五つ子のお母さんのパラドクス
むかし、むかし、あるところに、五人の五つ子とそのお母さんが住んでいました。
五人の顔はみんなそっくり。
性格もみんな、やんちゃ。
いつも競ってばかりです。
「僕が一番だ!!」
長男が言います。
「「「「いや、僕が一番だ!!」」」」
すると、次男、三男、四男、五男が、全員でそれに反論します。
「「「「「いや、僕が一番だ!!」」」」」」
そのあとは、決まって、取っ組み合い(とっくみあい)のケンカが始まります。
五つ子の力はみんな同じくらいなので、なかなか決着がつきません。
「こら、ケンカはやめなさい」
ケンカに気付くと、お母さんが止めに入ります。
しかし、やんちゃな五つ子です。
なかなかケンカは収まりません。
毎日、お母さんも困り果てていました。
そんなある日、お母さんは名案を思いつきました。
お母さんは五つ子を呼び出し、こう切り出します。
「五人だけで争う時は、三番の人を一番とします」
「三番の人を一番? じゃあ、もともと一番の人は?」
訊いたのは長男です。
「一番の人は、二番になるわ」
お母さんは答えます。
「じゃあ、もともと二番の人は?」
訊いたのは次男でした。
「その人は、三番ね」
お母さんは答えます。
「じゃあ、四番の人は?」
三男が訊きます。
「四番の人は、そのまま四番じゃないか」
四男が答えます。
「そうね」
お母さんは頷きました。
「じゃあ、五番の人も、五番だね」
五男が納得したように言います。
「その通り」
お母さんはまたも頷きます。
「貴方達、五人だけで争う時は、今日から、三番が一番よ」
「「「「「はーい」」」」」
五つ子たちは、元気な声で返事をしました。
…………
……
翌日になりました。
「僕が一番だ!!」
言い出したのは長男です。
「「「「いや、僕が一番だ!!」」」」
また、いつものように5人でケンカが始まります。
お母さんがそれに気づいて言います。
「ここで、一番になったら、その人は二番ね。さあ、一番は誰?」
(((((そうだ。ここで一番になると、二番になっちゃう……)))))
すると……
「長男に一番を譲るよ」
言い出したのは次男です。
「いや、ここは、五男がなるべきだ」
長男が五男に勧めます。
「僕なんかより、四男が……」
五男は四男に勧めます。
「いやいや、三男のほうがむいてると思うよ」
四男は三男へ勧めます。
「次男を差し置いて、一番にはなれないよ」
三男は次男に勧めます。
「いや、ここは長男が……」
次男はまた、長男へ勧めます。
堂々(どうどう)巡りです。
それを見て、お母さんは、にやりと笑いました。
そうです、お母さんは、こうなって、ケンカが起きないだろうと予想していたのです。
その翌日のことです。
五つ子は、外に出て、誰が一番はやく走れるかを競争しました。
お母さんが審判です。
「いちについて、よーいドン」
五人は一斉に駆け出しました。
全員せり争っていますが、長男が少しだけ前にでています。
ゴール直前になり、長男は急ブレーキをかけました。
それを見た、次男、三男、四男、五男もゴール目前でブレーキをかけます。
「あら? どうしたの? みんな立ち止まって」
お母さんは訊きました。
「「「「「だって、一番の人は、二番になっちゃうんでしょ?」」」」」
五人は声をそろえて聞き返しました。
「だったら、全員、一緒にゴールすれば、全員が一番じゃない?」
お母さんが提案します。
「「「「「そっかー、そうだよね。じゃあ、みんなで一斉にゴールしよう」」」」」
こうして、全員が一番になりました。
「これでいいのかな?」
お母さんは呟きました。
自然に争わせて順位をつけるのが良いのか、それとも、全員が一位になったほうがいいのか……
お母さんは、少しだけ複雑な気持ちになりました。
翌日
5人は、相撲大会をすることになりました。
「それじゃあ、トーナメント表をつくりましょう」
お母さんが提案します。
はじめて見るトーナメント表に、5人は興味津々(きょうみしんしん)です。
できあがったトーナメント表を見て、5人は訊きます。
「「「「「ねえ、三番になりやすいのは、どこ?」」」」」
「この、シード権がないところね。逆にシード権があるところに決まると、三位にはなれないわ」
お母さんは答えます。
「「「「「シード権があるところは、絶対三位になれないの?」」」」」
五人は口をそろえて尋ねました。
「そうね。三位にはなれないわね」
「「「「「じゃあ、僕がシード権のないところ」」」」」
いつものように取っ組み合いのケンカが起こりそうです。
「じゃあ、じゃんけんで決めましょう」
平和に解決するために、お母さんは勧めます。
「「「「「ジャンケンなんて、運じゃないか。運に任せるなんてできないよ」」」」」
全員、拒否しました。
「わかったわ。トーナメントではなく、総当たり戦にしましょう」
お母さんは提案します。
「「「「「総当たり戦?」」」」」
「そう、これなら、運に頼らずに、勝負できるわ」
お母さんは、アイディアをひねり出しました。
「「「「「よし、それにしよう」」」」」
5人も、目をきらきら輝かせています。
「総当たり表っていうのは、勝ったら〇。負けたら×をかいていって、〇の数の合計で順位を決めるのよ」
お母さんは説明を織り交ぜながら、総当たり表を作ります。
「さあ、できたわ」
お母さんが行事となり、相撲開始です。
のこった、のこった……
ところが……
全員、2勝2敗の同順位となってしまいました。
お母さんは不思議に思いながらも、もう一度総当たり戦を5人にやらせました。
何回やっても、全員、2勝2敗です。
お母さんは気付きました。
「そうか、5人が全員三位をとろうとすると、結果的に、2勝2敗になってしまうのか……」
自然にケンカをさせておいたほうがいいのか、不自然だけどケンカを止めてがいいのか……
どちらが正解か分からず、お母さんは、また困り果ててしまいました。
みなさんならどうしますか?
感想お待ちしています。
いたあめ(しろ)なら、お母さんも五つ子の中に入って、6人で競わせます。
五人じゃなければ、全力で戦えますよね?
そういうことじゃないですね。はい、すみません。