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勇者のハラワタは美味いらしい  作者: 呑竜
「第四章:勇者一人前」
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「絶望の到来」

 ~~~アール~~~




「はっはっはーっ、よくやってくれたぞ! ベラ! レイン!」


 ベラとレインの成し遂げた偉業を、アールは満面に笑みを浮かべて歓迎した。


 とはいえ、それですべてが解決したわけではない。

 厳然として(ベックリンガー)は目の前に残っている。

 この超重量級の怪物を倒すことが出来るのはアールだけ。

 何をおいてもそれを成し遂げないことには、話が始まらない。


「『魔女の強打ウィッチーズ・ストライク』!」 


 アールはその場でくるりと体を回転させると、勢いのついた戦鎚ウォーハンマーを振るった。

 

「む……お……っ?」


 強烈な一撃を横腹に受けたベックリンガーは、一瞬動きを止めた。

 亡霊騎士(アンデッド・ナイト)である以上、痛みによるものではないだろう。

 純粋に衝撃によるものだが、いずれにしても隙ではある。

 アールはそこへすかさず畳みかけた。


「『ぜろ』!」


 力ある言葉(コマンドワード)を唱えると、戦鎚の柄頭の後部のハンマー部分から「キュドッ」と猛烈な勢いで炎が噴き出した。


「『魔女の大騒ぎウィッチーズ・ライオット』!」


 ロケットのような推進力を得た戦鎚で、アールはベックリンガーの全身を猛然と殴りつけた。

 左踵、右膝、左臀部、右脇腹、左首筋──竜巻のような連打、連打、連打。


「ぐ……が……あ……っ?」


 アールの猛攻に、ベックリンガーの体は左へ右へ大きく揺れた。

 鉄棍(アイアンメイス)大盾タワーシールドこそかろうじて保持しているものの、ほとんど無抵抗状態。

 

 ──……だが、とどめを刺すまでには至らぬか。


 この連打を最後まで決めても、倒すことは出来ないだろう。

 死に体ではあっても、完全に無力化は出来ない。

 

 ──空恐そらおそろしいほどの生命力だが、それならそれでやりようはある……! 


 右側頭部をガツンと叩いた後、アールはくるりと体を回転させた。

 火を噴いたままの戦鎚を大きく振り回すと、両足を踏ん張り、大盾の中心を思い切り叩いた。 


「『魔女の強打ウィッチーズ・ストライク』!』」


 最大級の衝撃を受けたベックリンガーは、堪らず後退した。

 よろめき、黒く濁った沼に尻もちをついた──瞬間、全身が腰まで水に沈んだ。 


「…………っ!?」


 ぎょっと目を見開いたベックリンガーは、鉄棍(アイアンメイス)大盾タワーシールド放り出して脱出しようと試みた。

 しかし底無し沼の深遠は、彼を捕らえて離さない。

 むしろ暴れれば暴れるほどに強く絡みつき──そしてとうとう、全身を呑み込んだ。


「筋力も生命力も役に立たぬ絶望を思い知るがいい」


 そう言い捨てると、アールは額に浮いた汗を拭った。


 ──「もう、アール。ダメでしょ? 泡立つ水面の下には高確率で底無し沼があるって教えたじゃない」──


 かつて底無し沼にハマって死にかけた自分を救ってくれたトーコの言葉を思い出しながら、「んふ」と笑った。

「なんでも覚えておくものだな」と。 

 懐かしさに頬を緩めながら、戦鎚を肩に担いで走り出した。


 目指すはジャカ。

 ヒロを脅かしているのを横合いから殴りつけるのだ。 


 そして──

 そうして──

 この戦闘を、終わらせるのだ──


 希望に満ちたアールの瞳は、しかし直後に曇ることとなる。


 彼女は気づいた。

 泥を跳ね上げこちらに向かって来る二頭の馬の存在に。

 その上に紛れもない、カーラとミトの姿があることに。


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