寺の手助けを借りるまでもないと思ってたのだろう。ただどうやら今回は、それを伝えるより東大寺の善心の方が先だったようだ。



「確か倉庫だったっけ?」

「あ、うん……ありがと」



 割と珍しい光景を目にした。元々立石は頼るより頼られるタイプ、という認識が多くの人の中にある為、こうして誰かに手を差し伸べられる機会を見る事が殆どない。大抵は彼女が手を差し伸べる側なのだろう、東大寺に対して感謝の言葉を述べている彼女の姿は、見ていて少しぎこちなく感じた。



「恭介は真のこういう部分をもっと見習うべきだな」

「えぇっ!? 何でここで俺に振るの!?」



 東大寺と立石が段ボールを持って倉庫の方へと向かっていくのを見送ってから、海谷がそんな事を口にする。零善は一体何のことか分かっていなさそうだが、恐らく自分を含めた彼以外の三人は、海谷の言いたい事を理解していると思う。実際、河野も星条も大きく頷いていた。



「……零善、要は待つ選択より先に、手伝う選択をしろって事だよ」

「えっ、あぁそういう!! いやでもだって梗佳ちゃん全然平気そうだったし!!」

「……だから零善、そういう所なんだよ……」



 らしい言い訳をする零善にため息交じりに言葉を返すと他の三人がクスクス笑い始め、それを見た零善が訳の分から無さそうに唸り出す。きっと、こいつの女性に対する扱いは今後一切変化する事が無いんだろうな、そう考えると少し可哀想というか何と言うか……一言で纏めれば”零善らしい”といった所である。

 ただ、もし仮に東大寺が手伝わなかったとして、自分に彼と同じことが出来たかというと少し怪しかったりする。海谷は間違いなくするだろうと思うし、星条も手伝うと言いそうな気がする。河野は多分言わないと思うが、それはこれだけ男子が居て自分がやると言い出す必要が無い、と考えた上で言わない選択をすると思う。自分は、もしかしたら海谷に甘えていたかも知れない。



(……こういう所が、自分の悪い部分だな)



 これでは零善に文句を言えないな、と自分に嫌気がさしながら、東大寺の鞄を持って校舎の端に移動する。夕日は沈み始め、校舎の端は少し薄暗くなりつつあった。



「そう言えばさ、どうして一也は1000メートル走を選ばなかったの?」



 ボーっと夕焼けを眺めていると、スマホ片手に河野がそんな質問をする。言われてみれば、去年の海谷も400メートルリレーを選んでいた気がする。安直かもしれないが、サッカー部で運動する事が好きな彼ならもっと長距離を走るとばかり思っていた。



「あー……まぁ、部活対抗リレーもあるから、流石にしんどいかなって」

「なるほど。流石の一也もそんなに走れないって事ね」

「ま、偶には美味しい所を恭介に譲ってやらないとな」

「えっそんな事考えててくれたの? 一也くんやっさし~!!」



 どう考えても喜ぶべき場面ではないと思うのだが、そこは流石の零善である。因みに今の会話の流れから分かる通り、この体育大会の大トリであるクラス対抗男子1000メートル走の走者は零善であり、海谷の推薦だったりする。

 確かにこの学校での体育大会は派手な種目は少なく、綱引きや騎馬戦、組体操といった身体を酷使するものは一つとして行われない。ただ、それでも零善の出る種目は例年盛り上がりを見せているので、クラス一のお調子者の奴からすれば断る理由も無いのだろう。


 その後も各々の種目について去年の事を思い浮かべながら話をしていると、夕日は完全に沈み切ってしまっていた。街灯が学校外のアスファルトを照らし出し、日々暑くなる夜を迎える準備を整えていた。



「……ねぇ、梗佳ちゃん達、遅くない?」



 不安そうにぼそりと呟く星条に、それまで歓談を楽しんでいた三人が一瞬にして硬直してしまう。

 星条の言う通り、二人が帰って来るのに余りにも時間が掛かり過ぎていた。いや、もしこれが立石一人なら、倉庫に向かってから部活の顧問の所に戻り、着替えに戻ったのだと考えられるのだが、東大寺が手伝っている以上話は別だ。東大寺がわざわざ女子陸上部の顧問の所まで行く理由が見当たらないからな。



「……確かに変な感じがする。様子を見に行った方が良い気がするな」

「なら俺と優馬で行こう。三人は二人が帰って来た時の為にここで待っていてくれ」

「りょーかい。俺ちゃんがしっかり鞄を見ておくよー」



 河野達三人を残し、海谷と一緒に倉庫へと向かう事に。

 倉庫は校舎の裏手にあり、自分達の居る場所からでは見えない位置に建てられている。とは言えここから歩いて行くのにそう距離もなく、五分もあれば辿り着いてしまう。

 倉庫は扉が閉められているのが遠くから見て分かり、誰かが使った形跡は無かった。だとしたら二人はどこに行ったというのだろうか。



「うーん……やっぱりおかしいよな。真がどこかに行くとは思えないし」

「だな……」



 倉庫の近くまでやってくるも、やはり二人の姿は見当たらない。一体どこに行ったものかと倉庫に凭れ掛かろうとしたその時だった。



「────そこに誰かいるの?」



 倉庫の中から微かに聞こえてきたのは、紛れもなく立石の声だった。




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