「ミトと滅びの呪装」
~~~フルカワ・ヒロ~~~
戦隊モノに出て来る悪役じゃあるまいし、カーラたちも何もせずにこちらの準備を眺めていたわけではなかった。
ミトが死霊術を使い、無数のスケルトンを呼び寄せ使役していたのだ。
この湿地帯で命を落とした者たちなのだろう、身に着けているのはボロ切れになりはてた衣服や鞄。武器はせいぜいナイフか小剣ぐらい。
強い個体でもレベル10がせいぜい(この辺は生前の能力に左右されるらしい)。
「20……30……。数は多いけど……なんだ? 盾にでもするつもりか?」
「盾にするには薄っぺらすぎると思うけどねえ……。ま、ヒュドラのスケルトンとかでなくて良かったなって思ってればいーんじゃない?」
レインはどうでもよさげに言うと、腰から二本の風啼剣を引き抜いた。
「おそらくだが、盾というよりは棒として扱うつもりであろうな」
「……棒? 何それ、何かの隠語?」
「んふふ。論より証拠だな。まあ見ておれ」
俺の質問をおかしそうに笑うと、アールは顎をしゃくるようにしてスケルトンたちを示した。
なんだろうと思い見ていると、スケルトンはミトの命令に従い二列横隊になってまっすぐ進軍。
前の個体が底無し沼に呑み込まれると、他のスケルトンはそこを迂回するようにしてさらにこちらに進んで来る。
「あ、そういうことか。スケルトンを特攻させて、どこに底無し沼があるかを無理やり探るつもりなのか」
アンデッドの兵士にだからこそ出来る無茶な命令。
だが、たしかに効果的だ。
「ど、どうすんだよ。このままじゃどこに底無し沼があるかがモロバレになっちまう」
こちらにとって有利なのは、アールが底無し沼の場所を把握していることだ。
だからこそカーラたちはまっすぐこちらに進んで来れないわけで……。
「なら、すべてがバレる前に片方を潰してしまえばいいのだ──ついて来い!」
アールは目を細めると、戦鎚を肩に担いで左へ走った。
左へ、左へ。
スケルトン部隊を迂回し、左端にいるミトの背後に回り込むような動きをした。
なるほど、カーラとミトをふたり同時では勝てないから、まずは全力でミトを潰すつもりなのか。
すぐに理解した俺たちは、アールの後を追いかけた。
「あらあら、ようこそ」
さすがは七星というべきだろう。
四人全員がスケルトンを無視して自分に向かって来るのにも関わらず、ミトにはいささかの動揺も見られない。
「なかなかいい手ね。だけどわかっているのかしら? それって、わたしを速攻で倒すことが出来て初めて有効な手なのだけど」
たしかにミトの言う通りだ。
カーラとミトとの間は、間に巨大なヒュドラの死体が立ちはだかっているおかげもあり、そこそこに距離が離れている。
迂回してくるか飛び越してくるかはわからないが、いずれにしろカーラ到達前にミトを倒さなければならないわけで……。
「ここで救われるのを待つのも素敵だけどね……」
ミトはふふと笑うと、魔杖を掲げた。
「『──蜿蜒とうねる者。影の中を這いゆく者』」
蝋細工のように白くなめらかな肌に、宙から生じた黒い霧がまとわりついていく。
霧は固化し、ビニール素材の衣装のように張り付いていく。
「『その牙には毒がある。鱗には棘がある。触れれば爛れる。内から腐る……蛇骸結合』!!」
力ある言葉を唱え終えると同時、ミトの双眸以外のすべてを、毒々しい黒い衣装が覆い尽くした。
「『滅びの呪装』だと!?」
驚きの声を発するアール。
「……ねえ、何その怖い名前の」
聞きたくはないけど聞かねばなるまいと、半ば嫌々訊ねると……。
「かつて大陸を支配した偉大なる王の呪いを身に帯びる魔法だ。付与系の最上位だが、禁呪でな、長い間使い手のいなかったものなのだが……」
「けっこう禍々しい見た目してるけど、あれに触れたらどうなるの?」
「呪いにかかり、触れたところが腐り落ちる。肉も、金属すらも」
「……わあーお」
「触れたところを即座に斬り離すしか対処法が無いが、そういう意味では勇者殿なら大丈夫だな。あ、なんだったら耐えきることすら可能かもな」
「全然大丈夫な話じゃないんだよなあー……」
ぶつくさ言っても、戦いを避けられるわけじゃない。
俺たちは、やむなく突っこんだ。




