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勇者のハラワタは美味いらしい  作者: 呑竜
「第四章:勇者一人前」
38/51

「ヒロの1分」

 ~~~フルカワ・ヒロ~~~




「『筋力増強リーンフォース・ストレングス』、『魔法抵抗付与マジカル・プロテクション』、『物理抵抗付与フィジカル・プロテクション』」


 支援魔法を張り直して戦闘準備を整えた俺は──


「『疾走スプリント』!!!!」


 力ある言葉(コマンドワード)を発声、気合い一番踏み込んだ。

 ジャカへ行くと見せかけて、斜め後方にいるパヴァリアへ。


 しかし──さすがは七星セプテムというべきだろう、ふたりは即座に対応した。


「『三段突き』!」


 ジャカが振り返りざま槍で三段突きを繰り出し──


「『直撃ちょくうち』!」


 パヴァリアが俺を迎え撃つように鎖分銅を投じた。


「『曲走ベンド』!」


 この動きを読み切っていた俺は、パヴァリアの後方へ、スピードスケートの選手のような高速で回り込んだ。

 そして──


「『下段斬り(アンダースラッシュ)』!」 


 パヴァリアの後ろ足を、防具で護り切れないだろう左のふくらはぎの裏を狙った。

 小剣ショートソードは上手く命中してくれたが、HPの推移は7200→7190と軽微だ。


「はいはい知ってまーす!」


 精神的なショックみたいのは、まったくなかった。

 レベルも劣る、筋力なんか目も当てられない俺如きの非力なアタックで、多少なりとも損害を与えられたことがむしろ奇跡だ。

 

「『三日月(クレセントムーン)!』」


 鎖分銅を引き戻しながら、同時に鎌を振り回して攻撃してくるパヴァリア。  

 この攻撃を『跳躍ジャンプ』で跳んでかわした俺は──


「『下段斬り(アンダースラッシュ)』!」


 落下速度をこめた全力の下段攻撃で、パヴァリアの右の膝頭を斬りつけた。

 HP推移は7190→7175とちょっと増えたけど、ほぼ誤差。


「知ってる知ってる! だけどさあ……だからどうしたよ!」


 曲走で距離をとりながら、俺は笑った。


「こっちの体力に終わりは無いんだ! ダメージを食らったって即座に回復する! でもあんたらはそうはいかねえだろ! 亡霊騎士(アンデッド・ナイト)ったって、切れ落ちた肉や骨は繋がらねえだろう! だったら俺の方が有利だ!」 

 

 実際には、カーラ到着というゲームオーバーがある時点でこっちの不利。

 だけど俺は、自らを鼓舞するようにそう言った。 

 

「『流星群』!」


 素早く近づいてきたジャカが、槍の射程に入るなり秒間10発連続突きという大技を繰り出してきた。


「ぬお……!?」


 曲走の技後硬直が解けていなかった俺は、これを間一髪のところで避けた。


「勇者様気をつけて! いくらMPが回復するって言ったって、硬直の合間につけ込まれたら意味ないんだからね!」


 しゃがみ込んだまま左肩の傷の回復を待っているレインが、心配そうに叫んだ。


「わかってるわかってる! だからあんまり目立つなよ!」


 ジャカとパヴァリアのヘイトがレインに向かないよう、俺は大声で叫んだ。

 そしてすぐに──


「『疾走スプリント』……からの『下段斬り(アンダースラッシュ)』!」


 ジャカの横をすり抜けるように疾走しながら、同時に小剣を閃かせた。

 狙いはジャカの左膝。


 HP推移は7800→7770と、こちらもほとんどダメージは無いが、それでいい。

 ふたりのターゲットをこちらにもらいつつ、部位攻撃によって足を削る。

 レインが復活した暁には、そこがきっとつけ目になる。

 そこまでもっていければ俺の勝ちだ。

 

「ああーっはっはっは! 来い来い来おおおおーい! おまえらがお求めの勇者はここだぞおおおーっ!」


 俺は叫ぶと、派手に動き回った。

 ふたりの攻撃に身をさらしながら、ぎりぎりの回避を続けた。


 もちろん一筋縄じゃあいかなかった。

 七星の一角を担うふたり。

 最強の最高の最速の一撃を、俺は死に物狂いで躱し続けた。


「っくおああああああああ──」


 最初は読みで。

 だけどそれは、すぐに通用しなくなった。

 当たり前だ。

 ふたりと違って俺は戦闘のプロじゃない。

 ただ人より速くて、体力が無限ってだけ。 


「──ああああああちょ!? ああああああーっ!?」


 跳んだり転がったり、四つん這いになって移動したり──とにかく考えられる限りの、全力の機動を繰り返した。

 

 恥ずかしいは無かった。

 みっともないも無かった。

 ただただ全力の、切羽詰まった感覚だけが俺の背中を押していた。


「あああああああくそっ! おっかねえええええええ! っつうかなんでおまえらそんなに強えええんだよ! いったい何食って! どんな生活してたらそんな風になれるんだよ! 生まれつきの恵体けいたいだってか!? 家族環境に恵まれてたってか!? さらに理想的なトレーニングを積んで!? おかげさまで王国の第一軍団の最精鋭に選ばれて!? おうおうおう! そいつは良かったなあ! うらやましいや!」


 叫びながら──


「こちとら産まれてついての未熟児で! ほどなくして心臓を病んで! あげくの果てには実の親から見捨てられて! 精神的にも相当病んで! ようやく得た安住の地も、なんやかややっぱりそうじゃなくて! 違ってて! なんだよ勇者のハラワタは美味いらしいって! バカじゃねえの!? こっちにだって人権ってもんがあんだよ! そもそも自由なんだよ! 好きなように生きて! 好きなように死ねる権利があるんだよ!」


 罵りながら──


「わかるかよ!? その権利ってのにはさあ! 自由ってのにはさあ! 好きなコのために生きる権利と、死ぬ自由もあるんだよ! それは永久不変で! 誰にも取り上げられないもんなんだよ! いやいやいや、今まさに俺が具体的に誰を好きとか、そうゆーのがあるわけじゃないぜ!? あるわけじゃないんだけど……でも! このコは死なせたくないなとか、俺はともかくとしてこのコには生き延びて欲しいなとか、そうゆー気持ちはあるんだよ! ふつふつ湧いてくるんだよ! 動かしがたいものなんだよ! だから……!」


 理屈を超えた思いを口にしながら──


「だからさあ! 俺は絶対おまえらには屈しないんだ! 屈してやらないんだ! おまえらみたいな連中の思い通りには、絶対ならないんだ! おまえらがどれだけ手ぐすね引いていようと! 万全の計略を敷いていようと! 圧倒的な技を繰り出そうと! すべて! 残らず! 鼻先ですり抜けてやる! 絶対! 絶対! 絶対生き延びてやる! そして……! そして……!」


 ──とにかく俺は、必死で生き残ろうとあがいてた。 


「うおああああああああああ──」

 

 叫んだ。

 持てる限りの全力を、つま先から頭の頂きまでの全てを。

 血を、体液を、肉体そのものを燃焼するように。

 吼えるように叫んだ。


「──あああああああああああああああああーっ!」

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