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アンダー18  作者: FALSE
第一章 <一学期編>
10/22

青天の霹靂⑤

学生の心情は流れる雲のよう、って何かの本で見た気がする。

流行と心情はどこか似ているのかもしれない、そんな話(?)です。






 長かったような短かったようなGWが終わり、久しぶりの登校日の朝を迎えた。充実した休暇を送れたか、と問われれば少し返答に困ってしまうが、やるべき課題も終わらせた上に普段以上に睡眠を取れているので、そういった意味では充実したのかもしれない。

 登校日は前日の天気予報通りの雨で、今年に入って余り活用していなかった傘を手に学校へ向かう。アスファルトを雨滴が打つ音は、聞く人によっては自然の演奏にも取れるのだろう。自分は何の感想も抱かないが。

 長期休暇の影響で普段より家を出るのが早かったので、上りの電車でも珍しく人混みに圧し潰される事は無かった。少し時間が違うだけでこれだけの快適さが生み出されるのであれば、今後もこの時間に登校しようかな、などと考えてしまう。そこは明日の自分と要相談、という事で。


 高校には思いの外早く着いた。どうもこの時間帯は人の出入りが少ないらしく、自分以外に学校に入ろうとしている生徒が数人、指で数えられる程度しかいなかった。入部している部活の朝練がある学生はもっと早く登校していて、そうでない生徒はラッシュに巻き込まれるもう少し後の時間から登校し始める、と予想してみたりする。



「……あ」



 校舎の屋根の下にさっさと入ってしまい、傘に付いた水滴を落としてから畳む。そうして下駄箱に向かうと、そこには先にスリッパに履き替えていた桝本の姿があった。



「……何?」

「あ、あぁいや。お早う」

「ん、おはよう」



 この大型連休もあってか、彼女と会話をするのがどうにも久しく感じ、つい不自然な反応を取ってしまう。こういう部分は、道化師にはなり切れないようだ。



「課題どうだった?」

「んー、あたし的には面倒だった。無駄に課題多いよねこの学校」

「まぁ一応進学校名乗ってるしな」

「入ってみないと分からない進学校なんて、進学校じゃないでしょ」



 どうやら彼女にとってこの期間に出された課題には大いに不満があるらしく、わざわざ学内で学校の事を否定し始めた。言っている事は割と真っ当なので、隣を歩く自分は苦笑せざるを得なかった。言いたい事をズバッと言ってしまう桝本は、どうやら健在らしい。


 雨の日の校舎は少し薄暗い。窓の位置や数が影響しているのだと思うが、白や肌色の壁を使っているにしては、晴れの日との差があり過ぎる。こうも薄暗いと不気味というか、自分の気分まで沈み込んでしまいそうになる。

 階段を上り教室へ向かう間も桝本は正当な学校の不満を吐き出していた。それ程までに普段から溜め込んでいたのだろうか、それとも、このどんよりとした校舎がそうさせているのだろうか。



「……じゃ、また」

「ん、あぁ」



 教室に入ろうと扉に手を掛けると、後ろで彼女が離れていくのが分かった。恐らく彼女は自分に気を使ったのだろう、この間癇癪(かんしゃく)を起こした彼女と居る所をクラスメイトに見られるのは自分の印象に響くかもしれない、と。

 桝本はサバサバした奴だが、気の回る奴でもある。だからこそ一年間も相性の悪い河野のいるグループに居た訳で、そういう彼女だと分かっているからこそ、例の件は本当に我慢の限界に達したのだと悟ってしまう。



「あ、和泉くんおはよう」

「ん、お早う」



 扉を開けて自分の机に向かおうとすると、既に後ろの席の伸正は登校していたらしく挨拶を交わす。理由は聞いた事は無いが、彼はいつも朝早くに登校している。



「GWは周回手伝ってくれてありがとう。お陰で完走できたよ」

「完走って、どんだけやり込んでるんだよ……」

「まぁ、周回なら宿題しながらでも出来るからね」



 ソシャゲのイベントを完全クリアする事を完走するというのだが、当然のことながら相応の時間を吸い取られてしまう。それをさも宿題をするような感覚で完了報告するのだから、伸正が如何に廃人なのかが良く分かるだろう。因みに自分は彼の手伝いをした以外では殆どプレイしていなかったりする。



