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第一章 <一学期編>
13/22

運命を導く定理③

ちょっと期間開いたけど更新。



「まぁ、取り敢えずそこに座ってくれ」



 普段と違う雰囲気を纏う山沢先生に脅……促され、情報室内の回転椅子に座らされる。鞄を足元に置き、先生の方に目を向けると、額に手を当てて何やら考え事をしているようだった。恐らく自分に聞かれてしまった前提で、どうするか思案しているのだろう。



「……そうだな、まずはさっき聞いた事は誰にも言うな。まぁ、言った所で他の奴が信じるとも思えないし、お前が他の奴に言うメリットも無いだろうけど」

「それはそうですけど……どうして?」

「ん、それは入れ替わりをしている理由についての質問か?

それとも……どうして俺なのか、って質問か?」



 この先生が言う通り、気になる点は二つあった。一つは言うまでも無く、さっきの電話の内容について。もう一つは、授業をしている時と明らかに様子の異なるこの先生について、である。

 どちらも気になるので「両方です」と答えようと口を開こうとするも、先に先生の方が口を開いていた。



「ま、どうせ重要な部分を聞かれてしまった訳だし、話せる事は話そう。

見た所、そういうの聞かないと気が済まないみたいだしな」

「……良いんですか?」

「良くはねぇよ。でも、言わない方がもっと良くない事になりそうだしな」



 はっ、と短く息を切って口元を歪める先生の言う通り、自分の納得のいく回答が貰えるまで居座るつもりだった。傍から見れば相当質の悪い生徒かも知れないが、知的好奇心は抑えられないものである。この先生は、相当物分かりの良い人のようだ。

 これから大事な話がされると思うと、自然と居住まいを正していた。そして、それを見ていた先生は小さくため息を一つ落とし、そしてゆっくりと話し始めた。



「……元々、ここに来る筈だった山沢は勤務する一週間ほど前、三月の中旬に大きな事故に巻き込まれてな。幸い一命は取り留めたが、両足骨折で全治五か月。夏休みが終わるぐらいまで復帰出来なくなってしまってな。

真面目というか心配症だった山沢は、自分の怪我の事なんて棚に上げて、この一学期をどうするか真剣に悩んでてな。『先生が事故で暫く来れません』って言って生徒の不安を煽りたく無かったんだろう、何とか授業をする方法を探していたんだ」

「それで……先生と入れ替わる事を」

「あぁ。一応俺も教員免許を持っているし、生徒に教える事ぐらいは難なく出来るからな。山沢が校長先生に直々にお願いして、了承を得たって訳だ。ホント、今自分で言ってても無茶苦茶な話だと思うわ」



 苦笑する先生だがその表情から嫌味は感じられなかった。それだけこの先生は相手の事を分かっているのだろう。少しだけ、そういうのが羨ましく感じてしまう。



「仲良いんですね」

「もう二十年近い付き合いになるからな、大抵の事は笑って済ませられる。

で、大体の説明は以上だけど、何か聞きたい事はあるか?」

「……先生の名前は?」



 自分が知っているのは怪我をしてこの場に居ない”山沢先生”という名前だけ。目の前の先生が山沢先生ではないと分かった今、まずは呼称が必要である。



「あぁ、俺の名前は木崎(きさき)虎太郎(こたろう)だ」

「では木崎先生。もし山沢先生が完治したらどうするんですか?」

「あー、まぁ、それは山沢が考えてるだろ。俺は言われた通りの事をするだけだし」

「良いんですかそれで……」



 得意げに語る山沢先生、もとい木崎先生に苦笑して返し、自分の中で靄になっていた部分が晴れたような気分になる。蓋を開ければとんでもない内容だったが、受け入れられない話と言う訳ではない。

 他に聞きたい事は特に見つからず、この先生の事だから何を聞いても「それは山沢が考えてるだろ」と返してきそうなので、少しだけの質問で切り上げる事にした。木崎先生に授業の準備があるとか何とかで教室に戻るように言われ、鞄を持って情報室を後にしようとドアに手をかけると、後ろから声が飛んでくる。



「まぁ、その、何だ。黙っててくれるなら貸しイチな。

もしお前が何か困るような事でもあれば、出来る範囲で手助けしてやる」



────ズルい先生だ、と心の中で文句を言って、情報室を後にした。













*────────────*





 木崎先生との一件の後、特に何事も無く普段通りの一日が過ぎていった。当然先生の数学の授業もあったが、いつものですます調の言葉遣いの先生だった。素の先生を知っている身としては違和感なのだが、そう言えばこれは山沢先生の真似なのか、それとも仕事モードという奴なのだろうか。前者ならともかく、後者なら末恐ろしい先生だと思う。

 そうして今日の分の授業を全て受け終え、残るはLHR(ロングホームルーム)。今日は事前に予告されていた通り、体育大会での種目決めをする事になっている。



「えっと、では体育大会の種目決めをやっていきます。

男子も女子も、副委員長を中心に話し合って決めて下さい」



 教卓の所に立ってそう切り出すのはクラス委員長の三島(みじま)透子(とおこ)。彼女もまたハキハキとモノを言うタイプで、それもあって学年で唯一の女子クラス委員長を務めていたりする。本当に、ここのクラスには火種になりそうな性格の持ち主がわんさかいるらしい。

 三島さんは男女それぞれの副委員長に一枚の紙を渡し、女子の方へと戻っていく。去年の感じからするに、女子は淡々と話し合って決めていくので、割とすぐに決まっていた気がする。対照的に、男子の方は本当に決まらない。理由は全て副委員長にある。



「さ、じゃんじゃん決めちゃおうぜ~」



 幸か不幸か、男子の副委員長は零善(ヤツ)だったりする。去年の最初の頃の副委員長決めの際、判断基準として「発言力がある」「部活動に属していない」を定めた結果、零善になっていた。きっと多くの人が思っているだろう、過去の自分を殴ってやりたい、と。



「去年はアレだったけど、こんなのノリで何とかなるっしょ~!!」



 一人ハイテンションで司会進行を零善が務める傍ら、男子の表情は皆引き攣っているように見えた。各自去年の惨状を思い出しているのだろう、今年も中々決まらず、放課後も残って決める羽目になるのでは、と。

 結局皆の想定は正しく、女子が早々と種目を決め終えて帰っていく中、男子だけは終礼のチャイムが鳴った後も残って、零善に不満を言い続ける事になるのだった。





クラスに一人は居る「何事も話し合いで決めてしまいたいタイプ」という奴ですね。本当に厄介……w



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