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勇者のハラワタは美味いらしい  作者: 呑竜
「第四章:勇者一人前」
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「ベラの1分」

 ~~~ベラ・ローチ~~~




 ベラが相手をしていたのはベックリンガーだ。

 アールが主攻しゅこうを務め、ベラが裏からコツコツダメージを積み重ねる。

 決して攻撃を受けることのない、言うならば負担の少ない楽な役割だった。


 ところが、ジャカとパヴァリアが参戦したことで状況が変わった。

 レインとヒロだけでは戦線を支えきれないだろうから、アールかベラのどちらかが応援に行かねばならない。


 どちらが行くかは決まっていた。

 というより、当たり前だ。

 ベックリンガーをベラひとりでは対処出来ない。


「アール様! わたしが!」


「…………頼む!」


 わずかの逡巡はあったが、アールは許可した。


 



 ──ベラが戦場に訪れた時には、ヒロたちはすでに追い込まれていた。


 主力であるレインが左肩を負傷してしゃがみ込んでいる。

 ヒロがスキルを連発してジャカとパヴァリアのふたりを相手にしているが、レベル差、経験の差を考えても、長くはもたないだろう。

 体力の問題ではない。精神力と集中力の問題。

 いつかどこかでミスを犯す。

 ミスにつけ込まれて体のどこかを失ってしまえば、もう終わり。

 捕まってしまえば、無限の体力も再生力も意味をもたない。


 怪我の具合と再生速度から、レインの戦列復帰まであと2分はかかるだろう。

 ヒロが驚異の粘りで1分稼げたとして、もう1分は……。


「……まあ、わたしの役目でしょうね」


 ベラは小さく笑うと、大鎌を構えた。

 ドナと共に技を磨いた愛用の武器を肩に担ぐと、走り出した。 


 狙いは──パヴァリア。

 ヒロがさんざん傷つけている、その左足。


「『三日月クレセントムーン』!」


 鎌系の武器による基本の斬り技で、大上段から思い切り斬りつけた。 

 武器そのものの重さに走り込んだ勢いまで加えて放った会心の一撃だったが……。


 攻撃がパヴァリアを捉えることはなかった。

 パヴァリアはひょいとその場ジャンプでこれをかわすと、無言でこちらを睨みつけてきた。


「……くっ」


 パヴァリアが片手で投じてきた鎖分銅による攻撃をなんとか避けたベラは、右へ右へと走った。


「こっちよ! こっちに来なさい!」


 会心の一撃を余裕で躱された。

 そのこと自体はどうでもいい。


「……倒すのがわたしの役目じゃないからね。粘って、粘って、なんとか1分稼ぎ出す。そうできればわたしの勝ち」


 ぼそりとつぶやきながら、ベラは走った。

 二十メートル……三十メートル……。

 リーチの長い鎖鎌による攻撃が、ヒロの身に届かないぐらいの位置までパヴァリアを引っ張った。


「さ、ここまで来ればいいでしょ。余計な加勢は入らないし、しようと思ってもそうそう出来ない」


 それはイコール、自らを死地にさらすという意味でもあるのだが……。


「来なさい、パヴァリア。ローチ姉妹最後のひとり、ベラ・ローチがお相手するわ」


 大鎌を右肩に担ぐようにして、ベラは構えた。

 

 暗殺者としてのベラのレベルは、ヒロのそれとほとんど変わらない。

 大鎌のスキルはそれなりにあるが、バチバチの戦闘職のそれとは比較にならない。

 ましてや王国第一軍団最精鋭である七星セプテムの、亡霊騎士アンデッド・ナイトとはいえその一員を相手にして、1分もたせるというのは容易なことではない。


 でも、やらなければならないのだ。

 でも、果たさなければならないのだ。


──「アール様! わたしが!」──

──「…………頼む!」──


 つい先ほどのアールとの会話を、ベラは思い出した。

 他に考える余地のない状況なのにも関わらずアールが逡巡したのは、おそらくベラの身の安全を考えてのことだろう。

 この期に及んでもなお、死んで欲しくないと思っているのだ。

 あのお嬢様は、ベラのことを。

 忌むべき殺人鬼であるこの身を。

 

(本当に……あなたって人はわかっていませんね)


 ベラはくすりと笑った。


(あなたがそういう人であるからこそ、ベラとドナ(わたしたち)は命を懸けてもいいと思うのですよ)


 大鎌を右肩に担ぐと、ベラはこうつぶやいた。 


「……ねえ、ドナ。力を貸して。王国最強の一角の攻撃を耐える力を。アール様のためにも。トーコ様の無念を晴らすためにも」

 

 そして──

 願わくば──


「みんなが無事に、生き残るためにも」

 

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