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Lily〜気高き花〜  作者: 愛菜
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会見

2020年12月24日 18時30分


「皆さま、本日はお集まり頂きまして誠にありがとうございます。

定刻となりましたので、只今よりGiglio Bianco CEO Lilyによる会見を始めさせて頂きます。

なお、15分前にお配り致しましたタイムスケジュールに則り進めさせて頂きます。

また、質疑応答の前に皆さまからお言葉があるようでしたら、その時点で会見を終了となります事をお心に留めて頂けますと幸いです。」


葵の滑舌の良い落ち着いた声が会場中に響き渡る。

最後のひとことがかなり威圧的だった。

隣のイタリア人記者に目を向けると、イヤホンをしていた。

きっと同時通訳なのだろう。

タイムスケジュールは、10分の彼女からの言葉その後に20分の質疑応答。

それしか記されていない。


舞台袖から純白のドレスを身に纏い、トレードマークの漆黒のサングラスをかけた彼女が優雅に姿を現した。

発表されていないウエディングドレスということもあり、フラッシュ音と共に歓声があがった。


一本の糸に吊るされているかのように姿勢が良く、そしてゆったりと歩く姿は気品に溢れている。

舞台の真ん中に設置してある豪奢な椅子の横へ立ち止まり、一礼をしスタッフが近くまで来るまで座ろうとしない。

スタッフも反対側の袖からゆったりと彼女の側までくると、椅子を引き彼女が腰を落とすのに合わせる様は一流の執事にすら見えた。

彼女は腰掛けるとふんわりと微笑む。

日本では古くから美人の形容詞に‘立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花’とあるが、強ち間違いではないということが窺いれる。


会場の騒がしさは変わらずだが、彼女はセッティングされていたマイクを手に取った。


「本日はお越し頂きありがとうございます。」

流暢なイタリア語で彼女が喋り始めたのに合わせ、葵が日本語で同時通訳をする。


彼女の日本語は聞くことが出来ないのか…と思った矢先、葵は通訳する事をやめた。


「日本で会見しているのに、イタリア語というのもおかしな話ですね。

ここからは、日本語でお話しさせて頂きます。」


彼女が流暢な日本語を使い始めたことに、日本人記者の喧騒が一際大きくなった。


「私、Giglio Bianco CEO Lilyは本日を持ちまして、CEOを辞任し一線を退くこととなりました。

後任は、追ってお知らせさせて頂きます。」


スッとマイクを机に戻し、後ろに立っていたスタッフが椅子を引く。

彼女は立ち上がったと思ったら、すぐに頭を下げる。


不祥事を起こしたものの謝罪のような90度の礼ではなく、軽く膝を折りドレスを少し持ち上げる様は演技を終えた者のように見えた。


彼女が頭を上げ、席にもう一度着こうとした際

「なぜ急な辞任を発表されたのですか?」

後方からの大きな声が遮った。


彼女は何事も無かったかのように、降ろしかけた腰を上げ一礼し舞台袖にゆったりと優雅に歩いて行った。


「始まる際にお話したように、質疑応答の前に質問がございましたので本日の会見は終了とさせて頂きます。

皆さま、本日は誠にありがとうございました。

お気を付けてお帰り頂きますよう、心よりお願い申し上げます。」


なんて事をしてくれたんだ。

彼女の言葉はまだ続く予定だったのに、1人の記者が質問を投げかけたことにより会見は終了。


あの記者への制裁は既に始まっているようで、同業者からかなり白い目を向けられ当人へ避難が集中している。


『すみませんが、このメモなんと書いてあるか教えて頂けませんか?』


左隣に座っていた記者からイタリア語で声をかけられ、差し出されたメモに目をやる。


『‘18時45分にスウィートルームにてリリー様がお待ちです。右隣の日本人記者を連れて来て下さい。’と書かれています。』


素直に読んだが…え??


『ありがとうございます。では、すぐ伺いましょう。あと3分しかありません。』


イタリア人記者はすぐにパソコンを鞄に詰め歩き出す。

私も習い後を追いかけながら会見場の最後尾にいたカメラマンに「用が出来たから先に帰社して欲しい」と声をかけた。


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