「それで、課題は終わったのか?」

「まぁ、うん。昨日ほとんど徹夜みたいな感じになったけど、何とかね」

「課題の優先度下げたな伸正……」






*────────────*






「────よし、これでHRは終わりだ。気を付けて帰れよー」



 休暇明け一発目の学校も難なく終わり、終礼も宿題回収ぐらいですぐに終わってしまう。窓の外では雨粒が際限なく降り注いでいる、これは校舎を出るまでに止みそうにもない。

 課題は全て出せたし、忘れ物は何一つなかった。後ろの方で零善が何やら騒いでいたが、どうせ奴の事だから持って来るのを忘れたとかそういうオチなのだろう。あの勉強会を無に帰すオチまで作るとは、流石は零善。到底真似できないし、真似しようとも思わない。



「また明日な優馬」

「おう」



 こんな雨の日でも部のミーティングがあるとか何とかで、海谷はそそくさと出て行ってしまう。河野と立石もきっと同じような理由なのだろう、教室を見渡すが二人の姿は既に無かった。となると今日は五人……いや、四人(・・)になるのだろうか。



「あの……桝本さんちょっといい?」

「ん、何?」



 珍しい事に教室の反対側では、クラスの女子が桝本に話しかけていた。桝本とその女子とは特に仲が良いという話も聞いたことが無いし、去年一年、二人で談笑している所を見た事もない。要は彼女が一人になったから話し掛けた、という事なのだろう。桝本もその子に気が付いているのか、見た感じ少し不機嫌そうである。



「その、お菓子作り好きって聞いたから、桝本さんさえ良かったら家庭科部に遊びに来ないかなって」

「……」

「え、っと……急に、って思うかもしれないんだけど、実は新入部員が少なくて。

ホントいきなりでごめん、でも、良かったら考えて欲しいなって」



 料理部の女子は最初こそ下心ありそうな様子で話していたものの、目の前で黙り込む彼女を見て本音の部分も話すようになっていた。彼女の寡黙が、いい方向に働いたようだ。

 桝本は女子の話を最後まで聞き終えると机の上にあった筆記用具を全て鞄に放り込み、今まで向けてなかった目線を女子に合わせて口を開いた。



「……もし畠中(はたなか)さんがあたしを誘う理由をちゃんと言わなかったら、多分断ってたよ。

でもまぁ、うん。良いよ。今から?」

「ホント!? うん、今から家庭科室で始めるからっ」

「分かった。じゃあ行こっか」



 彼女の承諾に手放しで喜ぶ女子、畠中さんだっけ、その畠中さんはすぐさま自分の机から鞄を取ると、彼女の手を引いて教室から出て行ってしまう。

 正直なところ、まだ目の前で起こったことが信じられないでいる。集団行動とかに重きを置くタイプではない桝本が、あんなにも簡単に畠中さんの言葉を受け入れ、そして別の輪に入っていくなんて。自分の知る彼女なら、今更話しかけてきたという事実だけで受け容れなかった筈である。



(……アイツなりに、考えた結果なのだろうか)



 あの件の後に彼女が一体どんな事を考え、どんな思いで居たのかは彼女にしか分からない。ただ、それでも、今までの彼女を知っている自分の目には、どうしてもあの彼女が別人のように映ってしまったのだ。

 本当ならば彼女に表立って話し掛けてくれる人が居た事を喜ぶべきなのだろう。しかし、今の自分には、それを素直に喜ぶことが出来なかった。喜べない自分に、どこか焦りすらしたのだった。






この『青天の霹靂』編はここでおしまいです。

メインはグループの取り巻く環境が変わった、それを題材にしています。


不定期更新ですので、もし続きを読みたいと思って下さったらブクマをして頂ければと思います。

感想・コメント、誤字脱字報告もお待ちしています。


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