「快楽の沼の底へ」
作者注:小説家になろうR18ガイドラインに抵触しないよう、一部表現に規制をかけております。
~~~フルカワ・ヒロ~~~
レインは有無を言わせず俺を押さえ込み、そして──
「〆◇£¢§☆◎○!?」
ぬめりと湿り気を帯びていながら驚くほどに熱い何かが、俺の首筋をツツーッと這った。
体の内側から思ってもみなかった快感が沸き起こり、俺は思わず変な声を出した。
「え? え? え? なんで!? 何今の!?」
「バ……バカバカ! 下に聞こえちゃうだろっ!? あんまり大きな声出さないでよっ!」
レインが思い切り文句を言ってくるが……。
「いやいやいや、だっておまえさあーっ!」
「もう……ほら、次行くよ?」
「え? ちょま……@▽%&¥¢〆≧!?」
レインの次の攻撃は、鎖骨に来た。
肉と骨の間の部分をゆっくりとなぞられると、これまた信じられないほどの快感が走った。
「もうっ、黙ってって言ったのにっ」
レインは不満そうに頬を膨らませると、鎖帷子の結わえ紐をほどいて外した。
何をするつもりかと思ったら、猿ぐつわみたいに俺の口にかませてきた。
「もがーっ!? もがががーっ!?」
「……ふふ、これでようやく集中して楽しめるね」
レインは悪い笑みを浮かべると、俺への攻撃を再開した。
「もーっ!? もんもーっ!?」
俺は慌てた。
自らの存在の根底すらも覆すような快感が全身を走り抜けて、狂ってしまいそうだ。
「もんもああああーっ!?」
「ああ……すごい、すごく美味しいよ勇者様……」
俺の汗や皮脂を口から摂取することで快感を得ているのだろう、レインは頬を紅潮させている。
「ホント、おかしくなっちゃいそう……」
熱くなってきたのだろう。レインは鎧下を脱ぎ捨てると、薄い肌着だけの姿になった。
真っ白な肌に汗で濡れた肌着がピタリと張り付き、凄まじく扇情的な光景になった。
「むぐ……っ?」
俺は思わず唸った。
体中の熱が一部に集中し、硬化を起こし始めているのに気づいた。
まずい。
ひじょーにまずい。
このままいくと、"ピー"が暴発してしまう。
女の子に襲われてなすすべなく暴発とか、さすがにそれは男としての沽券に関わる。
「むぐ、むぐぐぐ……っ」
もうやめてくれと言おうとしたのだが、猿ぐつわのせいで言葉にはならなかった。
「んんー? なんだい、勇者様も感じてるのかい?」
俺の様子の変化を見てとったのだろうレインは、口元をぐにゃりと歪めた。
嗜虐心に火が点いたのだろう、今度は俺の下半身へ猛烈な攻撃を加えて来た。
「もーっ!? もおおおおおーっ!?」
俺は必死になってかぶりを振った。
それ以上はいけないと、全身を使ってアピールしたのだが……。
「ふふふふふ……赤ちゃんみたいに悶えちゃって。可愛いねえー、勇者様」
俺の太ももの間から顔を上げたレインはにんまりと笑みを浮かべると、さらに上の方へ攻撃を……。
「……ん? これなぁに? さっきまでこんなの無かったのに、どこから出て来たの?」
血流が流れ込み硬直化した"ピー"を不思議そうに眺めるレイン。
「なんだろう、すごく硬くて……。棒みたいな……でも熱いし、体の一部……?」
突如現れたそいつが何者なのか、大真面目に考えて、考えて……ようやく気づいたのだろう。
レインの表情がカチンと音を立てて凍り付いた。
「え、え、え……? これってもしかして、お──」
ここまでやっといて今さらそこに驚くのかよという話だが、想定外の精神ダメージを負ったレインは、夢から覚めたみたいな表情になった。
「や、え、わ、は……っ?」
裸同然の自らの格好に気づき──慌てて鎧下を取り上げ、体の前を隠した。
「あれ? どうしてこんなっ? 誰がいったいこんなことをっ?」
「おまえだよ、っつーかおまえしかいないだろ」
口にかまされていた猿ぐつわを外すと、俺は思い切り文句をぶつけてやった。
「ったく、いきなり襲って来やがって。痴女かおまえは」
「ち、ち、ち、痴女ぉぉぉっ!? それって誰のことを言ってるつもり!?」
「心外、みたいに言ってるけど、それもおまえしかいないだろうが。なあ、冷静に思い出してみろよ。ついさっきまで自分がしてたこと」
「…………っ!!!?」
ガーンとショックを受けた様子のレイン。
「あのさ、そろそろどいてもらえないかな? 誰かさんのせいで体中べとべとで、さすがに体を拭きたいんだけど……」
まだ俺の上に乗っているレインをどかせようとしたのだが……。
「──いや、その必要はないぞ」
バアアンとばかりにドアを開けて入って来たのはアールだった。
ピンク色のキャミソールにナイトキャップという意外にも可愛い夜着に身を包んだアールが、ドヤ顔をしながらこう言った。
「勇者殿の体液を大量に摂取して戦いに備えるのは、我らにとって何よりも優先させなければならぬことなのだ。つまりこれは合法。どれだけ勇者殿が嫌がろうと拒もうと、大儀はこちらにある」
「そ、そんな合法あるかよ……」
思わず震え声を出す俺。
「おや、ならば勇者殿は、戦いに敗れ七星に捕まってもいいと申すか?」
「いや、それはさすがに……」
「生きながらにして体を食われ、血を啜られ、この世の地獄を味わいたいと?」
「いや、うーん……」
「聞けば奴らは、勇者牧場を建設しようとしているらしいぞ? 今まではどうしても出来なかった勇者の血の子孫への遺伝を、再生スキル持ちの勇者殿ならば出来るのではないかと手ぐすね引いて待っているらしいぞ?」
「悪魔かよ……」
魔族であるアールよりもよっぽど恐ろしい人間の発想に、俺は震えた。
そして気づいた。
アールの申し出を断る理由が無いことに。
勝つためには、生き残るためには、他に選択肢が無いことに。
「それで、どうかな? 勇者殿」
キャミソールの下から覗く先端の尖った尻尾が、ゆらぁりゆらりと怪しく揺れている。
ナイトキャップの脇から突き出た山羊の角が、ランタンの灯りに照らされ輝いている。
「このまま続けるのか」
キャミソールの生地は薄く、目を凝らすとアールの肢体が透けて見える。
鍛え上げられ引き締まった太ももが、小ぶりながらも魅惑的な胸の膨らみがよくわかる。
「それともやめてしまうのか」
俺を精神的に嬲り、追い詰めることに快感を覚えているのだろう。
アールはニヤニヤと口元を歪めて微笑んでいる。
「ううう……っ」
悪魔なんだな、と思った。
今度は人間にではなく、アールに対して。
最初に出会った時に感じた、サキュバスみたいだなという印象は、やはり間違っていなかったのだ。
「うう……わ、わかったよ。俺のその……た、体液で良ければ、存分に味わってくれ……ください」
しぶしぶながら、俺は認めた。
悪魔の手に自らの肉体を差し出すことを、未体験の快楽の沼に浸かることを。




